3 敗北……?

 スラスターを全開に吹かして宙へと飛び上がったニムロッドは風に煽られながれも敵チームの内の1機に狙いを定めて突っ込んでいく。


 もちろん敵だって黙っているわけがない。

 すぐに高く飛び上がった私に向かって4線の火線が上がってくる。

 敵さんから見たら私の行動は自殺行為スイシーダのように思えただろう。


 だけど私は何も諦めちゃいない。

 スラスターを小刻みに吹かして、体を空中で大の字に開いてわざと空気抵抗を受けて対空砲火を躱したおかげで身に纏う装甲表面を掠って削られただけにとどまる。

 このくらいなら被弾とはいえないだろう。


 そして心臓ジェネレーターやらラジエーターやらが焼き付きそうになる寸前になって狙い定めた敵にやっと接近する事ができた。


 ニムロッドはそのまま腕を十字に交差させて体当たり。


『ぎゃッ!?』

『な、なんだコイツ!? 急に動きが……』

『狼狽えるな!? 3番、動けるか!!』

『包囲して攻撃しろ!!』


 スラスターを使った上空からのトペ・スイシーダを食らった敵機はそのまま大地に倒れ、残る3機も私に接近を許してしまったせいか急に色めきたっていた。


 オープンチャンネルから聞こえてくる敵の通信を聞いて得意になった私は腰のハードポイントに取り付けていたライフルを装備して倒れた敵機のトドメにかかる。


 残る3機は私を包囲しように動き回りながらライフルやらミサイルを打ち込んでくるが、すぐに立ち上がった私はステップを踏みながら回避。


(なるほど、俗に「頭の後ろにも目を付けろ」だなんて言うけれど、こんな境地なのかしらね……?)


 動き回る3機の位置を常に把握し続けるために私はアイカメラを倒れている1機にはいかなかった。

 そのために私は後方センサーを使って倒れている敵機に次々とライフル弾を浴びせていく。


(よし! 1機撃破……、おっと!)


 背後から聞こえてくる爆音とともに撃破通知が私の中に流れ込んできて注意が逸れてしまったせいだろうか?

 私は踏み込んだ先がなだらかな下りの傾斜になっているのに気付かずにスリップしてしまい、そのまま転びそうになるのを何とかスラスターでバランスを保ちながら軽くジャンプして回避して再び残る3機に集中する。


『コイツ、HuMoでスキップなんかしやがったぞ!?』

『なるほど、離れて戦っている内はパッとしなかったのは接戦戦に特化した操縦方にカスタマイズしているせいだったのね!?』

『あの竜波の爺さんみたいなモンか!?』


 敵チームの連中が何を言っているかは分からないが私は包囲を脱するために敵がいない方向に向かってホバー走行でダッシュ。


 ライフルに装填されているマガジンに残っているのは榴弾だけという事もあって敵の後方の山肌に向かって適当に撃ちまくると予想通りに雪崩がおこって敵チームへと押し寄せる。


 だが、さすがはヒロミチさんも認めるだけの一流の技量のパイロットたち。

 3機は揃って雪崩にギリギリ飲み込まれない程度に機体を飛び上がらせて私目掛けて突っ込んできた。


『なら話は早い!!』

『「Gハンター・トライ」を仕掛けるわよ!!』

『応ッ!! 先頭は私から……!!』


 青白い噴炎の尾を引く3機のニムロッドU2型が横一列に並んだかと思うと、両翼の2機が中心の1機に向かって接近していく。


 そのまま3機は空中で激突するかと思われたが、そのまま重なりあって1機にしか見えなくなってしまう。


(仲間を盾に……? コケ脅しじゃない! いや……、これは……?)


 縦一列に並んで3機が1機にしか見えないというのは確かに優れた技量がなければできない事なのだろう。

 いくら同型機とはいえ、地上を走行中でも難しいだろうに低空飛行中にそれをやってのけるのだからなおさらだ。


 だが逆に言ってしまえば完全に並んでしまっている以上、ライフルで私を撃てるのは先頭の1機だけ。

 これまでの戦いで敵はほとんどのミサイルを撃ち尽くしている以上、被弾面積は3分の1に抑えられても同様に火力も3分の1になってしまっていると見るべきだろう。


 むしろ敵が火力は発揮できないまま突っ込んできてくれるなら私としては願ったり叶ったり。


 だが、私が弾倉交換を終えて敵に向かってライフルを撃つと敵3機は完全に重なったまま機体を左右に振って攻撃を回避してくる。


 その様を見て私も思い直す。


(これほどの腕前の敵がただのコケ脅しで満足するハズがない……。何を狙っている?)


