24 包囲されて奇襲
船団は北北東へ。
傭兵たちは北西と南方から船団へとゆっくりとながら迫ってくる。
それに対して私たちは戦力を二分し、マーカスの大型輸送機は南へと向かい、私とカーチャ隊長、カミュのコルベット3隻は船団の進行予定地点と北西から来る傭兵たちとの中間地点へと進む。
「単独行動の大型輸送機が高度を降ろしていく? ……陽炎はこっちか!?」
「へへっ、悪いなぁ、そっちが貧乏くじだ」
「なあに、採掘場のサラリーマンどもの話じゃ陽炎以外にも小隊不明のHuMoがいるって話じゃねぇか! アイツらはそいつに全滅させられたんだろ?」
「あんがい対処法の割れてる陽炎相手の方が楽かもしれねぇぜ?」
傭兵たちはただヨーコたちの船団を逃すまいと即席で手を組んだだけの連中ということか何の躊躇もなくオープンチャンネルの通信を平気で使っている。
ただ、敵は数を頼みに攻めてくる構え。
挟撃という以上に策を弄してくるわけでもないようなので通信内容が分かったところで何か対処ができるというわけでもないのだが。
向こうもそれを分かっているのか、もしかするとこちらにプレッシャーをかけるぐらいのつもりで狩りの算段をわざと聞かせているのかもしれない。
「ふむ。ま、陽炎が搭載できる輸送機なんて限られるだろうから馬鹿でも分かるか……。こちらは降下できるだけ高度を降ろせたらすぐに攻撃を開始する」
経験の浅いこちらの各機長たちにとってはマーカスの余裕綽綽の声だけが頼りであっただろう。
それからの数分は張りつめた糸のように緊張に支配された中ではあったが静かなものであった。
敵もこちらの大型輸送機が陽炎を発進させるために高度を落としているとは分かっているだろうに先手を打って発進させるという事はしていない。
こちらの船団は現在、時速350kmほどで進んでいる。
傭兵組合の輸送機ならばこの3倍、4倍の速度を出す事だって容易いのだが、今は戦力の集結を待つためにじりじりとしか距離を詰めてこないし、陽炎との戦闘のために輸送機外に出てしまえばよほど機動力に優れた機体でもなければ船団を追撃することは再び輸送機に乗る以外にはできなくなってしまう。
恐らくは陽炎の攻撃で何機かの輸送機が脱落するのは向こうも織り込み済みということか?
敵に飛燕のような高速飛行タイプの機体がいないようなのは私たちにとって数少ない救いであった。
そして、ついにその時が来た。
「よし! これより陽炎を発進させる。それをもって護衛部隊各機は攻撃開始!!」
「おっしゃ!!」
「了解!」
「おう、そっちも気をつけろよ!」
「サブちゃんもな!」
後席から聞こえてきた唾を飲み込む音を掻き消すように輪唱のようにいくつも轟いてくる轟音がコルベット艦の格納庫の薄いシャッターから聞こえてくる。
事前の指示通りのVLSから対空ミサイル。
これまで散々とカーチャ隊長から戦闘を避けるべく通話がなされていたのだ。今さら敵さんに警告はしない。
それとほぼ時を同じくしてレーダー画面を表示しているサブディスプレーには大型輸送機から発進した陽炎が表示され、すぐに多数のミサイルも追加される。
「景気良いもんだな、おい」
「初手の奇襲降下を狙っているんだろうにぇ~。高度を下げて陽炎を出そうとしているのはバレバレなんだから、攻撃の量で敵のド肝を抜いてやろうって事かにゃ?」
「なるほど」
陽炎から発射されたミサイルは対空用の高速ミサイルに対空用と対HuMo用とを兼ねる汎用ミサイルの全てをいきなり撃ちきるかのような苛烈なものであった。
当然、敵輸送機もフレアーやチャフを撒き散らしながらの回避運動を強要される。
「サブリナさん、格納庫のシャッターを開けます。よろしいですね?」
「ああ、頼む」
艦長からの通信とともに前方のシャッターが急速に巻き上げられて私たちの視界に切り取られた空が飛び込んでくる。
パイドパイパーのカメラの光量調節機能もさることながら、すでにだいぶ夜に近づいていたこともあってか目が眩むという事はなかった。
「ん~? 私たちの出撃はまだでしょ? なんでシャッター上げちゃうの?」
「こんなペラいシャッターなんて有っても無くても一緒だろ? だったら少しでも機体の自由が利くほうがいい」
「そういうもんかぁ~」
HuMoのライフルはおろか歩兵の小銃弾ですら防げそうにない薄いシャッターはあくまで風よけといった程度のもの。
飛行中に乗員が搭載したHuMoへ推進剤やら冷却材やらの補給をしたり、あるいはパイロットが機体へ乗り降りするのには有った方がいいのだろうが、すでにそのような状況ではない。
どの道、艦からの情報はもらえるのだから、それに加えて機体のセンサーから得られる情報をプラスした方がいいだろう。
だが、それ以上にいざという時に艦から離脱する時にシャッター1枚でも無いほうが素早く動けるという事だ。
さらに私は固定具のロックも解除して機体を前進させ格納庫の入り口あたりまで進ませる。
「おっ! 奇襲降下を狙っていたのはマーカスさんだけじゃなかったみたいだにぇ~!」
「あんな機体でよくやる……」
青というよりも紺に近くなった空に鮮やかな青白い閃光が輝いていた。
コルベットから発射されたミサイルはまだ敵へと到達していない。
だというのにカーチャ隊長はすでに行動を起こしていたのだ。
彼女のカモR-1という機体の性能は先ほど目の当たりにしていたが、それでもやはりドラム缶に手足を付けたかのような機体が自由自在に空を飛んでいく様はなんとも不思議なものであった。
航空力学など微塵も考えられていないようなボディーを推力で無理矢理に飛ばしていくせいで機体各所から細い飛行機雲が生じて渦を巻くようにしてドラム缶の軌跡を作り上げていく。
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