49 陽炎出現

 続いて私が向かう先では5機の敵機が味方機と戦闘中のようであった。


 ホバー状態で向かうニムロッドの上空を小型のミサイルが追い越していく。

 ジーナちゃんの雷電重装型からの援護射撃だ。


 倒壊しかかった廃墟を越えて目的のポイントについた時、敵はミサイルの着弾の混乱からまだ立ち直る事ができないでいた。


「でやぁぁぁぁぁッ!!!!」

「ボディがガラ空きだぜッ!?」


 混乱した敵機に対してトミー君の雷電陸戦型が大剣を振り下ろし、中山サンタモニカさんの双月がサブマシンガンを撃ちまくりながら突っ込んでショルダータックルで突き倒す。


 私はニムロッドにビームソードを抜かせて倒れた敵機の胸部へと突き立て、返す刀で別の1機の胸を突く。


「浅いかッ!?」


 だが敵機も後ろに跳んでビームソードは雷電の胸部装甲だけを溶かした形。


 敵が銃が構える前に他の手近の敵機の様子を窺うとトミー君が鉈のような大剣で両腕を切り落としたところであった。

 これなら目の前の相手に専念できると私は敵機の剥き出しとなったコックピットブロックへとライフルを向けてトリガーを引く。


≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫

≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫


 さらに両腕を失って攻撃の手段を失った敵に向かってライフルを連射。


≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫


 残る1機はいつの間にやら背後に迫ってきていたハリケーンがその長い腕を活かして首筋やら脇腹やら背部だとかを両手の大型ナイフでメッタ刺しにしていく。


≪友軍機が雷電を撃破しました!≫


「オラ! オメェら!! チンタラしてんじゃねぇゾ!?」


 さらにハリケーンは先にトミー君の大剣を受けて倒れていた敵機に痛烈な蹴りを入れて胸部装甲を蹴り飛ばすとコックピットブロックに機体重量をかけたナイフを突き立てる。


「……アレ? 貴女、メアリさんよね……?」

「おう。テメェ、ピーチクパーチクさえずって敵のHPヘルスなんぼ削れんだ?」


 まるで花火のように火花を散らしながらハリケーンが手にするナイフは少しずつ敵機のコックピットブロックの装甲を削っていき、そしてナイフが一気に入っていったかと思うとサブディスプレーに敵機撃破のログが流れる。


≪友軍機が雷電を撃破しました!≫


 腰を上げたハリケーンはまた別の獲物を探し求めて私たちの前から立ち去っていった。


「ヒャッハ~~~!! ブチ飛ばしていくぜぇ~!!!!」

「あ、メアリさん! 単独行動は……、って、行っちゃった……」


 インターバル期間中に地下の駐機場で会った時はどちらかというと弱気な傾向が見受けられたメアリさんであったが、通信機越しに聞こえてきたハリケーンのパイロットの言葉にその戦い方はとても同一人物とは思えない。


「なんだか怖い人でごぜぇましたわね……」

「もしかしたらパイロットにしてはいけない人だったのかもしれないわね……」


 今にして思えば、あのハリケーンの本来のパイロットであるアルパカさんがなんで負傷をおしてまで機体に乗り込もうとしていたのか。

 その理由の一端はもしかしてアルパカさんはパイロットにした時のメアリさんの気性を知っていたからこそ、ライセンス持ちのAIがいながらも自分が乗りこもうとしていたのかもしれない。


