14 邂逅の時、迫る

 件名:夜間街道警備(難易度:☆☆)


 私たちの3度目のミッションにして、初の「難易度☆☆」のミッションはとりあえず様子見という事で、すでに経験済みの街道警備ミッションの夜間版。


 難易度が上がったとはいっても、このミッションは夜戦のチュートリアルとでもいうべきもので、敵襲はあったもののやはり戦闘ヘリが6機と偵察要員なのか車両が2両、それと最後にキロが1機だけ現れただけだった。


 またキロか……、と思ってしまったが、前回のミッションで出てきたキロが作業用の物であったのに対して、今回のミッションでは正真正銘の戦闘用のキロが相手だ。


 今回のミッションでの教訓は2つ。


 まずは夜間戦闘と昼間戦闘との違い。


 カメラが高感度モードになっているせいか、敵のミサイルをCIWSで迎撃すれば爆発の閃光で一時的にアイカメラの機能が低下してしまうし、昼間なら何てことはない距離の敵も月が雲に隠れてしまえばアイカメラでは見る事ができなくなってしまうのだ。

 無論、周囲が暗くなったところでレーダーには問題ないわけでレーダー画面には敵機が映るし、なんならメインディスプレーにも敵機の位置がマーカーで表示される。だがマーカーだけ見えていたところで敵がどのような動きをとろうとしているかまでは分からず、そのせいで戦闘ヘリを相手に無駄弾を撃つ事となってしまったのだ。


 もう一つがこのゲームの装甲システムについて。


 キロとの戦闘の際に前回はライフルで命中弾をえる度に850前後のダメージを与える事ができていたのだが、この850という数値は「このライフルでこの砲弾を使った時のダメージ量」という事であり、それにランダムの振れ幅をかけた結果だったのだ。

 これは前回のミッションで登場した作業用キロが戦闘用の装甲を持っていなかったがためにこちらのライフルの砲弾が容易く貫通できていたがためである。

 対して今回のミッションにおいてはキツい角度で入ってしまった75mm砲弾は敵機の装甲に阻まれて虚しく弾かれてしまっていた。

 それでも着弾の衝撃は装甲の内側に伝わっていくらかの被害は与えたという事で貫通時の何割かのダメージは与える事ができていたが、敵機を倒すのにわずかでも余計に時間がかかったのは確かである。


 まあ、こっちも向こうも動き回りながらでの戦闘であるのできっちり敵の弱点だけ狙えるものではないだろうし、そういう事もあるもんだと頭の片隅にでも入れておくくらいでもいいのかもしれない。


 とはいえ、結局はふんだんに用意しておいた対空砲弾とニムロッドの性能もあって難なくクリア!


 ミッションクリア!!

 基本報酬  540,000(プレミアムアカウント割増済み)

 修理・補給 -42,950

 合計    497,050


 取得 技術ポイント:34 スキルポイント:1




 件名:砲兵陣地の警護(難易度:☆☆)


 続く4件目のミッションには内心ながら期待していた。

 何しろ他の傭兵ジャッカルと合同でのミッションである。

 しかも依頼文には新人傭兵、つまりはプレイヤーも複数名が参加できるというではないか。

 私はソロでの参加だけど、他にも同じミッションを受領したプレイヤーがいたならば交流ができるのではないかという淡い期待があったのだ。


 結論からいうと他の傭兵と交流を図る事はできたし、私以外のプレイヤーも同じミッションに参加していた。


 だが折角、出会えた2人のプレイヤーはタンク型砲戦仕様のHuMoに乗って護衛される側。そして私は護衛する側。

 どうやら2人は私が受けた「砲兵陣地の警護」というミッションではなく、「武装犯罪者集団アジトへの砲撃任務」というミッションを受けてきたようである。


 当然ながらHuMoの戦闘はミサイルやら大砲といってもいいようなライフルで撃ち合う物であるので、護衛といってもすぐ近くで敵が来るまでおしゃべりしているわけにもいかないのだ。


 せっかくVRMMOゲームをやっているのだから……、と他プレイヤーとの交流を目論む私の期待はこうしてもろくも崩れ、代わりに私とバディを組む事となったのが初めてのミッションで出会った烈風乗りのローディーであった。


 そしてこのミッション最大の敵といってもいい存在こそが「頼れる相棒」であるハズのローディーなのである。


 このミッションの概要は山岳地帯に設けられたハイエナたちのアジトに主力部隊が突入するまで砲撃支援を行う砲兵部隊を護衛するという物であり、敵も砲撃部隊へ妨害を行う事が予想されるため、護衛部隊はバディを組んでそれぞれ割り当てられた受け持ち範囲の奥にいる砲兵部隊への攻撃を防ぐというもの。


