6 体験試乗会
「すんげぇ広いわねぇ……」
トクシカ商会所有の超大型輸送機から降り立った私は土埃の混じった熱風に煽られながら辺りを見渡していた。
私たちの背後には今しがた降りてきた輸送機の後部ハッチが開け放たれて空輸用ベッドに乗せられたHuMoたちが牽引車に引かれて降ろされていた。
現実世界で巨人機と呼ばれるような大型の航空機の数倍あるような輸送機の運用を可能とする滑走路も、それに付随する空港施設も、それからターミナルと一体となった巨大な複合施設のビルまで全てトクシカさんとこのトクシカ商会所有なのだというから恐れ入る。
たとえここがゲームの中だとしても、それだけの財力と権力を有するだけの人物だと思えば何だか気が引けてくるような思いすらしてくる。
「そうでございますわねぇ……。聞けば見渡す限り地平線の向こうまで全て試験場の敷地なのだとか」
私と同じように物珍しそうな顔であちこちを見渡す子供組とは違い、中山さんはあまり驚いてはいないようだ。というか「まあ、こんなもんでしょ?」とでも言い出しかねないような退屈そうな顔といってもいい。
さすがは銀座やら丸の内やらに幾つもビルを持っている名家のお嬢様は一味違うというわけか。
「それにしても埃っぽいわねぇ。飛行機降りてすぐだっていうのにもう喉がイガイガしてきたわ……」
「確かに。観光施設を兼ねているとはいっても、そもそもがHuMoの評価試験場なのですから敷地は広く用意していても周辺の環境は二の次三の次なんでごぜぇましょうか?」
「あ! アレじゃないですか? シャトルバス!」
「おっ、きっとそうだぜ!!」
飛行機から降りて数分。たったそれだけで既に私たちは辟易しだしていた。
このゲームの舞台である惑星はテラ・フォーミングされてまだ数世紀というだけあって荒野が多いのは知っていたが、それでもここまで過酷な環境も中々にないのではないだろうか?
俗に現実世界の東京の暑さを評して「南国の方がマシ。南国は陽射しが強くて気温も高いけど湿度はカラッとしてるからまだ過ごしやすい」だなんていうけれど、そんなのは嘘っぱちだと思う。
雲一つない青空からは強烈な熱線が降り注ぎ、陽光によって温められた空気は気流を作って絶え間ない風を生み出してはいるが、風が吹いても不快なのである。
なんというか全身にドライヤーの熱風が浴びせられているようでマモル君はおろか活発な少年キャラのトミー君ですらしんどそうな顔をしている。
一行の中でもっとも幼いジーナちゃんにいたっては視線が覚束ないというか、あと数分でもこのままにしておいたらそのまま倒れてしまうのではないかと冷や冷やさせられるくらいだ。
私たちの他にも輸送機から降り立ったプレイヤーたちやその補助AIたち、また観光に訪れたのかNPCと思わしき者たちが待つその前に一際土煙を巻き上げながらバスは停まり、ドアが開くと同時に私たちは咳込みながらも乗車していく。
「はぁ……。生き返るわぁ~……」
2人掛けの座席の私の隣に座ったマモル君に冷房の吹き出し口を向けてやりながら私はボヤく。
それでも車内の冷やされた空気は火照った肌に心地良くてみるみる内に活力が戻ってくるのを感じた。
「ねぇ、サンタモニカさんたち。そのパイスー、暑くないの?」
「いえ。パイロットスーツ自体は過ごし易いのですけれど、それでも露出してる首から上だけでも日光が厳しくて……」
「ああ、分かる。髪の毛あるのに頭皮が炙られてる感じしたもの」
私は初期装備のままのツナギ服を腕まくりしながら前の席に陣取っていた中山さんたちへと話かける。
中山さんの隣にはジーナちゃん、さらにその前の席にトミー君が座っていた。
私は話をしながらちょっと考えてから立ち上がって前の席の冷房の吹き出し口をジーナちゃんの方へと向けてやる。
一瞬だけ中山さんの不興を買うのではないかとも思ったが、彼女は「ありがとうございます」と笑顔で返してくれる。
お嬢様育ちゆえに自分で動こうとは思わないがそれでも幼いジーナちゃんを優先する事に異論は無いようだ。
「やっぱり私もパイロットスーツ買おうかしら?」
中山さんたち3人が着ているパイロットスーツはスキューバダイビングに使うドライスーツと宇宙服を掛け合わせたような物で、見た目は通気性皆無の蒸れそうなデザインである。
だが、SFアイテムだからという事なのか、意外にも内部は空調機能が効いているらしい。
以前にもその話は聞いた事があったが、今回のような過酷な環境では真剣に購入を検討せざるを得ない。
一方、私の他、車内にチラホラ見られるツナギ服は薄っぺらい生地の割に通気性も悪く、もっぱらその役割は腋の下に空けられた小さな穴に任されているのだ。
そんな機能性皆無のツナギに対してパイロットスーツは空調機能の他にも脚を締め付ける事によってGで脚部へ血液が偏る事も防いでくれる効果もあるそうな。
……まあ、その代わりに女性としては体に密着したデザインだけに体のラインが浮き出てしまうのは困りものなのだが。
「それでもねぇ……、やっぱ気になっちゃうわよねぇ~。ま、体のラインが出て困るような体でもないし買っちゃおっかな?」
「出なくて困るの間違いでしょう?」
バスが走り出してしばらく、冷房によって復活したのかマモル君が相変わらずの軽口を叩いてきたで私は無言で冷房の吹き出し口を自分へと向け直す。
「ギャ~~~!!!! 何すんですか~!?」
「あらごめんなさいねぇ。隣にいるクソガキをブン殴らないように頭を冷やそうと思って」
(あとがき)
外国の軍装とかでさ、腋の下に穴が開けられてるヤツとかあるけれど外国の人ってそのせいで体臭が原因の喧嘩とかせんのやろか?
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