 ……まあ、彼は彼で歳のわりにとっぽい兄ちゃんだったので意外と良い組み合わせなのかもしれないが。


「アレかしらね。現実世界でも稀にいる、普段は良い人だけど車のハンドルを握ると人が変わっちゃう人ってヤツかしらね……?」

「リスポーンできない現実世界であんなのいるんですか?」

「意外とね……」


 すでにハリケーンの姿は見えないが、先ほどチラリと見えたかの機体の脚部の足首を守る脛から伸びていた装甲はどこかで引っかけたのかベコボコに凹んでいた。


 だが現実世界の公道では出くわしたくないような性格の人物だろうが、戦場ならば話は別だ。

 現に先ほどみたハリケーンのHPはビタ1減少してはいなかった。


「そういえば先ほどハリケーンが戦っていた時、特異な高周波音が検出されてました。あのナイフは高周波で切れ味を増すタイプの物なのでしょうね」

「ああ、だから押し付けてるだけで電動ヤスリをかけてるような火花が飛び散るわけね」






 それから私は中山さんたちと別れて難民キャンプ中を行ったり来たりの各所の火消しのような役割を果たす事となった。


 砲弾が飛び交う戦場の空にはミサイルが白煙を引き、敵の戦力は無尽蔵かのように次々と新手が出てくる。

 私もあっという間にライフルの弾は弾切れ寸前まで追い込まれるが、弾薬補給係に残しておいた作業用雷電から新しい弾倉を受け取って戦闘を再開。


 幸い、味方機は被弾損傷こそあるものの撃破されたものは1機もいない。


「第一ウェーブと違って、前もって準備しているだけでこれほどまでに戦えるとはね」

「ええ。ですが安心はできませんよ?」

「分かってるわ」


 第一ウェーブでは妨害電波からの奇襲により連携も取り辛く、場当たり的な対応を余儀なくされていた。

 それに主力であったハズのジャギュア隊があっという間に全滅していった事で精神的にも追い込まれていたのかもしれない。


 それが今はこうも戦えているとは。


 改修キットを使った効果もあるだろう。

 だが私のニムロッドの他はランク2.5から3.5の機体がほとんどなのである。


 なのにマモル君に監視してもらっている味方機のHPはほとんど減っていない。


「おっと!!」


 廃墟を曲がった時に不意に出くわした敵のキロの4本脚バリエーションをライフルの連射で始末する。

 敵の反応が鈍く反撃をもらわなかった理由はすでに頭部のメインカメラを損傷していたが故だろう。


「携行ミサイルランチャーでセンサーを潰されていたから仲間の隊列から落伍していたのかしらね?」

「かもしれませんね。HuMoが装備している火器でやられたにしては損傷範囲が狭いと思います」


 難民キャンプ各所へのカメラの設置により限定的ながらも監視網を設置。

 少ない戦力から1機を割いた弾薬補給により継戦能力の向上。

 さらに廃墟に身を潜めた難民たちが不意を突いて対HuMo兵器による攻撃を加えて敵の戦力を奪う。


 これらの戦法により私たちは優位に戦えていた。


 ……だが、まだだ。


 まだ陽炎も月光もその姿を確認されていないのだ。


 私がマモル君に味方機のHP状況を監視してもらっていたのはステルス機である月光の活動の兆候を見逃さないためでもある。


(……どこ? どこにいるの?)


 数時間前にいいようにやられた敵との再戦を見据えて自然と私の口角は上がる。

 見る者がいたならば、その表情は狼が獲物を狙う様に例えるのかもしれない。


 私自身、逸る心を抑えるのに苦労していた。

 飢えた狼が哀れな獲物の生き血で喉を潤すように、私の闘争心は仇敵との再戦に飢えていたのだ。


 そして、その先にはホワイトナイト・ノーブルとあの機体を奪ったプレイヤーがいる。

 ランク4.5のニムロッド・カスタムⅢでランク6の敵に勝てないのならば、どんな機体に乗ったところであの純白の騎士王に挑むだなんて夢のまた夢だ。


(どこにいる!? 私の敵!!)


 だが、ついに待ち望んでいた報が入る。


「……来ました。管制より通信、陽炎を発見!」

「どこ?」

「0時の方向……」


 月光よりも先にボスである陽炎の登場か。

 まあ大型機である陽炎の対処をしているところに月光がチャチャを入れてくるという状況は考えていたところではある。


 ひとまずは月光が出てくるまでは少しは陽炎のHPを削っておく事にしよう。


 ええと、0時の方向というのは自分の正面方向だから……。


 しかしマモル君が続けた言葉は私を驚愕させるものであった。

 私以外の誰だってそうだろう。もしかしたらこのゲームの運営である姉だってそうなのかもしれない。


「それと1時、4時、8時の方向です」

「陽炎はどれなの!?」

「……全部です」

「……は?」

「4機の陽炎が出現しました。1時の陽炎は急速接近中、残りの3機は遠方よりこちらへ砲撃を行うべく動きを止めています」


 陽炎が、4機!?

 そんな事、姉から聞いてはいないぞ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る