13 天啓
いや、さすがにさあ……。
うん。さっき私の脚が短いとか言われて、ちょぉっっっとテンション上がってしまったのは内弁慶のマモル君からすれば周りの目が痛かったのかもしれないけれどさ、それでもさぁ……。
このゲーム、ロボットに乗って戦うゲームなのに自分の機体を勝手に乗ってかれて乗機が無いとかそんな展開あるぅ!?
しかも敵に機体を取られたとかなら百歩譲って分からんでもないけど、私のアシスタントであるマモル君がお遊び気分の模擬戦に乗ってったって!?
「えと、大丈夫ですか……?」
「だ、大丈ばない!!」
引き攣った私の顔を見て山瀬さんも心配してくれるが、それで状況が変わるという事もないのだ。
そうこうしている内にもノートパソコンに表示されている戦況は刻一刻と悪くなっていた。
1つ、また1つと青い光点で表示される味方は画面から消失し、代わりを埋めるようにじりじりと赤い点が前進し第3休憩所を包囲するための輪を狭めている。
「マズいわね……」
「ど、どうしましょう?」
「どうしましょうって……、山瀬さんもβ時代からのプレイヤーなら何か良い手は思いつかない?」
インカムでどこかと連絡を取り合うヤマガタさんを傍目に私たちはただ画面を見ながら対応を考えるくらいしかできないでいた。
「そうだ! 山瀬さんのHuMoは!?」
「わ、私の機体はトミー君たちが乗ってミッションに出かけていってしまっていますし、こっちにはこないだのイベントの参加賞のライトニングしか持ってきてないですよ!!」
ライトニングは前回のバトルアリーナイベントで10勝した時に貰えるランク2のHuMoだ。
1日以上の時間をかけてウン百戦と行われるイベント戦の中でたった10勝するだけでもらえる機体なだけに山瀬さんが「参加賞」と呼ばれる程度の能力しかない物である。
ライトニングという名称からも分かるように実質的にランク1の雷電の機体各所のハードポイントやらハンドパーツやらをサムソン規格の物へと換装された機体で、HPこそランク2相応になっているもののサムソン系の武装を使える雷電といったくらいのものだ。
チラリとノートパソコンの戦況画面に目をやるとつい先ほど慌てて出撃していったトクシカ商会所属のジャギュアが撃破されて反応が消えたところであった。
そんな状況下でランク1の雷電に毛が生えた程度のものを持っていって一体、何の役に立つというのだろう?
「ああ、また味方がやられた……」
「ホント、遠慮もなしによくもやってくれるわ!」
そして反応が消えていくのはトクシカ商会のジャギュアだけではない。
第3休憩所を目指して後退していこうとする青い点の数々も次々に画面から消えていく。
敵は包囲を目論む部隊こそ進軍スピードは速いものの、戦闘を担当する部隊は被害を抑えるためにか前進速度は遅い。だが遅いが着実に歩を進めるその姿はこうして地図上に青点と赤点が表示される画面を見ているだけでも心が焦れるほどだ。
「そうだ! ライオネスさん、タブレット端末を使って補助AIのマモル君やフレンドの方と連絡は取れませんか!?」
「ゴメン、私、タブレットはマモル君に持ってもらっているの」
そういう山瀬さんを見ると彼女の腰のベルトには拳銃のホルスターの反対側にケースに収められた折り畳み式のタブレット端末があった。
ウチの場合はマモル君が暇な時はいつもタブレットでマンガを読んでいるから預けっぱなしになっているわけだが、2人が分断された時にはこういう不都合も出てくるわけか。
「そうですか……。それは心配ですね」
「まあ、マモル君もサンタモニカさんたちも死んだら中立都市のガレージするんだろうからその辺は放っておいてもいいのかもしれないけど、問題は……」
「トクシカ氏ですか。確かライオネスさんはトクシカ氏の護衛ミッションに参加されていたんですよね? せっかく好感度を稼いだNPCを死なせたくないという気持ち、分かります」
山瀬さんの言葉は半分くらいは当たっている。
だが好感度を稼いだNPCを失うのは惜しいというのはちょっと違う気がする。
