17 3人目のメンバー

一応、難民キャンプのミッションで一緒だったM36釈尊さんにも声をかけてみたものの彼は仕事の都合で週末のイベントはほぼ不参加のつもりらしい。


「困ったわね……」


 彼のマートレットキャノンは長砲身の砲を背負った支援機であり、直撃させる事さえできれば格上にも通用する火力を持つ。

 さらに私のニムロッドや中山さんの保有する3機種とも役割が被らないのでランク2.5とはいえ役割が持てると思ったのだが。


「となるとホントにもう誘うあてがないわ……」


 格闘戦タイプのハリケーンに乗っていた人はなんて名前だったか?

 あの人とフレンド登録していなかった事が悔やまれるが過ぎた話を後悔しても仕方がない。


 どうしたものかとオフィスチェアーの背もたれに体を預けて背伸びをしているとマモル君が話しかけてきた。

 昨日、彼の好きなマンガを買った事もあってか、今日のマモル君はいつもより協力的なように思える。

 可愛い奴めと差し出されてきたタブレットの画面を見ると攻略WIKI内の掲示板だった。


「うん……? これは?」

「小隊メンバー募集のページです。見ず知らずの他人とでもこういうトコで小隊を組む事が可能みたいですよ」

「へぇ……」

「さらに今回のイベントの告知を受けてイベント専用特設掲示板もできているのでここでメンバーを探してみるのはどうでしょう?」

「いいじゃない」


 4人の小隊メンバーを集めるのは私に任されていた。

 中山さんは購入したばかりの機体の完熟訓練代わりにミッションを受けに行きたいというので、昼休みの時点で私は安受けあいしてしまっていたのだ。


「ついでにいうならイベント本番までしばらく準備期間はありますし、事前に会って話をしてみたら良いと思います」

「ああ、そっか。そういうのもあるわけね」


 確かに今日はまだ水曜日。土日のイベントまではまだ時間がある。


 いわゆる“荒らし”とか言われる害悪プレイヤーと面子を組む前に事前にゲーム内で会ってみるべきだろう。


 それにできればそれだけではなく連携戦術の練習と互いの技量の確認のために一緒にミッションに出ておくほうが良いに決まっている。


 それを踏まえて掲示板内の書き込みを見てみると……。


『イベメン募集! ガチ入賞狙いに行きます! β経験者のみ』

『βメン優遇 イベント小隊員募集!』

『(バトルアリーナ)メン募 ※β版プレイヤー限定』

『イベントを共に戦いませんか? ※β版でランク10機体を所持していたプレイヤー限定、応募者はβ版時のハンドルネームとランク10機体とのスクショを送ってください』


 私は何件目かの書き込みを読んで大きな溜め息をついていた。


「どいつもこいつもβ版の経験者ばかり求めているわねぇ」

「そら、本番3日前がメンバーを探しているような人なんて上位入賞を目指している、いわゆる“ガチ勢”って人たちでしょうからね」

「なるほど、そういう人たちなら、たった数日間の経験しかない正式サービス開始後の新規勢よりも経験豊富なβプレイヤーを求めると?」


 確かにそれも道理である。

 4対4というイベントの仕様上、いかに自分1人が優れた技量を有していようと他の正体メンバーがさっさとやられて残った敵に集中砲火を食らえば圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまう事は容易に想像ができる。


「そもそも新規勢にはPvPの経験があるプレイヤーなんてほとんどいないでしょうからね」

「ああ、そっか。今度のイベントの敵は敵性NPCじゃなくて同じプレイヤーだからいつもとは違う感覚が求められるって事か」


 マモル君が「100位以内はキツい」と言うのはいつものネガティブ発言かと思っていたら、実際に私の前にはイベント開始前から大きな壁が立ちふさがっていたのだ。


 一応、私にはこのゲームで1度だけPvPの経験がある。

 だが、ほぼ一瞬にして熱したフライパンに落とした水滴なんかよりもあっという間に蒸発させられた事を「PvPの経験があります!」とは言えないだろう。


 むしろそんなヤツが応募してきたら真っ先に選考から落とす。

 誰だってそうする。私だってそうする。


「だからどうです? 新規勢のお姉さんたちを受け入れてくれる書き込み主を探すのではなく、こちらからメンバー募集の書き込みをしてみては?」

「あ、そういうのもいいのか」

「こちらの強みはお姉さんのランク4.5のニムロッド・カスタムとランク4の機体の他にランク3の機体を持っているサンタモニカさんの2人がいるって事でしょうからそれも書いておきましょう」

