良い花は後から咲く
私、七条 綾 改め 安藤 綾となる為、スペインバルセロナにやって来ました。
二人だけの結婚式を挙げるため。
悟さんのプロポーズはこんな感じだった。
―――――シェアホームの屋上で
『綾 ここから先は俺と生きてください』
私はもっとタフだと思っていたわ、そうあるべきだと。けれどそうじゃなくてもいいんだと、悟さんは教えてくれた。あなたのやさしさに溺れた。
悟さん、もう涙の中で私を愛さないで......ごめんね沢山心配させて。
バルセロナにはガウディが建てた建物やアパートも残っているの。10代の頃、私は一人旅でバックパッカーをした。
バルセロナにはパリから15時間もバスに揺られた。若かったのね。バスではアラブ系のおじさんにずっと絡まれてたわ。今回は飛行機でひとっ飛びね。
私は悟さんとこの街に来たかった。
今日夢がまたひとつ叶った。
綺麗な碁盤の目になったストリート、数ブロックを歩く。一階部分はみんなおしゃれなお店。
上は生活空間。カラフルな洋服が無造作に干してあるベランダがたっくさん並ぶ。
サグラダファミリアの手前にある公園を抜け、私達はせっかくだから、サグラダファミリア協会へ入ったの。
悟さんは言葉が出ないよう、不思議な形で聳え立つ協会の塔を見上げている。
「悟さん、あの塔くるくるして登れるのよ。行く?私は昔登ったけど。ちょっといえかなり不安定よ、風は吹き曝しだし......でも圧巻の景色なの。間近で協会の外壁も装飾も見られるの。あれから10年以上だから変わってるかしら」
「俺.....高所恐怖症なんだ」
え?建築家が高所恐怖症.......聞かなかったことにしますね。
協会から近いヤモリの石像が張り付いたような公園や湾曲した不思議なアパートビルを見上げながら、店のモデルになったレストランを目指したの。もう無いかな.....と思ったらあった。
「俺はサグラダファミリアも感動だけど、ここが一番感動した」
「赤白のギンガムチェックのテーブルクロスまで昔と同じだわ」
私は二人分のコーヒーを頼んだ。
cafe with cream ってフランスではカフェオレが出るけど、スペインはなぜか、cafeと聞くと勝手にエスプレッソが来るのがお決まり。
「ちっちゃ」
そう言ってぐいっと飲んだ悟さんは渋そうに顔をしかめてました。なんとも可愛らしい悟さんです。
その後、私達は小さな協会で気持ちばかりの控えめな白いドレスとスーツに着替えました。
神父さんが英語で誓いの言葉を言ってくれます。
悟さんも私に言われたとおり「I do 」を言いました。
きっと意味も分からなかった。でもそんなことは重要ではなかったの。
今日、この日、この景色、この場所、全てがかけがえのない私達二人だけの思い出になる。
悟さんは、結婚指輪を私の指にすっと通す、私も繊細で男性にしては細い彼の指に通す。
You may kiss the bride.
そしてキスをした。
「綾 死が二人を分かつまで共に生きよう」
「うん 悟さん 死んでも一緒にいるわ」
その晩ホテルで私達は、確かめ合うように何度も体を重ねた。
「......悟さん」
「綾 我慢しないで.......いいんだよ 全てさらけだして 俺に全部......俺に任せて」
彼の目はあのときと同じ、とても優しく強く、触れられる度、荒く重ねる唇に、魂ごと吸い込まれていく―――。
ありがとう。悟さん、私に出逢ってくれて。
ありがとう。悟さん、私の側にいてくれて。
ありがとう。あの時こっそりキスをしてくれて。
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