18 白いドラム缶
「現在、第13山脈上空を飛行中の船団に警告する。貴方がたの船団はゆうに10を超える法令に違反している。また当方は中立都市当局より武装の許可と違法に武装している犯罪者を即時処断する権限を与えられている。投降せよ! 繰り返す……」
本来ならば中立都市の傭兵たちには
北東に出現した集団がわざわざ警告してきたのはこちらの船団の規模を見て、その内包する戦力を図り損ねているためであろうか。それとも私たちが北東へ向かっていた進路を北に変えたのを見て彼らが守るレアメタルの採掘場を攻める意思が無いと見て取ったが故かもしれない。
「こちらは傭兵組合所属のカミュのコーディネーターである。こちらの登録情報は組合のデータベースを参照されたい。我々が警護する船団が違法に航行している事はこちらも承知済みであるが、我々にも我々の雇い主にも貴方がたや他の者に危害を加えるつもりはない」
敵集団へとまっすぐ進路を向けたコルベットの甲板上に立ったドラム缶、もといカモR-1の中でカーチャ隊長は交戦は避けられないかと交渉を試みていた。
すでにコルベットのビーム砲やCIWSのカバーは収納されて戦闘態勢に移行している。
私たちとしてはコルベットを戦闘に使うのは最後の手段。
なにせ単独行動を取った護衛機が船団に再合流するためにはコルベットが必要なわけでよほどの事がなければ沈めるわけにもいかないというのが本音の所。
精々、長距離ミサイルで援護射撃をしてもらうくらいは考えるだろうが、わざわざビーム砲やらCIWSやらを展開してみせたのは向こうにこちらの意思を見せるためだろう。
「チィッ!
「指揮官殿、これを……」
「ほう……、
「ま、そういうわけだ。こちらにはいかなる個人団体へも危害を加えるつもりはない」
向こうの指揮官は部下が見付けてきた傭兵組合からの情報を見て前日の内にカーチャ隊長を通じて流していたこちらの内情を理解したようだった。
それを聞いてカーチャ隊長の声もこれで戦闘を回避できるものと安堵の色が出ていたが、そうは問屋が卸さない。
「なるほどね。相手がハイエナとハイエナの味方をするジャッカルなら撃ち落としても法的には問題が無いな……」
「なっ……!? こちらには交戦の意思は無いのだぞ!?」
「おう、お前ら、臨時ボーナスのチャンスだ!!」
「指揮官殿、しかし、向こうには陽炎もあるとの情報が!」
「馬鹿か、お前は? あのコルベットに陽炎が乗るか? あっち行っちまった船団から陽炎を乗せた輸送船が戻ってきたとしてもそんときゃ山間部に引きこみゃいいだろ!!」
「なるほど!」
よくもまぁオープンチャンネルでべらべらと……。
いや、向こうの部下の方はどうかは分からないが、もしかしたら指揮官の方は陽炎が戻ってこないようにこちらを牽制するためわざと聞かせているのかもしれない。
向こうの機種はランク5と4の混成部隊。
個人傭兵を蔑むような事を口にしていた事から察するに採掘場のお抱えの防衛部隊か、委託を受けた民間軍事会社の連中というあたりだろう。
金があるだけあって現役世代のHuMoを多数取り揃え、その脇を旧式ながらも一芸に特化したタイプの機体で固めているというラインナップ。
これなら格上、ランク6の陽炎といえども動きが制限される山間部に引き込まれてはただのデカい的になりかねない。そしてヨーコの改造によって強化されているとはいえ陽炎も集中砲火を浴びればいつかは沈む。
まあ、彼らは陽炎の背部格納スペースに搭載されている物の事は知らないし、彼らが容易く蹂躙できると思っているコルベットを預かっているのが誰かという事も知らないのだ。
「……なるほど、こちらも了解した。戦闘は回避できないという事だな。確かに了解した」
コルベットがドラム缶を射出した。
いや、カーチャ隊長がスラスターを吹かして甲板上から飛び立ったのだ。
「うん? いやに速いな。マーカス、あの機体を知っているか?」
「いや、知らないなぁ……」
あの「カモR-1」とかいう機体。カミュの試製零式汎用HuMoよりもよほど謎の機体である。
私だって「ジャッカルとしての独り立ちを目指す小生意気なガキ」という設定のキャラクターである。もっとも担当様に初日に鼻っ柱を圧し折られて今に至るわけだが……。
さすがにカミュの零式のような次世代機の試作機みたいなのまでは知らなくとも、それなりの知識を有しているのだ。
さらにマーカスは攻略WIKIを読み込んで児童誌掲載のマンガやら模型誌のジオラマストーリーなんかにも目を通しているくらいらしい。
そんな私とマーカスが知らない機体?
「なあ、ヨーコはあの機体を知っているか?」
「いやぁ~、私にもサッパリだよ~。お姉さんはぁ?」
「私もサッパリ。パッと見、ウライコフ系だなってとこくらいしか分かんねぇよ」
「うん? 違うよ?」
「えっ?」
私はてっきり第一印象であの機体をウライコフ系だと思って疑う事もなかったのだがヨーコは違うという。
だがドラム缶のような胴体に太い手足に張り巡らされた重装甲はウライコフ系の特徴ではないか?
「なによりスラスターのふけ上がりがまるで違うねぇ。トヨトミ系のように反応が素早くて、ウライコフ系のようなパワーに、サムソン系のようなのびやか。バン! ときてドドド! って感じにガガ~! って感じなんだにぇ~!」
「……バンとかガガーとか言われても分かんねぇよ」
大空を敵集団目がけて一直線に駆け下りていくドラム缶に対して対空砲火が上げられ始める。
数多の砲口やランチャーから放たれる砲火やミサイルを前にドラム缶はまるで木の葉の如くにヒラリ、ハラリと純白の機体は回避しながらなおも敵集団目がけて距離を詰めていた。
その光景を見ればさすがにヨーコの言う反応速度の良さだとか、どこまでもふけ上がっていくかのような大パワーの速度性能は認めざるをえない。
ドラム缶に躱されたミサイルが近接信管を作動させて空中に大輪の華を咲かせるが、破片でカーチャ隊長の機体が損傷を負ったようには微塵も思えない。
ようするに全てが無意味。
「ふんっ!!!!」
「ぬわっ!? え、援護を!?」
「し、指揮官殿ッ!?」
白きドラム缶が地上に降り立った時、既に敵の指揮官機は地に臥せていた。
ドラム缶の手に握られていた一振りのビームの剣によって両手両足が斬り落とされて古いロボゲーの用語でいうところのクソムシ状態。
着地寸前に敵指揮官機は両腕を切られ、続いて着地の瞬間、姿勢が沈み込んだのすら利用して両の足を切ったのだろうか。
これはあくまで私の想像に過ぎない。
なにせビームソードの光と巻き上がった土煙の中で全ては行われ、視界が回復した頃にはうつ伏せになった機体が1機とその両脇に控えていた機体にドラム缶が斬りかかっていたところだったのだから。
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