「そうね」


 現状でランク4.5の機体を持っているのは私くらいのものだろう。

 難民キャンプでの大型ミッションの報酬として改修キットを各参加者はもらっているが、貴重な改修キットを低ランクの機体に使うのはもったいないと誰もが思うハズ。


 ならば、マモル君が言うようにそれを書いておくのが良いのかもしれない。


『イベントメンバー募集 ※2名まで

「バトルアリーナ4on4」に参加するメンバー募集。

 こちらにはすでに2名のメンバーがいるため、2名までとなりますが、ランキング100位以内への入賞を狙っているために長時間、共に戦ってくれる方を募集します。

 こちらは私がランク4.5「ニムロッド・カスタムⅢ」、もう1人がトヨトミ系ランク4機体を1機にランク3機体が2機を状況に応じて使い分けます

 ※こちらは両者ともβ版未経験の新規勢です』


「ええと、こんなもんかしら?」

「うん、まあ良いんじゃないですか? わざわざβ版未経験である事を書く必要があるのかは疑問ですが……」

「良いじゃない。いちいちそこを確かめられるよりは手間をかけられないほうが」


 最後に書き込み内容を確認して誤字などを確認してから投稿ボタンをクリック。


 結局、イベント用小隊メンバー募集はまだ掲示板に書き込みをしただけだが、私は一仕事終えた疲労を重くなった肩に感じていた。


「……あ~、疲れた! マモル君、疲れたから格下ボコりに行きましょ! 『難易度☆☆』くらいのミッション、ヨロシクぅ!」

「……いや、おかしくないですか?」


 結局、水曜日は「難易度☆☆」のミッションを3件ほどクリアしてからスイーツフェアをやっているファミレスで御飯をマモル君とともに食べてからログアウト。






 翌日、ゲームにログインした私は早速、マモル君を連れてチェーンのカフェへと繰り出していた。


 昨日の掲示板への書き込みに対してあった数件の返信はほとんどが「改修キットを3個もどうやって手に入れたんですか?」などの冷やかしばかりであったのだが、1件だけ元β版プレイヤーを名乗る人から応募があったのだ。


 幾度か掲示板内でやりとりをした後で一度会って話をしてみようという事になり、指定された喫茶店へとやってきたというわけ。


「お姉さん、僕、シロマワール頼んでも良いですか?」

「いや、凄いボリュームあるわよ? ミニにしといたら?」

「うん、良いんじゃない? 現実と違って無駄になる食材も出ないわけだし。それよりライオネスさんはどうする?」

「あ……、それじゃ私はブレンドのホットで……」

「ハハ、お嬢さんは私に遠慮していらっしゃるようで!」


 私とマモル君の向かいに座るのは優男風の男性とその担当AIであるフレーム剥き出しのロボット「アシモフγ-30」。


 男性はおどけたような顔で相棒であるロボットの腕を持ち上げてみせると、着席する前には無かったハズの白いケーブルがテーブル下へと伸びていた。


「コイツ、断りもなくメシ食ってるから遠慮なんかしなくてもいいんだよ?」

「メシじゃなくて充電です!」


 アシモフの顔面に張り付けられたプラスチックなのかシリコンなのか分からない光沢のある白い顔面もおどけてみせる。


 どうやら初対面の緊張を解そうとしてくれているのだろうと気付いて私は彼らに好感を抱く。


「ハハハ、どうも。それじゃコーヒーの他にバニラアイスを」

「はいよ。アシモフ、注文しといて」

「了解です」

「ところでヒロミチさんも上位入賞狙っているんですよね?」


 彼らの提案を受け入れる事で私もそれなりに心を開くポーズは示せたと思う。


 そこで3人の飲食物が運ばれてくる前にさっそく私は本題を切り出していた。


「そうだね。イベント入賞が目的っていうか、強くなるために貰えるもんは貰いにいくってスタンスなんだけど。……借りを返したい相手がいてね」

「あ~、分かります! 私もそんな感じです。私の方は強くなるためにイベント報酬機体の1つが欲しくて」

「ああ、そうなの? でもイベント報酬機体って中々にキワいよ?」


 話をしている内に私たちが頼んだメニューが次々とテーブルへ運ばれてくる。


 大きなデニッシュパンの上にこれでもかというくらいにソフトクリームが盛り上げられ、さらにダメ押しとばかりにメープルシロップが添えられたこの店の名物メニューを前に顔を青くしているマモル君を見ないフリをして私はヒロミチというハンドルネームのプレイヤーと話を進めていく。


「ランク6のプレ機とか報酬機って、相手をこっちの型にハメるコツがいる機体だけど、面白い機体が多いからね」

「もしかしてβ版の時に乗ってたんですか?」

「うん。今もランク6プレ機の『飛燕』に乗ってるよ。で、今回のイベントは『飛燕』から取り外したガンポッドを烈風に持たせようと思ってるんだ。アレも一応ランク5の武装だし、空戦用だけあって発射レートは高いからね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る