22 連隊編成

「よ~し、それじゃ適当に各パイロットは機体を選んでくれ! 大佐と大尉はどうする? 後ろから指揮を執るか?」

「冗談はよしとくれ! 私もマートレットⅡをもらうよ!」

「俺は仲間を自分で引っ張っていく以外の方法を知らん。キロbisを使わせてもらいたい」


 マーカスは集まったAIたちに拡声器で呼びかけてから再びゾフィー元大佐とデイトリクス大尉に向き合う。


 どうやら連隊長役や大隊長役に抜擢されたゾフィーやデイトリクスもHuMoを駆って戦場に立ちながら指揮を執るつもりであるらしい。


「OK! ……お~い! そこの2機はこの2人が使うぞ! それから各機付の整備員はライフルの弾倉に榴弾HE徹甲榴弾AP-HEも混ぜてくれ!」


 ライセンス持ちのAIたちは各機体の元へと走り出していき、整備員たちはローダーを稼働させてライフルの弾倉に砲弾を装填していく。


 それにしてもマーカスを始めゾフィーやデイトリクスも話が早い。

 端的で、内容に過不足が無く、小気味が良い。

 軍人特有の気質なのだろうか?


「ああ、それからサブちゃんは陽炎に乗ってくれ!」

「え、私? マーカスは!?」

「俺も1つ大隊を預からせてもらうからな。サブちゃんの後ろで指揮を執らせてもらうさ」


 確かに1個大隊の指揮を戦いながら執るというのは難しいだろう。


 連隊長のように各大隊の後ろに控えているならともかく、陽炎は我々が保有する戦力の中で2番目に有力な物であるので、そんな事で陽炎の火力を無駄にする愚は犯せないだろうし、デイトリクスが言うように自分が最前線に立つ事で大隊を引っ張っていくというやり方も陽炎と他の機体の性能があまりに開きすぎているが故にそれも難しい。


「ああ、それならパイドパイパーは私に任せてくださいよ」

「期待しても良いのかね?」

「ハッ?」


 当然ながら私が陽炎に乗るという事は私が乗ってきたパイドパイパーは空くというわけで、そのパイロットに名乗りを上げたのはマサムネだった。


 マーカスは煽るように「大多数がランク2の中で、貴様にランク5の機体を預ける価値があるのか?」と問うが、マサムネは挑発的な笑みを浮かべてそのままパイドパイパーの元へと向かう。


 正直、特殊な機体であるパイドパイパーは私では持て余し気味。

 となれば、あの機体をもっとも効果的に使えるのは粕谷1尉をモチーフに作られたというマサムネくらいしか思い浮かばないのだから彼が使うのが最善手かもしれない。


 だが、あっという間に次々と物事が決まってしまっていって私は呆気に取られてしまっていた。


「機体が決まったら同機種3機ずつで小隊を組んでゾフィー連隊に参加申請を出してくれ! 中隊、大隊はこちらから割り振る! 中隊長に立候補する者はいるか!? 軍歴のある者は是非、立候補してくれ!」


 マーカスは傍らの若い整備員を捕まえてホワイトボードを持ってこさせると拡声器で各パイロットへと呼び掛ける。


「なあ、なんで小隊は同機種なんだ? 違う機種同士で弱点を補ったらいいじゃないか?」

「サブちゃん、ロボットアニメの見過ぎじゃないのかい? そもそも弱点突かれちゃダメだろ?」

「そういうもんか?」

「それに違う機種同士の小隊だなんて、機体の長所を殺すだけさ」


 マーカスの説明によると、たとえばキロのような鈍重な機体とマートレットのような機動力に優れる機体が小隊を組んだ場合、マートレットの速度にキロはついてこれずに小隊の速力はキロに合わせる事になるのだという。

 逆に敵の砲火を掻い潜って突撃を仕掛ける場合にキロならば耐えられるものが装甲に劣るマートレットは脱落してしまう場合も考えられるそう。

 雷電も同様で、小型の雷電ならば身を隠せる遮蔽物も他機種ならはみ出てしまうという事も考えられるわけでマーカスは同機種での小隊編成を命じたのだ。


 マーカスの考えに対してゾフィーとデイトリクスは当然のように賛同し、反対に山下は私と同じく少しだけ納得がいっていないよう。


「そういうもんかねぇ。俺は『白兵戦用+中距離砲戦機+長距離支援機』とか『白兵戦用+砲戦仕様機+電子戦機』みたいなのを想像してたんだが……」


 山下も時間が無い中で異を唱えるつもりはないようだが、それでも釈然としない表情を隠そうとはしていない。


 無理もない。

 そもそもこのゲームのゲームデザインは山下が想像しているものに近いのだ。


 大概のプレイヤーは自分1人か自分と担当AIの2機編成が基本。

 それにフレンドやミッションの都合で同行する事になったプレイヤーと部隊を組む事になれば違う機種での編成になるのが当然といえよう。


 他機種同士で部隊を組むのならば互いの長所を活かして短所を補うよう動くのも当然だろう。


 つまりマーカスが異質なのであり、軍歴有りのキャラ設定を持つAIもそれは同様といえようか。


 そうこうしている内にゾフィーのタブレット端末には次々と連隊への参加申請が届いてきて、端末を受け取ったマーカスはてきぱきと各小隊を連隊の枠へと組み込んで、それをホワイトボードへ書き込んでいく。


「陽炎を主軸にして敵の正面と当たるサブリナ大隊にマートレットⅡはもらうぞ。デイトリクスと山下の大隊は雷電改とキロbisが主力だ。デイトリクスの大隊にはキャタピラー、パオング、パス太の3名を任せる。上手く使ってくれ!」

「了解!」

「ハゲは専用機のセンチュリオンを上手く使ってくれ! マサムネのパイドパイパーは一応、連隊長の直轄という事にしておくが遊撃として好きにやらせてやったほうが良いと思う」

「はいはい。今さらですがハゲっていうのは止めてくれませんかね?」

「ようするにあの兄ちゃんが突っ走らないか見とけってこったね!」


 マーカスの第1アルファー大隊には3機小隊が4個の中隊が1つと3機小隊が3個の中隊が2つ。それに私の陽炎を合わせて計31機。


 デイトリクスの第2ブラヴォー大隊と山下の第3チャーリー大隊はそれぞれ3機小隊が3個の中隊3つに大隊長機を加えて28機の編成。


 その他に連隊長機とその直轄部隊として14機が用意されて、これらは連隊長の護衛に各大隊に空いた穴を埋める役割と前線で弾切れになった機体へ弾倉を届ける役目を担う事になった。


 これで機数こそ5倍以上の差こそあれど1個連隊の形が付いたわけだ。


「よ~し、それ中隊長に指定された者も集合してくれ! ブリーフィングを始めるぞ! それ以外の者はできる事は少ないだろうが、各人に合わせたセッティングを行っててくれ!」


 ハイエナ・プレイヤーたちが指定したタイム・リミットまで残り12分。

 格納庫をせわしなく動き回るタグカーを掻い潜るようにして中隊長役のパイロットたちが小走りで集まってくる。

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