 前回の夜間街道警備のミッションと難易度こそ同じだが今回は単独での任務ではなく、しかも護衛対象である砲兵部隊もタンク型ながらHuMoであるために最低限の自衛能力は有しているという事も考慮されてか出てきた敵機もHuMoのみ。


 私もこれは稼ぎ時と意気込んだものの、ローディーのオッサンが相方が新人だからと張り切ったのか私に敵を回してくれないのだ。


 ならばこっちはこっちで勝手に動かせてもらおうかとも思ったものの、ローディーの烈風は肩に57mmガトリングガンを担いで、腰の両サイドには35mmガトリングを1基ずつ。さらに手にも大容量ドラムマガジンを取り付けたライフルを装備した圧倒的弾幕仕様。


 雷電、マートレット、キロなどのランク1機体ならばあっという間に溶けていく鉄の暴風雨を前に私は技術ポイントを得る事ができず、ポチポチとおこぼれを貰う程度の活躍しかできなかったのだ。


 いきなり弾幕シューティングゲーをやらされる羽目になった敵には同情するしかないが、当のローディーは新人にベテランの風格を見せつけたつもりかゴキゲンである。

 彼の精神構造は良く分からないが、数撃ちゃ当たるとばかりに有効射程を超えた最大射程ギリギリから射撃を開始する彼のスタイルにはベテランの妙技などはまるで感じられないのだけど彼はそれでいいのだろうか?


 というか私の撃ったミサイルすら弾幕で撃ち落としておいて悪びれる様子もないのはどうかと思う。


 そんなこんなで気付いた時にはミッションは終わり、受け持ちエリアに現れた敵機は8機いたにも関わらず、私が取得できていたスキルポイントは2ポイントのみ。


 ただスキルポイントは撃破した者に与えられる仕様なのに対して、技術ポイントは貢献度に応じて分配されるらしいのでいくらかはもらう事ができた。

 後はまたノーダメージクリアであったために修理費がかからなかったのと、多分だけど砲兵部隊もノーダメージであったせいか特別ボーナスを貰えたのが救いか……。


 ミッションクリア!!

 基本報酬  600,000(プレミアムアカウント割増済み)

 特別報酬  240,000(プレミアムアカウント割増済み)

 修理・補給    -750

 合計    839,250


 取得 技術ポイント:21 スキルポイント:2


 忸怩たる思いでリザルトを見てみたら、取得ポイント的には「難易度☆」ミッションよりは稼げているし、クレジットもめっちゃ稼げてるので何だかな~という気は晴れないが、ここは大人しくローディーに感謝しておこう。






 さてVRゲームの世界がどれほどリアリティーのある素晴らしいものであろうと、けして越える事ができない壁がある。


 ゲームの世界でどれだけ美味しい物を大量に食べようとリアルの世界の体の栄養にはならないし、ヴァーチャルリアリティーの世界で何をしようが現実の世界のベッドで寝ている肉体の膀胱はパンパンになっていく。


 4回目のミッションを終えた後、ゲームシステムからの通知で尿意が一定値を超えた事が警告されたので、頃合いも良い事だしと一度ゲームからログアウトする事にした。


 眼前の空間に現れたログアウトのシークバーが進んでいくにつれて徐々に肉体は尿意と空腹感を取り戻していき、ログアウトが完了するとVRヘッドギアに内蔵されているヘッドマウントディスプレーに「お疲れ様でした」の文字が浮かび上がって私は現実世界へと帰還する。


 目覚めの良い朝のような感覚と、それが夢だったならば徐々に薄れていくであろう記憶がいつまでも鮮明なままであり、もう1つの世界へと行っていたのだと自覚していく感覚。


 机の上の置時計を見ると時刻は夕方の5時半ほど。


 とりあえずは差し迫った尿意に対処するためにベッドから飛び降りた私は自然と頬が緩んでくるのを抑える事ができなかった。


 面白い。

 姉が作ったゲームがこんなにも面白いとは思わなかった。

 なんなら詰まらないゲームなら、身内の応援のつもりでプレミアムアカウントだけ購入して後は放っておこうかとも思っていたのだけれどもとんでもない。

 いつの間にか私は「鉄騎戦線ジャッカル」を骨の髄まで味わうつもりとなっていた。


 正直、難解なシステムには未だに不慣れであり、よく分からない事だらけなのではあるが、それが「鉄騎戦線ジャッカル」の世界の奥深さを肌で感じさせてくれるのだ。


 幸い、今日は土曜日。

 明日も学校は休みだし、宿題は頑張って昨日の夜の内に終わらせている。


 再びゲームの世界に戻る前にしっかりと腹ごしらえをして、ゲームの世界に戻ったらどうしようか?


 まずは私の担当の毒舌少年にメシでも食わせて、ニムロッドの武装の新調でもしようか?


 だが、この時の私はまだこの後に宿敵と思い定める相手との邂逅が待っているだなんて思いもしなかったのだった。

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