21 期待の新人

 ミッションクリア!!

 基本報酬  2,800,000(プレミアムアカウント割増済み)

 特別報酬    240,000(プレミアムアカウント割増済み)

 修理・補給   125,000    

 合計    2,915,000


 帰りの輸送機の中でヒロミチさんは満足気な様子で陽気に私の技量を褒めてくれていた。


「うん。充分、十分! まだ経験不足な所は多々あるけれど、ヘタクソnoobじゃなくて新人さんnewbieって感じだね。それも“見込みある”新人さんだ」

「……はぁ、そうですか」


 一方の私は戦闘中に彼が見せた行動の数々を自分の中で消化しようと少しの間、静かにしておいてほしいくらいなのだが、何がそこまで彼を陽気にさせるものか、ツれない返事にも関わらずに言葉を続ける。


「いっちゃん困るのは戦闘に来ておいて消極的な行動しかしないヤツなんだけどね。寄生するつもりなのかな? まっ、本人にとっては慎重なつもりなのかもしれないけど、慎重なのと消極的なのは違うよね」


「あと『クソ芋』とか言うけど、狙撃用の機体で来るのは良いとして、どう考えても敵に射線を通せそうもないような位置から動かないヤツも困るよな。狙撃用の機体こそ射線を通すべく動くべきなのに。結果、そいつみたい奴の仲間は前線の枚数が足りずに、かといって後方から援護射撃が飛んでくるわけでもないからすぐに溶けちゃって、それから残敵掃討って流れになった後でクソ芋野郎がいくらダメージ取っても意味なんかないのに」


「まあ、そういう奴がいたせいか、β版ではあったスナイパーライフルは正式サービス版ではまだ実装されてないんだけどな! ……でも、ライオネスさん、君はそういうヤツらとは違う。鍛えれば充分に一流プレイヤーの仲間入りができるよ!」


 そこまで聞いてやっと気づいた。

 彼は私を励まそうとしてくれていたのだ。


 確かに私は戦闘の終盤、ヒロミチさんの危機を助ける事ができていた。

 だが、それまでの流れからいってどちらが“上”かは言わなくても分かる。


 自分から「お互いの技量を確認しておきましょう」とミッションに誘っておいて恥ずかしい事この上ないほどだが、それでもヒロミチさんは私はまだ伸びると言っていた。


 そして、コックピットのスピーカーから聞こえてくるヒロミチさんの声が満足そうに聞こえていたのはただ次のイベントに向けてのチームメンバーが決まった事だけではない。


「それで、どうかな? ライオネスさん、今週末のイベントが終わってからもたまにミッションとかイベントを一緒に戦わないかい? それで君の都合さえ良ければ俺の“借り”を返すのに協力してくれないかい? もちろん君が借りをかえさなきゃいけない相手と再び戦う時には手を貸そう」


