飛ばない俺から飛べない君へ2

賢賢(たかけん)

旧東京・とあるビル

 カツン、カツン。

 甲高い靴の音が、古いビルの中に響き渡る。外は、夜明けを前にしており、東の空が薄っすらと明るくなっている。

 ここは、旧東京都にある200年前からほとんど整備されていない崩れたビルの中。

 そこに、一人の男が階段を上がっていた。

 男は、前側が大きく開いたジャケットを着ており、口には、白い棒を加えている。

 男は、一段一段ゆっくりと上がっていっている。

 カツ、カツ、カツ、カツ。

 そして、階段を上り終えると、すぐに立ち止まる。ビルの屋上には、一人の女性が立っていた。

 男よりは背は低いものの、それでも女性にしては高い方である。

 男は、女性を見ながら、ため息を一つこぼした。

「お前、昔から変わらないな……。自分の弟子を置いてくるというのは、どうなんだ?」

 男が言うと、女性は口にくわえたタバコを抜き取り、煙を吐く。

「大丈夫さ。そんな甘く育てちゃいないんでね。結構自信あるよ。10万かけてもいい」

「そんなことだから、有り金全部取られるんだ。アホ」

 バカなことを言う女性に、男は、あきれながら言葉を返す。足を進めていく。

「ようやく、ボケてきたのかよ。

 男が言うと、女性は肩を落とし、ガッカリしたように笑った。

「ダメだ。ダメだ。……ボケるどころかぐらいだ。……皮肉だろ」

 男は黙り込む。この会話も、もう何度目だろう。数えるのは、とっくの昔にやめていた。

 男が口を開く。

「……まぁ、のんびりするか。お互いもう爺婆だがな」

「……だな」

 そう言って、笑いあう。空も明るくなってきた。

 女性は、にぃと笑い、振り向いて男に言った。

「これからもよろしくな。腐れ縁!」

 その笑顔は、とても悲しそうで、夜明けという景色も相まって、





 とてもきれいだった。



 

「とこらでお前、タバコ吸わないんじゃなかったか?」

 男が答える。

「バカ。これは、棒キャンディだよ」

「……恥ずかしくないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛ばない俺から飛べない君へ2 賢賢(たかけん) @doragonn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る