姉さんの話ではトクシカさんは回収キットという重要アイテムを開放するための重要人物で、運営が意図したタイムテーブルを守るためのトクシカさんを守るために以前は姉さんがミッションに介入してきた事もあった。
そういう意味では改修キットがゲーム内に解放された今、姉さんたちにとってはトクシカさんは用済み、死んでも構わないキャラクターなのかもしれない。
体験試乗会というイベントに合わせた敵襲を考えるにそういう事なのだろう。
だが山瀬さんの言い分にしろ、姉さんたちの思惑にしろ、それでいいのかという思いがある。
火照る肌の実感も、細かい粒子の乾いた土埃の匂いも感じられるこんなリアルな世界で、そこにいる人物を「ゲームのキャラクター」だから「そういうために作られたNPC」だからと考える事は私にはできなかった。
いや、私だってこのゲームの世界の誰しもに対して同じように考えているわけではない。
だが私はトクシカさんが良い人だと知ってしまっている。
彼の本質が人工知能だと頭では分かっていても、それでも彼のような人物がいなくなるとはちょっとなぁ……と思わざるを得ないのだ。
「ちょっと良いですか?」
山瀬さんの言葉にもやもやした思いが湧き出て言葉少なくなった私にヤマガタさんが声をかけてくる。
いつの間にかナイトホークの販促をしていたバニーガールのお姉さんや中山さんを連れていった作業服の赤ら顔の男も一緒だ。
「即応部隊に続いて我々も第二次救出部隊として第3休憩所に向かう事にしました。できれば山瀬君もライトニングで後方から支援して頂きたいのですが……」
「了解です! 援護くらいならやってみせますよ!!」
「あの……!!」
整備員として働くのがメインの遊び方でも、それでも片手間でバトルアリーナイベントで10勝するくらいなのだ。程度を問わなければ山瀬さんもそれなりに戦えるわけでヤマガタさんの頼みに彼女は景気よく返事を返す。
その声につられるように思わず私の口から声が出ていた。
「何か余っているHuMoはありませんか? 私も手伝いたいんです!!」
「御気持ちはありがたいのですが……、生憎、すでに作業用の機体すら駆り出しているぐらいで余っている機体などは……」
心底申し訳なさそうにするヤマガタさんは傍らの2人にも目配せしてみるもののやはり返事は芳しくない。
「スマン、こっちも空きは……」
「ゴメンなさいねぇ……」
すでに展示場内に鎮座していたHuMo群も次々に移動を始められているくらいなのである。
敵の大部隊を考えるにこちらもそれだけの数を揃えねばと誰しもが思っているという事か。
そもそもイベ限のHuMo交換チケットを持っていない私に余っている機体があったとして貸してもらえるものなのだろうか?
場内に展示されてあった3機の竜波も整備服姿の男たちが乗り込んでいって展示から出ていく様子を眺めながら、ふと私の脳裏にはそのような考えが浮かんでいた。
いや、展示場内に展示されていたHuMoはイベント景品の3機種のみならず他にも様々な機体があったのだ。
ここは純粋にHuMoの数が足りないと思うべきであろう。
「あ……」
HuMoの姿が消え、ほぼがらんどうになった展示場の中。
HuMo搬出用の大きな扉から吹き込んできた風が私の頬を撫でていった時、私の頭の中に電流が流れる。
「余っているHuMoならありますよ!!」
竜波に乗り込んでいった男たちが来ていた服装は整備用のツナギ。つまりはHuMoを動かせる者なら本職のパイロットでなくとも使わざるをえない状況。
もし仮に私にHuMo交換チケットがあったのならば、それを使用して竜波を私の物にもできたのだろうが、生憎とそれはできない。
だが空いている機体ならまだある。
あるのだ。
「ちょっと山瀬さんを借ります!!」
「ええ!? ちょ、ちょっと、どこへ!?」
「博物館に!! 自分とこの会長が狙われているって分かってる状況なら嫌とは言わないでしょ!?」
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