20 盤外戦術

 いつの間にか船団を先回りしていたカーチャ隊長のコルベットと私たちは合流。

 すでに合流していたカミュと合わせて再び船団は3隻のコルベットが作る三角形の中に入った。


「ゾフィーさんもお疲れ~。2人には言うまでもないかもしれないけど、少しでもコックピットから降りてリラックスしておいてくれな」

「うん? 俺は平気だぜ?」

「いや、ここはお言葉に甘えさせてもらうべきだろうな」


 マーカスの言葉を今もまだ零式のコックピットにいるのであろうカミュが「心配するなよ!」と声を上げるが、戦いはまだ続くのだ。

 その間中、ずっと狭いコックピットのシートの中ではいくらなんでも気が滅入ってしまうだろう。


 カミュが言うコックピットの中での待機は即応性は高いし、なにより彼の少年らしい意気込みが見えるようで微笑ましいが、私ならゴメンだ。


 そもそも私たちのコルベットは艦橋下がすぐに格納庫となっているのだ。

 階段ではなく階下へのすべり棒を使えば30秒もかからずに機体のコックピットに飛び込める事を考えるとやはりマーカスが言うように休める時には休む方が良いと思う。


「さて、と……。ゾフィーさんの活躍は見事なものだったが、当然ながら我々の情報はすでに中立都市に伝えられていると思うべきだろうな」

「ああ。これで襲撃を受ける可能性が飛躍的に高まったと見るべきだろう。レアメタル採掘場は山脈の向こうだから上手くいけば見つからないままいけると思ったんだがなぁ」


 ハイエナと採掘場の防衛部隊。

 2度の襲撃をこれ以上ないくらいに戦力を温存したまま撃退した私たちであったがマーカスとカーチャ隊長の声は陰のあるものであった。


「これからしばらくは平野部を進まなければならないわけだからなぁ」

「なあ。オッサン、いい加減に今日の目的地を教えてくれよ!」

「ああ、そうだな……。丁度良い機会だ。各機長も聞いてくれ! 今から示す地図上の座標が今日の目的地だ」

「え? ここって……」

「おいおい……。何も無い山のド真ん中じゃね~か!」


 あからさまな抗議の声を上げるカミュ。他にもマーカスが船団全体との通信に切り替えた事で各機長たちの怪訝な声が幾つも聞こえてきてひとつひとつを聞き分けるのが難しいくらいだ。


 当たり前だ。

 マーカスが示したポイントには地図上には何も存在しない。

 あくまでも「地図上には」という話だが。


「し、しかし、マーカスさん! この輸送機は不整地への垂直離着陸は不可能です!」

「ぼ、僕の輸送機は少なくとも2,000m級の滑走路が……」

「安心しなって。3,000m級の滑走路があるから余裕をもって着陸できるぞ。地図上に何も無いのも気にするな! そもそもマトモな空港施設なんか使わせてもらえるわけないだろ!?」


 これまで情報の漏洩を恐れてという名目で明かされていなかった本日の目的地だが、狼狽する機長たちを宥めながらマーカスは笑うが、どこかその笑い声は呆れているようであった。


「向こうにはすでに個人的に当たりを付けている。燃料や弾薬の補給も問題ないし、今晩はぐっすり休んで明日に備える事ができるんだぞ? そんな場所、他にあてがあるか?」


 そもそもが脱出計画を2日に分けるという事になった時にどこを中間地点にするのだろうと気にならなかったのだろうか?

 マーカスの呆れを言葉にするならこういうものであろうか。


 60機以上の大船団が泊まるには広大な駐機場が必要であろうし、船団の半数近くは垂直離着陸機能の無い事くらいマーカスが忘れるハズもないのだが、昨日今日の付き合いである彼らにはそれを理解しろと言うほうが難しいのだろう。


「ふむ。まぁ、マーカスさんがそういうのなら問題ないのだろうな」


 だが抗議の声がいくらか小さくなっていった時にカーチャ隊長が威厳と余裕に満ち溢れた声で締めた事でそれから各機長たちの声はすっぱりとやむ。


「ゾフィーさん、ナイスアシスト! ありがとうございます」

「いや、私も疑問が無いわけではないが、貴方なら何か不思議な手を使って不可能を可能とするのではないかと思えるよ」

「ハハッ、すみません。これ以上の事は説明できないというより、説明しても理解してもらう事が難しいことなのですよ」


 護衛部隊間のみの通信チャンネルに切り替えたマーカスは先ほどの礼を述べた。


 マーカスがカーチャ隊長に「説明しても理解してもらう事が難しい」というのも当然。私だって地図上に示されてポイントにある施設の事を彼らに説明する事は難しい。


 というか不可能だ。


 確かにあそこなら広大な滑走路も駐機場もあるし、補給も問題ないだろう。

 だがそんな大規模な軍事基地もさながらの施設が中立都市の支配区域に人知れず存在し、しかもそれをUNEIのHuMo部隊長であるカーチャ隊長すらその存在を知らないというのはいくらなんでも無理がある。


 というか私はあの施設の事を知っていても、あそこを使うだなんて思いもしなかった。


 というか私とマーカスとヨーコたち避難民たちだけではこの手は使えなかったのかもしれない。

少なくとも私にはできない。さすがに図々しくて。そりゃツラの皮が複合装甲でできているのではと思われるようなマーカスならやりかねないが……。


 だが、ここにカーチャ隊長とカミュがいる事で私にも理解できる現実味が出てくるのだ。


 これもマーカス流の盤外戦術というやつだろうか?

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