20 イベントランカー

「ところで、ですけど。ライオネスさんのHuMoってどんな感じの機体なんですの?」


 中山さんと初めての小隊プレイを終えてそれぞれのガレージに戻り、それから私たちは反省会兼次回の打ち合わせのために前回と同じファミレスへと集まっていた。


「ええと……、今はこんな感じね」


 中山さんや3人のユーザー補助AIたちは前回の食事からあまり時間が経っていないせいかサンドイッチやフライドポテトなどの軽食を頼んでいたが、私は前回の食事を肉食獣ジャッカルどもに奪われていたので1人だけガッツリと鯖味噌定食を頼んでいた。


 質問に対して私はマモル君から借りたタブレットに現在のニムロッドのステータスを表示させてから中山さんへ渡す。




ニムロッド

ランク3

HP/8,800

装甲値/900

運動性/120

ジェネレーター出力/1,400

冷却器性能/1,600

推進器性能/1,313(+5%、基礎値1,250)

センサー性能/180

プロセッサ性能/140

FCS/遠B 中B 近B


武装/25mmCIWS(装弾数600発)(固定)

   84mmバトルライフル(20発用弾倉取付済み)

   84mm弾20発用予備弾倉×4

   120mm半自動拳銃(装弾数8)

   120mm拳銃用予備弾倉×1

   大型ビームソード

   鍛造ナイフ




「ほお! やはりランクが1つ上がるだけでも結構なもんでごぜぇますなぁ!」


 中山さんとこのトミー君が乗ってる雷電陸戦型もニムロッドと同じバランス型の機体で、どちらかというと装甲防御よりも機動性特化寄りの機体なのも同じである。


 ただしサムソン製のニムロッドが高い基本性能を持つのに対して、トヨトミ製の雷電陸戦型は拡張性に重きを置いた設計がなされている。

 そのためにニムロッドと雷電陸戦型はランク差以上にスペックがかけ離れたものとなっているのだろう。


 中山さんは随分と興味深そうな顔をして自分のタブレットを取り出して私のタブレットに表示されている内容と見比べ始めていた。


 その間に食事をと箸を手に取る。

 ファミレスの鯖味噌はいかにもなレトルト風味の物だったがその分、簡単に箸でほぐれる。

 一口大に切り取った鯖味噌を口に運ぶ前にライスの上にバウンドさせてから食べ、その後に追いかけるように魚の旨味が存分に染み出た味噌ダレの乗った白飯をかきこむ。

 脂が抜けきるほどに長時間の真空調理がされた鯖の身は思わず頬が緩むほどに柔らかく、魚の身から抜けた油や旨味が溶け込んだ味噌ダレが白米との間を取り持ってくれるのだ。


 魚、白米ときたら次は味噌汁。

 だがウェイターさんが持ってきてくれた時には確かにあったハズの味噌汁はいつの間にか無くなっていた。

 定食が乗せられた御盆には汁椀のスペースだけがぽっかりと空いていて、そこに何かがあった事を主張しているかのよう。


「……マモル君、ポテトと味噌汁って合うのかしら?」

「ええ、意外と」


 右から聞こえてきたズズズ……という何かを啜る音を頼りに横を見てみると、そこには汁椀を片手にフライドポテトを摘まむマモル君の姿があった。


「……何か言う事はない?」

「ええ、そうですね。お姉さんは馬鹿だから気付いてないでしょうけど、味噌の匂いって日本人以外には臭いものなのだそうですよ? トミーさんとジーナさんはどうみても日本人じゃないのですから配慮が欲しいところですね」

「そう……。って、貴方も日本人じゃないでしょう!? 日系人かもしれないけど!!」


 このゲームの登場人物はほとんど惑星トワイライト産まれトワイライト育ちのトワイライトっ子である。

 もちろん純日本人風の顔立ちのマモル君だって人種的な設定はともかくトワイライト人なのだし、プレイヤーだってゲームの世界ではトワイライト人である。


 そもそもマモル君はトミー君とジーナちゃんに配慮してとっとと味噌汁を処理してあげているというスタンスでいるようだが、当の2人はマモル君を羨ましそうな表情を隠さずにサンドイッチを食べている。

 どこからどうみても悪臭を放つ異民族の謎の発酵食品を見る目ではない。


 第一、このゲームのプレイヤーは日本人を想定しているのだから、味噌汁が嫌いだなんて日本人から反感を買うようなキャラクターを設定するだろうか?


