16 仲間を探そう!

「ま、とはいえ、イベントでランキング100位以内に入れなければ取らぬ狸の皮算用もいいとこね」


 後ろ髪を引かれる思いはあるが、いつまでも画像を眺めていて竜波が手に入るわけもなし。

 私は週末のイベントに向けて準備を進める事にした。


 とはいえ私のやるべき事はあまり多くはない。


「私の機体はランク4.5のニムロッド・カスタム。このゲームのランク4.5はランク4として扱われるってシステムはこのイベントでも有効なのかしら?」

「過去のβ版時代のイベントを見る限りではそうみたいですね。一応、虎代さんに確認してみたらどうです?」

「それもそうね」


 竜波の画像を表示しているウィンドウを閉じてパソコンで姉へとメールを送るが多分、大丈夫だろう。


 現状でこのゲームのプレイヤーがどれほどいるかは分からないが、ランク4.5の機体は私しか持っていない。

 これは大きな強みだ。


 おまけにニムロッドはバランスタイプの機体。機動性に傾いた特性で装甲はあまり頼りにはならないものの、戦場を選ばない活躍ができるだろう。


「武装も……、多分、これで良いと思うのだけれど……」


 メインの武装であるバトルライフルはランク4までの機体なら通用しないという事はないだろう。


 一応、重装甲がウリのウライコフ系対策に高級の高速徹甲弾を装填した弾倉を2つばかり持っていけばいいか?

 通常徹甲弾も持っていくのは収益性を考えての事もあるが、高速徹甲弾は貫通力の距離減衰が大きくて、遠距離では通常徹甲弾に貫通力が逆転される事もあるという話もあっての事だ。


 後はサブの拳銃。

 拳銃の弾倉は3つ。2つがミサイルなどの迎撃用の散弾に、1つは対HuMo用に粘着榴弾でも入れておけばいいか。


 白兵戦用のビームソードにはやや不安が残るところではあるが、難民キャンプでの戦闘で戦死したテックさんが使っていたビームソードはランク5のもの。値段が張る上に竜波では系統が違うので仕様する事ができないし、ニムロッドを引き継ぐ予定のマモル君がビームソードで敵と斬り合うところはどうも想像ができないのでここはグッと抑えて我慢しよう。


 さすがに初期配布機体のオマケ武装だったランク1のナイフはさすがに性能不足で、そもそも最近はナイフが役に立った事も少ないし、いらないか?

 いや、あったらあったで役に立つ事もあるかもしれないし、対して嵩張るわけでも重量が気になるというわけでもないし、持ってくだけ持っていくとしよう。


「お姉さん、攻略WIKIではこういう書き込みが……」

「どれどれ……」


 マモル君が差し出してきたタブレット端末には攻略WIKIの「イベント攻略のキモ」というページが表示されていた。


 そのページによると、イベントには大別していくつかの種類があるらしいが、今回の「バトルアリーナ 4on4」のようなチーム戦のイベントの場合には戦闘の数をこなすのが重要なようで、そのために固定メンバーを組んでガンガン回していく事が必要であるらしい。


 味方メンバーのマッチングの手間を省いて戦闘の数を少しでもこなそうというわけだ。


 もちろんメンバーにも参加できない時間はあるだろうが、その場合は他のメンバーを入れて対応するわけだが、バラバラの状態から4人をマッチングして打ち合わせしてから戦闘に出るより、2人ないし3人のメンバーが揃っている状態から残りのメンバーを斡旋してもらう方が時間がかからないのだという。


 これはマッチング自体にはあまり時間はかからないのだが、チームのフォーメーションやら基本戦術やらを打ち合わせるのに時間がかかるという事だ。


 その点、私はすでに今日の昼休みの時点で中山さんと今回のイベントに参加していく事を約束していたので残りは2人。


 しかも中山さんは改修キットを2回使ってランク3になった双月に、ランク2だが大量のミサイルを搭載して支援機として特化した雷電重装型、さらにトミー君の雷電陸戦型を売却して新しく購入したランク4の機体もあるらしい。

