40 トップランカーの戦い方

 側面攻撃に失敗したヒロミチさん。

 でも実の所、私たちの戦術としては彼に注意を引かせる事の方こそが目的であったのでダメージが取れなかった事自体は問題ではない。


 敵が彼に注意を集めている時に今度は私たちが側面攻撃を仕掛ける。


 そしてそのタイミングはもうすぐ。


 あと数秒で中山さんとクリスさんが丘を越えて敵に攻撃をしかける事ができる。


 私も射撃位置にたどりつけるようニムロッドを急がせていた。

 こちらの位置を隠匿するためにスラスターを使えないのがもどかしい。


 たかが数秒、されど数秒の出来事であった。


 マップ画面の情報が更新されると、敵チームの位置が更新され、過去ログが消失して敵の現在地が表示されたのだ。


 ヒロミチさんから偵察情報がもたらされたのではない。

 敵の方からヒロミチさんの方に姿を現したのだ。


「うぉっ!? マズい、被弾、けっこう持ってかれちまった!!」

「すぐにこっちから仕掛ける! 持ちこたえろッ!!」

「駄目よ! クリスさん!?」


 今まさに攻撃に移る瞬間であったクリスさんは気付かなかったのかもしれない。


 位置情報が更新された敵の数は3機のみ。

 1機だけは現在位置情報ではなく、先ほどヒロミチさんが顔を出してチラ見した時の過去情報のままだったのだ。


 つまり、ヒロミチさんを追っかけていった敵は3機のみということ。


 私の引き留めが間に合わなかったのか、スラスターを吹かして慌てて丘を飛び出していったカリーニンに敵の連射が浴びせられる。


「クッソッッッ!? 待ち伏せしてやがったな!?」

「下がってくださいませ!」


 吹き荒ぶ吹雪の音も掻き消すように装甲を穿つ音。

 カリーニンを撃った敵の位置がマップ画面に更新される。

 思ったとおり敵も1つ先の丘で私たちを待ち伏せしていたのだ。


 中山さんの紫電改が丘から上半身だけを出すようにして被弾面積を抑えながらサブマシンガンの連射でクリスさんの後退を支援する。


「嬢ちゃんも下がれ! SMG短機関銃LMG軽機関銃じゃ中距離戦能力がダンチだ!!」


 そう言いながらクリスさんはわざわざ中山さんと敵を結ぶ直線上を塞ぐようにして後退。


 カリーニンの装甲を頼りに紫電改を庇うつもりであったようだが、無常にもクリス機に命中した砲弾は容易くブ厚い装甲を貫いていた。


 しかも2km以上も離れた敵機は稜線で機体の大半を隠し、距離を開けた状態での中山さんの連射などまるで怖くはないと言わんばかりに連射を続けていた。


 そこでやっと射撃位置に辿り着いた私も狙撃を開始。


 バトルライフルの単発射撃で命中弾を与えるとそこでやっと敵も後退してくれた。


「サンキュ! 助かったよ!」

「それよりも被害は?」

「HPを半分近くも持ってかれた! にゃろう、向こうの軽機は単発もあるぞ」

「貫通力もハンパないですわね……」


 幸い、クリス機は正面から弾を受けたためにスラスターやジェネレーター、冷却器などには損傷がないようだ。


 カリーニンに残されたHPは6,000ほど。


 私は過去ログを見直してクリス機の被弾の数を数える。


「ええと、5発の被弾で……、1発あたりの平均は1,200ちょい。まさか……!?」


 私はそこで先ほど視認した敵機の姿を思い起こしていた。


 左右で大きさの違うツインアイカメラ。

 装甲形状は傾斜を組み合わせた細身の機体。


 それは私も良く知るニムロッドを非常に良く似た姿であったのだ。


「まさか、アイツの機関銃は私のバトルライフルと同じ砲弾をバラ撒けるっていうの……!?」


 同型機種なら同じような装備をしていても不思議ではないだろう。

 私が愛用している84mmバトルライフルの単発火力は1,250。

 クリス機の被弾のダメージの平均値と近しいものである。


「やあ、ソイツだけじゃないぞ!」

「ヒロミチさん! そっちは大丈夫ですか!?」

「うん、なんとか撒いて今は移動中だ。それよりも俺がやりあった連中のログを送る……」