「と、とりあえず2人とも単品で味噌汁頼んでみる?」

「あ、いいっスか?」

「わ~い! 私も!」


 トミー君がテーブル脇の注文用タブレット端末をうきうきした様子で操作し始めた頃、中山さんが2台の端末を私へと渡してきた。


「どうです? ライオネスさんも見てみません?」

「それじゃあ……」




雷電陸戦型

ランク2

HP/6,000

装甲値/700

運動性/115

ジェネレーター出力/980

冷却器性能/1,300

推進器性能/1,120

センサー性能/105

プロセッサ性能/100

FCS/遠C 中B- 近B-


武装/76mmサブマシンガン(30発用弾倉取付済み)

   76mm弾30発用予備弾倉×6

   三連装ミサイルポッド×2

   鍛造ナイフ




「これは確かにランクが1つ違うだけなのに結構な差があるものねぇ……、ちなみにサブマシンガンのランクは?」

「あれはランク2の物でごぜぇますわ。他にミサイルポッドはランク1の物を」

「ああ、課金特典のやつよね」

「ええ。ああ、でも重装型の大型ランチャーはランク3の物でごぜぇますわよ」


 本来であれば追加武装を取り付ける事で機能を拡張していく事ができるトヨトミ系列の機体だが、その装備はいたってシンプル。

 その結果として私のニムロッドとはいかんともしがたい性能差が生じていた。


 おそらくは積載量に優れるジーナちゃんの雷電重装型の武装を優先しているのだろう。

 その代わりかジーナちゃんの機体が装備していたライフルは初期配布機体のオマケのランク1の物だった。


「いや~、でも今回のミッションではライオネスさんのおかげで50万クレジット以上も儲ける事ができましたわ!」

「え? 私のリザルトはプラス80万ちょいだったけど……?」


 反射的に口にしてから気付いた。

 私と中山さんで同じミッションを合同で受領して、30万ほどの収支差が生まれた理由は1つしかない。


「修理費ってそんなにキツいの?」

「いえいえ、今回はガッツリ儲けさせて頂きましたよ。2機くらい落とされると『難易度☆☆』のミッションでは場合により赤字になってしまいますもの……」


 前回のミッションではトミー君の陸戦型は撃破寸前まで追い込まれていたし、中山さんの双月も装甲はほぼ全とっかえが必要なのではと邪推してしまうほどに損傷していた。むしろ華奢な双月で格闘戦なんかしてしまっていたせいで機体のフレームまで歪んじゃいないか心配なくらいだ。

 一番、マトモな程度のジーナちゃんの重装型だって被弾はゼロではない。


 彼らの戦法がいつもこの調子で、特別報酬がもらえなかったりすると、確かに足が出てしまうのも分からないではない。


「……こ、こう言っちゃなんだけどさ。よくランク2の機体を2機にランク3の武装を2つも買う事ができたわね」


 こんな収支状況で、たまにミッションを失敗なんかして赤字を出して、よく現状の機体と武装を購入できたものだと呆れかえってしまう。


 中山さんも私と同じ未成年であるので一ヶ月に課金できる金額は制限があるハズ。

 親名義のアカウントを使うなど上手くその制限を逃れて課金しまくったのだろうか? 失礼なのは分かっているが、いわゆるマネーヌーブというヤツなのでは? と邪推してしまう。


「ええ。オープン初日の緊急ミッションで儲けさせて頂きましたもの」

「……うん?」


 そこで彼女の口から出てきたのは思いもしなかった意外な事実であった。


「ああ、サンタモニカさんもあの緊急ミッションに参加してたんだ。でも私、あのイベントの貢献度ランキングにギリギリ入ってたけど、大してもらえなかったわよ?」

「あら? そうだったんでごぜぇますの? 私は1位でしたから、その報酬で重装型とミサイルランチャーを買う事ができましたの!」

「……そ、そうだったんだ…………」


 正直、軽く見てた相手にあのイベントで負けていただなんてショックだった。


 ランキング1位の双月と言われれば確かに記憶にある。

 そもそも私は上空から情報を回してくれていた双月のおかげでノーブルを追跡する事ができていたのだ。


 確かに私もランキングに入っていたが、あれは私を攻撃するためにノーブルが速度を落としていたという事が評価されての、いわばお情けと言ってもいいようなものだ。

 それに比べればランキング1位の双月にけっこうな報酬が支払われていたとしても分からなくもない話である。たとえ緊急ミッション自体が失敗に終わっていたとしてもだ。


 それが中山さんだっただなんて意外も意外。

 だが私はショックを受けると同時に、双月の有用性と中山さんというパイロットが持つポテンシャルを再認識していた。

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