47 ミサイルの雨の後で

 揺れる。


 数多の対地ミサイルが土砂降りの雨のように難民キャンプに降り注ぎ、地下の駐機場へも大地震のような長く続く揺れが伝わってきている。

 脚部や胴体部の複数のサスペンションやコックピットのシートの衝撃吸収装置を介してすらハッキリと知覚できるほどの揺れなのだ。


 一体、機体の外ではどれほどの揺れになるのだろうか?


 駐機場の天井から埃が落ちていくのが見えるし、揺れのせいで転んで尻もちをついた整備員が同僚たちに起こされているのもニムロッドのカメラに映っている。

 地上のミサイルの炸裂音や空を切って飛来する風切り音に混じって突如として対空機関砲の発砲音とモーターの作動音が鳴り響く。


 すでに地下の駐機場と地上とを繋ぐ大型エレベーターは3分の1ほど上げられて途中で止められていた。


 姉からの情報で事前に第二ウェーブの開始は対地ミサイルの一斉射撃から始まるというのは聞いていたのだが、空いたエレベーターの孔からミサイルが地下へと飛び込んでくる危険性よりかは衝撃によってエレベーターが故障してしまう危険性を重視した形である。


 そのために大型の爆撃機や輸送機ですら乗せられそうなほどに広大なエレベーター台の上の四隅には牽引式の対空機関砲座が据え付けられ、中央にはジーナちゃんの雷電重装型が鎮座している。


 エレベータ孔への直撃コースを辿っているミサイルがあったのか対空機関砲座が射撃を開始したのだ。


「バンカーバスター、来ます!」

「了解! 迎撃開始します!」


 ジーナちゃんの機体のバックパックの左右に取り付けられている大型ミサイルランチャーは最大まで仰角を上げられて準備は万端。


 管制役の傭兵組合職員さんからの通信に応じた重装型の左右のランチャーから2発ずつ小型ミサイルが発射されてエレベーター孔から大空へと駆け上がっていく。


 一方の私はミサイルがもたらす揺れにも慣れてしばらくは手持ち無沙汰の状態。


「ねえ、マモル君。バンカーバスターって何?」

「ああ、地中の中にまで貫通してくる大型のミサイルですね。ただの対地ミサイルなら地表で信管が炸裂して地下まで被害は出ないでしょうからエレベーター孔に飛び込んできそうなのだけ迎撃しとけばいいのでしょうけど、バンカーバスターはそういうわけにもいかないって事でしょう」


 確かにこの廃棄された基地の地下施設には大量の難民や建築や土木の作業員たちがスシ詰め状態。

 地下にまで飛び込んでくるミサイルなんて物があるのならこちらもミサイルを使って確実に撃ち落とさなければならないだろう。


 そして数分間の斉射の後、不意にミサイルの着弾は止む。


「それでは手筈どおりに……」


 通信からマサムネさんの声が聞こえてくるとエレベーター台の上、ジーナちゃんの機体の隣に置かれていた無人の作業用雷電がその両肩の先に取り付けられていた大型プロペラエンジンを作動し始めた。

 瞬く間にプロペラは回転数を上げていき、やがて事前に定められていた回転数に達すると全身のスラスターを吹かして離陸を始める。


「やっぱり完全に包囲されてるわよね」

「そら向こうも4時間のインターバルの間に難民キャンプから逃げていこうとする者がいないか監視しなければならないでしょうからね」


 これ見よがしに高度を上げていく無人雷電に対してすぐに対空砲火は上がり始め、対空ミサイルも放たれる。


 事前に難民キャンプの各所に設置されていた無数のカメラの生き残りたちからもたらされた情報によると対空砲火は四方八方から。


 被弾しながらも定められたプログラムに従って飛行していた雷電も結局はランク1相当の機体。

 すぐに撃墜されて空中で爆散。


 だが撃墜されるまでに敵の注目を一身に集めていた無人機は合計で数百発の砲弾と10発以上のミサイルを敵に使わせる事に成功していた。

 そういう意味ではマサムネさんが言うように作業用の機体としては最大限に有効利用されたわけだ。


「それでは各機、出撃をお願いします!」

「了解ッ!!」


 気を引き締めるように声を張り上げると同じように各パイロットからの声が入ってきて、狭いコックピットの中でも大勢の仲間の存在を感じて私は少しだけ安心した。


 そして各機は出撃前の打ち合わせどおりに順番に出撃していく。


 最初はトミー君の雷電陸戦型、メアリさんのハリケーン、そして姉の雷電IWNだ。

 3機がスラスターを併用したジャンプでエレベーター台に飛び乗り、再びジャンプして地上へと出ていくのを見送る。


「……あのパチモンも雷電だと思えば普通に動くじゃない?」

「そりゃ、アレはただの雷電の装甲をちょっと変えただけのような物ですからね。元がホビー用という設定とはいえ、ゲーム内では戦闘用のものと変わりませんし」


 私たちはニムロッドのコックピットで見送るが、外では整備員たちや難民たちが大きく手を振って出撃していく機体たちを励ます。


「死ぬなよ~~~!!」

「負けんな~!!」

「頑張るっスよ~!!」


 ……うん?


 なんか帽子や手を振る者たちの中によく見知った者の姿が……。


 なにやら長身の女性がスイカみたいな2つの胸を奮わしながら腕を振っている。


「ね、姉さんッ!?」


 思わず私は機外スピーカーを起動して大声を出してしまった。


 姉さんの機体はたった今、エレベーター孔から出撃していったというのに当の姉は見送りの集団の中にいたのだ。


「姉さん、どうして? なんで?」

「あ、ライオネスちゃん。マサムネ君が機体を他の人に任せろって言うんスよ~!」

「……ええ」


 という事はアレか?

 元々は機体を失ったトクシカ氏の私兵2人と建築作業員2人が作業用キロ2機と作業用雷電2機に乗るハズであったものが、マサムネさんが作業用雷電1機を無人で使う事にしたためにパイロットが1人余ったわけで、姉の機体を私兵なり建築作業員に割り振ったという事か?


 なに?

 姉の戦闘能力って建築作業員NPCにも劣るってわけ?


「……そういえば、βテストの時の動画投稿サイトの生配信で虎Dの『撃破されたら配信速終了企画』って30分持った試しが無かったさ~」

「そういえば、ちょくちょく罰ゲーム企画でも激辛ラーメンとか食べさせられてたでごぜぇますわ……」


 次に出撃する予定のキャタ君のズヴィラボーイがニムロッドの肩を叩いていく。


 キャタピラー君とともに傭兵NPCのオデッサ、キロbisのウライコフ製3機が出撃していき、ローディーの烈風、釈尊さんのマートレット・キャノン、中山さんの双月が続く。

 つづいて作業用キロ2機が出撃していった後はいよいよ私の番だ。


 私が最後になったのは私のニムロッド・カスタムⅢがもっとも敵のボス格と対応できる可能性が高いから。

 そのためにエレベーター孔から飛び出した直後に被弾する危険を避けるためだ。

 真っ先に出撃していった3機が機動性、運動性に優れている3機だったのもこのためである。


 すでに対空砲座の射線やバンカーバスターを撃ち落とすためのミサイルの発射位置からこのエレベーターの位置は敵にバレているだろうという事でこういう出撃順になったわけだ。


 そしてジーナちゃんの重装型は途中で止めたエレベーター台の上で待機。

 弾薬補給係の作業用雷電も戦闘開始直後はその必要がないので待機で、同じくサブリナちゃんのパイドパイパーも敵のボス格2機が出てくるまでは温存のために待機だ。


「……それじゃ行くよッ!!」

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