 だが、思い悩んでも私にできる事など限られているのだ。


 敵先頭機のライフル射撃と同時に後ろの機体に残されていたミサイルが次々に撃ちあげられて、私はそのミサイルの迎撃の時間を稼ぐためにホバー走行で後退しながらCIWSを作動させる。


 1発。

 2発。

 3発。


 敵チームに残されていたミサイルは5発で全てであったようでそれで打ち切り。


 私は3発のミサイルを撃ち落としたのを確認するやすぐに反転。


 前進してくる敵機に対して真正面から突っ込んでいった。


 私と敵の先頭機、それぞれのライフル弾とCIWSの機関砲弾が交差し両者を掠めて駆け抜けていった。


『かかった!』

『乗ってくると思ったよ!』

『そっちは接近戦がしたいんだろう? 分かっているよ!』


 敵チームは既に勝ち誇っているが彼女たちは忘れているのだろうか?


 先に私のトペ・スイシーダを受けた僚機と、その後の私の動きを。


 このままだと私と敵の先頭機は激突、空中衝突してしまうだろうし、それで私も少なからぬ接触ダメージを受けるだろう。


 だが受け身が上手いのは私だ。

 復帰が早いのは私だと確たる自身を持って言える。


 敵の先頭が転倒している内に残る敵の1機を仕留めて、残りは2機、転倒中の1機もやれればあと1機だ。

 十分に勝ち筋はある。


『接近戦がしたいのならば乗ってあげる!』

『でも格闘戦はゴメンよ!』

『私たちはあくまで射撃戦で勝たせてもらうわね!』


 敵の先頭機が大地へ落ちて転倒しそのまま転がっていく。


 私との接触前にだ。


(…………はっ!?)


 何が起きたのか?


 完全に思考停止に陥ってしまった私は残る2機が左右に動いていたのに対処する事もできずに固まってしまう。


 その直後に左右と真下からの射撃を受けて私も墜落。


 十字砲火どころか3重の包囲射撃。

 おまけにちょっと踏み込めば斬りかかれるような距離での至近距離射撃だ。


 私は全身を穿たれて、墜落の衝撃で全身の機能に障害をきたしていた。

 骨格フレームすらひん曲がるような衝撃である。

 まだ私自身が爆散していないだけ幸運といった方がいいくらいのものであった。


「ま……、まだ……。まだ……、戦える……」


 各部の損害レポートに警報が頭の中いっぱいを支配し、それでも私はロクに動かない体に鞭打って何とか敵を見据えていた。


 Pi! Pi! Pi! Pi! Pi! Pi……


「え……?」


 いくつも重なりあって聞こえる警報とはまた別種の音色のアラート。

 初めて聞くタイプの警報音に面食らっているとさらに視界一杯にメッセージウィンドウが浮かんできた。


≪ヘルスチェック・モニターが詳細不明の体調不良を検出しました≫

≪規定レベル1   5秒後に試合を中断してガレージへと戻ります≫

≪10分後にゲームからログアウトします≫

≪ヘルスチェック・モニターが示す規定レベルの如何に関わらず、体調の回復が芳しくない場合は医療機関の受診をお勧めします≫


 それは何とも消化不良の決着であった。


 だが……。

 だが、このまま戦っていたとして勝てたのだろうか?


 ほんの少しだけ冷静になって考えてみれば激突の直前に敵の先頭機が急に墜落して接触のタイミングがズレてしまうだなんていかにもおかしい。


 きっと先頭にいた機体のすぐ後ろにいた機がタイミングを合わせて蹴り飛ばしたのだろう。


 先頭の機もそれに示し合わせて脚の向きやらスラスターの向きやらを変えていたのだろう。

 だから後ろからの蹴り1つであれほど急激な動きができたわけだ。


 すぐに下からも射撃の火線が飛んできた事からも分かるように最初からこれを狙っていたというわけか。


 頬が再び熱くなっていくのを感じながら歯噛みしていると、いつの間にか私はイベント用のチームガレージへと帰還していた。






(あとがき)

「Gハンター・トライ」ってのはどっかの爺と戦うための戦技ってことで。

「爺狩り」で「Gハンター」みたいな?

それの3人用で「Gハンター・トライ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る