 不意に通信を送ってきたヒロミチさんの声は敵の追撃を振り切った安堵の色があるものの、疲労感を隠せないものであった。


 そしてすぐに送られてきた画像データをサブディスプレーに表示させると、そこに映し出されていたのは3機のニムロッドの姿であった。


 私たちが先ほど戦った機体と同様の白に近いくらいの灰色の基本色に色鮮やかな黄色のラインが引かれている。


 4機がそろって同じ塗装。

 なんとも言えない威圧感がその画像にはあった。


 そしてヒロミチさんが戦った3機が手にしていたのは私が装備しているバトルライフルと同型の物だが、良く見てみると色々と差異がある物である。


「4機そろってニムロッドとはね……」

「正確にはランク4機体の『ニムロッドU2型』。バランスの取れた良い機体だよ。低ランクはこれ1機を持っとけばいいって言うプレイヤーもいるくらいにね」


 確か、ニムロッドU2型というのはランク3のニムロッドに改修キットを2回使ったニムロッド・カスタムⅡと同性能の機体だったハズ。

 私のニムロッド・カスタムⅢの方が微妙に性能は上だが、それが4機となると……。


「この3機が装備しているライフル、銃剣が取り付けられている他にもライオネスさんの物とは微妙に違うようでごぜぇますが?」

「強化ポイントを使用して発射レートを向上させている他にも、多分だけど銃剣突撃用に剛性も上げていると思う」

「もしかして、こっちも……?」


 強化ポイントを用いた装備の性能向上。

 それを聞いた私は先ほど私たちが戦った敵機の画像をヒロミチさんに送って確認してもらう。


「あ~……、コイツの軽機関銃はダブルドラムマガジンで弾数を向上させてるな。他にもやっぱり強化ポイントを使ってヘビーバレル化で集弾性と連射可能時間を底上げして、機関部の強化で連射サイクルを上げてるってトコかな……」


 ヒロミチさんの説明によると、敵のニムロッドは銃剣付きバトルライフルを装備している3機にしても軽機関銃を装備している機体にしてもわざわざ強化ポイントを使用して性能を向上させているものだという。


 私は84mmバトルライフルの連射性能の低さを高い単発火力とトレードオフだと思って甘んじて受け入れてきていた。


 ノーブルを奪ったプレイヤーとの再戦を目指して、少しでも早く上の環境に行くため、その内にニムロッドはマモル君に譲るのだからと強化はおざなり。


 結果として機体ランク0.5の差異など問題にならないくらいの性能を敵ニムロッドU2型は有しているとみて間違いないだろう。


「バランスの良い機体で一気に敵を擦り潰す。やり難い敵だな……」

「ま、ランク4でもニムロッドはニムロッドだ。しっかり狙えばお前やサンタモニカさんの装備している銃でも装甲を抜けない事はないさ」

「逆に敵の攻撃を阻める装甲なんてこっちのチームには無いけどな」


 私たちのチームでもっとも装甲性能に優れるカリーニンが先ほどの軽機関銃の連射を1発も非貫通に抑える事ができなかったのだ。

 軽機関銃とバトルライフルの砲身の長さの違いもあるだろうが、この距離での戦闘においては同じ弾薬を用いる銃器だけに敵チームの攻撃の全ては私たちを貫通できると思って良さそうだ。


「で、どう攻めましょう?」

「1機だけ孤立している軽機持ちから落とせないか?」

「いえ……。ニムロッドの機動力ならすでに他の3機と合流していてもおかしくはないでしょ」

「そうだなぁ……」


 装甲が薄い代わりに高い機動力を持つ。

 これまで頼りにしてきていたニムロッドの特性が私たちの敵として立ち塞がる。


 しかも同型機種が4機。

 私たちとは違い、敵は全力で動き回っても僚機はそれに合わせる事ができるのだ。


 ウィークポイントは連射性能を上げたバトルライフルと軽機関銃の殲滅力で素早く敵を倒す事でカバー。

 なんとも戦い難い敵である。

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