46 ニムロッド対ニムロッド
拳銃から4度、散弾が飛び出した後に続いた1発の火球は左胸を大きく切り裂かれたニムロッドU2の首元へと着弾。
大音響とともに巻き起こった爆発の後に敵機は崩れ落ちていく。
≪ニムロッドU2型:矢切の親分を撃破しました。TecPt:14を取得、SkillPt:1を取得≫
砲身が短く十分に砲弾を加速させる事ができない拳銃などのために用意された砲弾で、着弾時に弾殻が装甲に張り付くように変形することで装甲内部へと爆発の衝撃を伝える事ができる。
HuMoのようにフレームの上にプロテクターのように装甲が張り付けられた構造は空間装甲の役目を果たして粘着榴弾もその機能を発揮しきれないのだが、敵は中山さんが最後に特製ブレードでHPを減らしてくれてくれたおかげで倒しきる事ができたようだ。
「ぃよっしゃッ!! 1機撃破、残りは2機!」
小脇に抱えて打ちまくるライフルと左手の拳銃。そして胸部のCIWS用25mm機関砲。
すでに味方は私を残して全滅。
ヒロミチさんにクリスさん、そして中山さんも何も出来ずに一方的に撃破されたというわけではなく2機のニムロッドU2型に残されたHPも少ない。
これなら機関銃持ちが到着する前に倒しきれるハズ。
しかし敵も私が接近戦に持ち込もうとしている事を察してか、ライフルの銃床を肩に付けた状態でホバーで機体を滑らせるようにして後退。
もちろん私だって全力前進。
こちらの前進と向こうの後退ならばあきらかにこちらの方が速度的には優位だ。
だが、さすがはヒロミチさんが「トップランカー」と評するだけあって敵の連携は巧み。
個人技能だけをヒロミチさんと比べたらどうだかは分からないが、間違いなく上手く連携を取ってきているという点に関してみれば初めてみる強敵といってもいい。
敵は後退しながら少しずつ反時計周りのような軌道を取っている。
間違いなく機関銃持ちと少しでも早く合流できるように動いているのだろう。
いわば誘い込まれている形。
おまけに2機のニムロッドU2は私に近い方は全力で後退しながら弾をバラまき、距離のある方が少し速度を落として少しでも精度の高い射撃を心掛けている様子。
そして両者とも機体を左右に振りながら回避行動を取っているのだが、これも私が今まで見た事がないようなくらい嫌らしい、こちらの頭の中を読んでいるのではないかと思われるほどの絶妙なテンポで機体を振ってくるのだ。
必然的にこちらの弾は滅多な事では当たらず、そしてHPはゴリゴリと削られていく。
だが、そんな時、後ろを走るニムロッドU2がクリスさんの機体の残骸の前を通り過ぎた時の事だった。
仰向けに倒れたカリーニンの脇腹の辺りから小さな、本当に小さな炎が上がったかと思うと駆けあがっていった火球はニムロッドU2の膝裏へと命中。
片足だけとはいえ膝カックンを食らったような形の敵機はバランスを崩して倒れてしまう。ホバー状態で地に足を付けて踏ん張る事ができなかったのだから当然といえば当然か。
「な、何!? え……、クリスさんッ!?」
私は思わず
なんとカリーニンのすぐ近くには胸の下まで雪に埋まったクリスさんが携行対HuMoランチャーを担いでいたのだ。
プレイヤーの初期装備である丈夫ではあるが防寒性能など微塵も無いであろうツナギ服で雪に埋もれながらクリスさんは「やってやったぜ!!」と言わんばかりにその場で跳びはねていた。
多分、クリスさんは機体が撃破されはしたが、それはHPがゼロになって機能を停止したというぐらいで機体は爆発や炎上とは無縁で、おまけにコックピットブロックも無事であったという事なのだろう。
それで彼女は担当の補助AIが引きこもり気質だという事もあって、一緒に出撃する事も無いだろうと後部サブシートに乗せていた歩兵用対HuMo兵器を持ち出してきたというわけだ。
それにしても生身で全高16メートルの巨人に戦いを挑むとか怖くはないのだろうか?
まあ、気持ちは分からないでもない。
私だって彼女と同じ状況になったら巨人に踏まれたり、流れ弾に巻き込まれたりする事を考える前に敵に一泡吹かせる事を考えるだろう。
「ったく、執念深い
いかに私が動いている状態であろうと、倒れて動かない敵との距離は200mほど、ならばバトルライフルの連射でもそれなりの命中精度が期待できる。
私はさらに弾の尽きた拳銃を投げ捨ててライフルに左手も添えて命中精度を上げた。
敵のライフルと比べて明らかに連射速度の遅い、火線というにはいささか物足りない砲弾の列が次々と敵機へと突き刺さっていく。
1発。
2発。
3発。
そこで敵機は破孔から盛大に火柱を上げて炎上し始めた。
≪ニムロッドU2型:ジョバンを撃破しました。TecPt:14を取得、SkillPt:1を取得≫
残りは1機。
目の前の敵さえ倒せたら、後は機関銃持ちだけ。
軽機関銃の連射力は凄まじいが、接近戦に持ち込んで側面に回り込みさえすれば敵はその機関銃の重量のせいでまともに旋回して自慢の機関銃をこちらに向ける事すらできないハズ。
すでに私の勝利への勝ち筋はできていた。
だが、その私を後頭部の毛が一気に総毛立つような感覚が襲って私は追撃を中断、振り返るとそこにはもう1機のニムロッドU2型が。
「早い。到着が速すぎる!?」
私の予想では機関銃持ちが到着するのはもう少し先の事。
だが、そのトリックの正体はすぐに理解する事ができた。
背後から現れたニムロッドU2の手に握られていたのは機関銃ではなく、小型の銃器だったのだ。
「チィッ! 機関銃を捨てて身軽になってきたか!!」
それはサブマシンガンというには小さすぎたし、かといって拳銃よりは大きい。
フォアグリップ付きの所を見るに明らかな連射火器。
いわゆるマシンピストルというヤツだろうか?
火力としては拳銃よりかはマシなくらい。
だが私のHPも残り少ないのにまた1対2という状況に戻ってしまった事の方が重大である。
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