48 戦場を駆ける
私がニムロッドにライフルを両手で抱えさせ、ジャンプのために腰を屈めてフットペダルを踏み込むと何かのファンが高速で回る高周波音がコックピット内に響きわたり機体は跳び上がる。
改修によって各機器が入れ替えられたおかげがいつもコックピット内でどこからともなく鳴っていたコポポという水音はすっかり無くなっていたが、私はニムロッドを天井にぶつけそうになってそんな事など一瞬で頭の中から消え失せてしまう。
「き、気を付けてください。スラスターの推力は上がっているんです」
「ゴメン、でもこれほどとはね」
なんとか水平方向へとスラスターを吹かして途中で止まったエレベーター台の上に着地。
気を取り直して再びスラスター併用のジャンプで地上を目指す。
「あ、マサムネさん……」
「正直、虎代さんよりあの人が来てくれた方が大きかったですね」
駐機場にいた時には死角になって見えなかったが、エレベーター台上の雷電重装型の車体の上にはマサムネさんの姿があった。
パーソナルジェットパックを背負い、肩には携行ミサイルランチャーを担いだマサムネさんは軍隊式の敬礼で見送る。
装備を見れば彼はこれから生身の状態で戦場に飛び出していくつもりである事は明白であったが、その表情は穏やかそのもので、彼を見た時の第一印象である「乙女ゲーの登場人物」そのものといってもいい。
まあ、乙女ゲーに出てくる美少年はミサイルランチャーなんて担いだりはしないだろうけど。
「そうよねぇ。トクシカ氏に改修キットを使わせてくれるように交渉するのもマサムネさんだってやってくれそうだしねぇ……。そんな事より出るわよッ!!」
私はニムロッドを高く跳び上がらせていた。
機体はエレベーター孔から飛び出してもさらに上昇。廃基地の建造物すら飛び越えて周囲を見渡せるほどにまで駆け上がっていく。
「あ、馬鹿ッ!? なんで包囲されてるって分かってるのに高く飛ぶんですか!!」
「んなこと言ったって、レーダーがマトモに使えないんだから自分の目で確かめるしかないでしょ!!」
マモル君の懸念どおりにすぐに私目掛けてあちこちから対空砲火が上がってくるが、その時には私の機体は急降下していた。
上昇と下降、正反対のGに歯を食いしばりながらも私の目はマップ画面を表示させていたサブディスプレーに釘付け。
未だ周囲は妨害電波によりレーダーや長距離通信は使えないまま。インターバル中にありったけのカメラをかき集めて難民キャンプ中に設置してはいるし、周囲の味方機の情報を基地施設を中継して共有できるようにはしているものの、カメラは第二ウェーブ開始直後の対地ミサイルの絨毯爆撃によって半分近くが故障してしまっていたし、味方機は私を含めても地上に上がったのは12機のみ。当然ながらどうしても死角はできてしまう。
それに私のニムロッド・カスタムⅢはボス戦のために温存しているサブリナちゃんのパイドパイパーを除けば味方機でもっとも戦闘力が高い機体だ。
中山さんの双月が上空に上がれない状況ならば私が上がるしかないだろう。
無論、ニムロッドだっていつまでものんびりとしているわけにもいかないが、対空砲火が上がってくるまでの短時間で私は周囲へニムロッドのメインカメラを向けてある程度の情報を取得することができていた。
ニムロッドからの情報は妨害電波に影響されないレーザー通信で基地施設に送られ、味方各機へと提供されていく。
「……まだ陽炎と月光は出てきてないようね。なら予定通り……」
「味方機の援護に回りましょう」
そして私のニムロッドの役割はもう1つ。
ボス戦までの間、味方機の損耗を防ぐために基地内のランクの高い敵やまとまっている敵を潰していかなければならない。
先ほどの索敵で現在地から3時の方向に4機の敵が固まっているのが見えていた。
私はスラスターをホバー状態にして敵機の方へとニムロッドを向かわせる。
改修により運動性、スラスター性能が向上しながらも、それでいて本体重量は僅かながら軽量化を果たしたニムロッドは私の操縦に良く応え、旋回、加速ともに素晴らしい仕上がりとなっていた。
これならば陽炎、月光とも渡り合えなくもないのでは、と地下にいた頃の不安は見事に消し飛び、始めてニムロッドを見た時のような胸の高鳴りすら感じるほどだ。
ニムロッドが倒壊しかかった廃墟から飛び出した時、そこにいた3機の敵は味方機と戦闘中。
両肩にガトリング砲を背負ったマートレットの足元に別のマートレットが倒れている所を見るにすでに1機は倒したようだ。
「突っ込むよッ!!」
「お姉さん、フレンドリーファイアって知ってますか?」
ちょうど側面攻撃の形となった私はライフルを撃ちながらホバー状態で距離を詰めていく。
マモル君の声もいつもながらの私の行動を非難するものながら切羽詰まった様子はない。彼もきっとニムロッドの性能に満足しているのだろう。
とはいえマモル君が言うように味方の流れ弾を受けてHPを減らすのも馬鹿らしい。
廃墟の死角にいる味方機の射線に出ないようにしながら84mmバトルライフルで次々と敵機を屠っていく。
哀れ私と味方機とのクロスファイアから逃れる事ができずに3機の敵機はあっという間に撃破されていく。
最後に残った太ましい機体も破れかぶれになったのか私の方を向いた時に側面から撃たれ、脇腹を貫通した砲弾は逆側へと抜けていき「く」の字の姿勢となった敵機はそのまま爆散。
「助かったぜ!!」
「おっ! ライオネスちゃん、やるじゃねぇか!」
敵機と戦っていたのは釈尊さんとローディー。
ともに出撃していった2人はそのまま敵機と戦闘に突入していたようだ。
短い戦闘で私は確かな手ごたえを感じていた。
改修を受けたローディーの烈風と釈尊さんのマートレット・キャノンに被弾は無し。
もちろん私もだ。
それに最後の敵機を打ち抜いた射撃はマートレット・キャノンの担いだ大砲によるもの。
しかも相手はニムロッド。
ゴテゴテと増加装甲を取り付けていたから最初は気付かなかったものの、サブディスプレーにはしっかりと「友軍機がニムロッドを撃破しました」とログが流れているし、撃破された敵機の左右で大きさの違うアイカメラはニムロッドの特徴そのもの。
つまりランク2.5相当のマートレット・キャノン・カスタムは側面からならばニムロッドをワンパンで撃破できる威力の砲を持っているわけだ。
うまく射撃に集中できる機会を作ってあげれば対陽炎戦でもきっとその火力を発揮してくれることだろう。
それに友人であるテックさんを失ったばかりのローディーもひとまずは目の前の戦闘に集中できている様子。
ベテラン傭兵NPCである彼がちゃんと仕事してくれるのか心配の種の1つであったが杞憂であったようだ。
「それじゃ私は行きます」
「おう! お前も死ぬなよ?」
「はい。2人とも気を付けて」
新たな敵機を求めてニムロッドを駆けさせる私にローディーが後ろからかけてくれた言葉には隠しきれない優しさが溢れていて、死んだらそこまでの彼に対して死亡判定をもらってもガレージで復活する身としては申し訳ないような気分になった。
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