22
「こっちが助けようとしているのに、助ける相手がとっとと諦めてたら元も子も無いだろ?」
ヨーコには私もすぐに行くと伝えて、私は艦橋に残りマーカスと2人で通話をしていた。
「そうかもなぁ。さっき、ヨーコの奴、1人でなんかすげぇ考え込んでいるみたいだったけど、もしかして自分たちが助かる道が針の先ほどにか細いものだって分かっちゃったんかなぁ……」
「ふん。これだから頭の良い奴は困る。馬鹿みたいに死に物狂いになってみやがれってんだ!」
吐き捨てるように言う彼の声にはどこか哀れみの色が混じっている。
「ま、ともかく、これで頑張ってみたけどやっぱり駄目でしたじゃ洒落にならねぇって分かってんだろ?」
「当然、こっちにだって勝ち筋はある」
「オーライ! それが聞ければ一安心だ。それじゃ私も機体のコックピットに向かうぜ」
通信を打ち切った私の脳内に思い浮かんでいたのはまったく異なる2つの事であった。
もしかしたらマーカス、現実世界では粕谷正信という男はヨーコが堕ちていきそうになっていた絶望というものについて、あまりにも無理解なのではないだろうかということ。
ゲームの世界じゃなくて
彼に自分たちの事を見捨ててでも逃げていいと言ったヨーコの気持ちが理解できるのだろうか?
だが、そう思う反面、私はこうも考えていた。
先ほどのマーカスの様子はどうにもおかしい。
いつになく感情的であったように思える。
少なくとも彼は私のいる前では彼が考えうる限りで大人であろうとしていたハズ。……まあ、アイツの突拍子の無い一挙手一投足は私のキャパを大きく超えてしまっているためにそれが上手くいっているとは口が裂けてもいえないが。
その彼が何故、あれほどに私も聞いていると分かっているであろうに感情的になったのだろうか?
思えば粕谷正信という男もまた一種の天才である。
ヨーコとは年齢が離れすぎているし、その天賦のベクトルがあまりにも違い過ぎるが故に比べる事はできないのだろうが、マーカスが現実世界で一番のエースパイロットであったのと同じように、ヨーコもまたプレイヤーたちへ立ち塞がる強敵として作られた存在。
もしかしたらマーカスは自身と同じような天才であるヨーコが諦めかけていたのが許せなかったのかもしれない。我慢できなかったのかもしれない。
だからこそ自身が射殺した彼女の父親の事を引き合いにしてまでして彼女を発奮させたのかもしれない。
私はそうも考えていたのだった。
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