 それは私にとっても願ってもない話であった。


 ヒロミチさんが一流のプレイヤーであるのは確認済み。

 彼と共に戦うという事は強力な戦力が増えるという事以外にも、その技量を間近で見て取る事ができるという事も意味しているからだ。


「ええ。ところでヒロミチさんが借りを返さなきゃいけない相手ってどんなプレイヤーなんです?」

「ああ、実のところ、向こうのハンドルネームも分かっちゃいない。だがヤツの乗機は分かっている」


 そこで私はおや? と怪訝に思う。


 このゲームでは課金アイテムを使ってハンドルネームを変える事や、自身のゲーム世界内での肉体であるアバターを変更する事ができるのだ。

 第一、向こうの乗機は分かっているといったところで、その相手が乗機を変えてしまえばこちらはその相手を探す術が無くなってしまうではないか。


 これは気の長くなりそうな話だと思っていると、その次に出て来た彼の言葉に思わず私は全身の毛が逆立つような感覚を味わう事となった。


「ホワイトナイト・ノーブル。奴が乗っている機体だ」

 ………………

 …………

 ……






 その男と相棒であるロボットが自分たちに割り当てられたガレージに戻ってきた時はすでに虚構の世界では陽が落ちてすっかりと夜になっていた。


 だがガレージの中では天井から吊るされた多数の水銀灯が煌々と灯されて昼間のような明るさ。


 男は飛燕と烈風が整備を受けれいる様子をひとしきり眺めた後で片隅に置かれたプレハブ式の事務所へと入っていく。


「驚きました。まさか、貴方自身で“新人さん”よばわりする者を計画に引きずりこもうとは! 手懐けて捨て駒にでも?」

「おいおい、アシモフ、俺はこうも言ったハズだぜ? 『見込みがある新人さんだ』ってな!」


 ヒロミチはパソコンデスクのオフィスチェアーにどっかりと座り込んで日課であるウェブサイトの巡回を始める。


 相棒であるアシモフのロボットらしいカクカクとしたものでありながら仰々しい動作はすでに慣れたもの。

 なにせ彼はβ版時代からアシモフの別個体を担当補助AIとしていたのだから。


「確かにあの子の腕前はまだまだだ。マップ画面は見れているようだが、慣れてないせいでちょっと次の動作に移るのにモタつくし、これまで低ランクのミッションしか受けていなかったせいかゴリ押しで解決しようという癖もある」


 公式サイトに運営チームのSNS、攻略WIKIや各まとめサイトなどにめぼしい新着情報は無かった事を確認してから男はロボットへと向き合う。


 アシモフは冷蔵庫から取り出してきたボトル入りのウーロン茶を担当に差し出すと男は一口飲んでから少し考え込んで言葉を選んでいるように見えたのは彼自身、自分の中でまだ考えがまとまりきっていなかったからだろうか。


「でもちゃんと前に出て前線を張ろうという気概はあるし、他人の忠告を素直に受け取ろうという度量もある。それに……」

「それに……?」


 ヒロミチは続きを促すアシモフの言葉にはすぐには答えずに事務所の隅に置かれている清掃用具入れのロッカーから長い柄のホウキを取り出してきていた。


「なあ、お前は見てなかっただろうけど、さっきの戦闘の終盤、あの子はこういう事をしていたんだ。このホウキをライフルだと思ってくれ」

「ええ」

「お前の爆撃で俺が行く手を失った時、すぐ近くに2機の敵機がいたんだが、あの子はそれをまず1機をショルダータックルで突き飛ばした後、こう……」


 男は肩をアシモフに向けて突き出した後、腰だめに持っていたライフルに見立てたホウキを持ち返る。


 最初は右手でグリップを握りトリガーに指をかけ、左手は銃身の下部に添えられていたのを、ホウキを胸の前に持っていってから右手をストック付け根付近へもっていって握る。


「こうやってから残る1機の頭部目掛けてストックを叩きつけたんだ。なあ、そんなモーション、ランク3~4.5のニムロッドにプリセットされていたか?」

「う~ん、私は聞いた事がないですねぇ……」

「となるとやっぱりマニュアル操縦でやったって事か?」


 ヒロミチは思い出したようにパソコンデスクに戻って先の戦闘のリプレイ動画を再生させると彼の言葉通りの状況が動かぬ証拠となって示される。


「これは……、思ってた以上に素早い動きですね。確かに疑問に思うのもわかりますよ。このゲームを始めたばかりのプレイヤーがこの動きをマニュアル操縦でやったとは考えにくい」

「それにまだ続きがあるぞ。これも見てくれ」


 さらにリプレイ動画は続く。


 最初にニムロッドがショルダータックルで突き飛ばした敵機が立ち上がってくると、ニムロッドはライフルすら投げ捨てて超接近戦を挑んでいった。

 ニムロッドのハードポイントにはビームソードやナイフも取り付けられているというのに素手のままでだ。


 ニムロッドは敵機と向き合う形で左手で敵の銃を握る手首を掴むと、手首を掴んだまま身を翻して背中を向ける。

 そして掴んだ手首を持ち上げてから一気に振り下ろして自身の肩のあたりへと叩きつけていた。


 そのせいで敵機の肘は砕けて銃はダラリと垂れ下がってニムロッドや烈風に向けるどころではなくなってしまう。


「これもマニュアル操縦でやったのか?」

「…………」


 アシモフは思考回路がショートでもしてしまったのか、まるで平成時代の黎明期のロボットのように目をパチクリさせて口をパクパクさせている。


 そのロボットは何を言おうとしているのか、それを待たずに男は結論を述べた。


「捨て駒だなんてとんでもない。あの子は俺たちの切り札になりえるかもしれんぜ? さっそくアイツにも教えてやろう」




(後書き)

ちなみに今回のミッションの特別報酬取得条件は「1機も敵を逃さずに殲滅すること」

やり方としては今回、飛燕がそうしたように飛行型の機体で上空警戒して逃げようとした敵をすぐに見つけられるようにするか、複数機で廃プラントを包囲してから包囲の輪を狭めていくか。

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