 つまり彼女はチームメンバーに合わせた機体を選択できるという強みがあるわけだ。


「後は……、サブリナちゃんとこのマーカスさんでも誘ってみましょうか?」


 世話になっているサブリナちゃんの担当プレイヤーであるマーカスさんは見る限り結構な年齢。なら周りにゲームをやっている友人なども少なそうだし、ならばサブリナちゃんへの恩返しの意味も込めて、というのもある。


 だが難民キャンプでの戦闘の終盤に救援にやってきてくれたマーカスさんの陽炎を奪ったお手並みは鮮やかなもので、その彼ならばチームの足を引っ張る事はないだろうという目論見もあった。


 マモル君から借りたタブレットを通話モードにしてサブリナちゃんに電話をかけると向こうも暇だったのか3コールほどで出てくれた。


「あ、ライオネスだけど、今、大丈夫?」

「ああ、暇してたとこだよ」

「こないだはありがとね。それで今度の週末のイベントの事なんだけど……」

「ああ、あれか~……」


 イベントの話を切り出すと、何故かサブリナちゃんの歯切れが悪くなる。


「いや~、あのイベントに参加できるのってランク4以下の機体だけなんだろ? ウチのアホ、ランク4以下の機体なんてランク1の雷電しか持ってないんだよな~」

「そ、そう……。それは盲点だったわね」

「ていうか、そもそもイベントに興味が無いってか、きっと迷惑をかけると思うから、また別の機会に誘ってくれよ」


 そういえばマーカスさんとこは補助AIのサブリナちゃんにすらランク5のパイドパイパーを与えているくらいなのだ。

 おまけに難民キャンプでランク6の陽炎をGETしたのだからイベントの告知前ならランク4の機体など不要と処分してしまったのかもしれない。


 マーカスさんもそれなりの腕前のプレイヤーなのかもしれないと思っていたが、それは私の予想を遥かに超え過ぎてしまっていたというわけだ。


 今からランク4の機体を買い直せというのも酷な話だし、サブリナちゃんの話ではどうもイベントには参加するつもりが無いらしいのだから仕事の都合とかもあるのかもしれない。


「うん。それじゃまたね!」

「おう。悪かったな!」


 サブリナちゃんとの通話を終えると次の相手を呼び出す。


「はいさ~い!」


 次に電話をかけたのは難民キャンプでフレンド登録したキャタピラー君だ。


 彼のズヴィラボーイは改修キットを使用してランクは3.5。

 メイン武装であるバズーカは継戦能力が低いが4対4なら問題は無いし、その火力は魅力だ。ズヴィラボーイ自身の装甲を考えれば壁役としての働きも期待できる。


「こんにちは、ライオネスだけど、今度のイベントのメンバーを探してるんだけど、貴方はどう?」

「丁度良かったさ~! 4人で1チームって残り1人をどうしようか悩んでたとこさ~!」

「……残り1人?」


 キャタ君の話を聞くに、彼はすでにリア友と3人の面子が揃っていて、残り1人をどうするかという状態であるらしい。


「ああ、そうなの。ゴメンね。私もリアルのクラスメイトと2人なのよ……」

「あっちゃ~、そら、しょうがないさ~! でも、こっちの3人と、ライオネスさんの友達と今度一緒にミッション受けに行こうさ~!」

「それもいいわね!」


 キャタ君の声は陽気で人懐っこいもので男子に誘われているのも明らかな年下という事もあってか警戒心は湧いてこない。

 2つ返事で彼の友人たちとのミッションを約束して通話を終える。


 だが、困った。

 他に誘えるアテが無い。


 マサムネさんに頼れない姉さんはお荷物にしかならないだろうし、そもそも正式サービスを開始して初のイベントだっていうのに運営チームのディレクターが暇をしているわけもないだろう。

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