悟さんに出会った頃
大学を出て私は商社で働いていたの。
営業飲み会にはチラッと顔を出すも開始小一時間で般若が迎えに来る。そう、私は完全に保護者付き社員だった。
ある日私は体調を崩した。しばらくめまいが定期的に出るの。検査しても原因不明。
実家へ戻りもやもやしていたら、トロフィーが目に入った。着物コンテストや、歌の賞のそう私は子供の頃からミーハーな母により芸能を目指していた。事務所にも所属していた。大人になり舞台に出ながら、来る仕事はレポーターやインフォマーシャル。いつの間にか諦めた叶わなかった夢。
急に心がざわつき、私はまたそれを追うことにした。ラストチャンスで。スポットライト症候群よ......目立ちたがりなのね。
結局は叶わなかったんだけど。
その傍らで、ネットショップも立ち上げ、夜はスナックで働いた。そう。あのママの店。
「ん〜あなたちょっと夜っぽくないからお客に受けるかどうか〜」
そんな事を言われて入ったんだけど、入店一ヶ月で売上一番になった。不思議とお客さんの顔、名前、仕事、ボトルの場所を覚えるのは得意で。
この頃、般若は怒り心頭。私があれやこれやと、夢だのスナックだの暴れまわったから。
般若は全部お金出すから、結婚して仕事はやめろと言った。私は頑なに拒否していたの。
ある日、般若が悟さんを連れてきた。スナックに。
きっとおバカな私を説得させようと、連れてきたの。
「あ 安藤 悟です。陽介の友達してます」
「初めまして。かおるです。ここでは....」
悟さんは私を説得するどころか、応援してくれた。目をキラキラさせて私の話を聞いてくれてたわ。
「陽介 こんなに素敵な子縛り付けちゃ駄目だ」
ある日スナックに見張りのように張り付いた般若は酔っぱらい。私がエレベーターに乗ってお客さんを下まで送る時に一緒に酔っぱらい般若が乗った。お客さんは、エレベーターで迫ってきた。でもそんなの日常茶飯事。
私は上手くかわして、外へ出る。ちょっとしつこかったけど許容範囲だったわ。
でも、それを良しとしない般若はあろうことかお客さんに攻め寄る。
私は悟さんに連絡しておいたの。いつも酔っぱらい般若は悟さんが連れて帰ってたから......。
「おまえっ誰の女にあんなことを!」
般若はいきなりお客さんの胸ぐらを掴む。私は間に入って「やめて!関係ないでしょ」と騒ぐ。
そう、飲み屋街に一日に数回は繰り広げられるあの小さな酔っぱらい騒動。
般若は力が強く私は弾かれて高いヒールなのも手伝いひっくり返りそうに、後ろから私をキャッチした悟さんが
「なんだ 酔っぱらいすぎだろ 帰るぞ」と半ギレした。
私に「大丈夫?」と言って脱げたヒールまで拾って履かせてくれた。
あぁ今思い出したらキュンキュンする.....。
あれがガラスの靴だったらよかったのに。
それ以来般若は出禁 ママから出入り禁止を言い渡される。
ある夜、店からの帰り道私は一人で歩いていた。酔っぱらいに絡まれないように早足で坂道を歩き人通りの少ない坂道まで登る。
反対側の歩道を歩く怪しい男が付いてきていた。じっとその男を見たら、ニヤッと笑った。私は怖くてとっさにヒールを脱いで走った。裏道に入って曲がり角を曲がって、途中まで追っかけてきたが、私は振り切りコンビニに着いた。
怖かったから般若に電話したら、コンビニまで血相を変えて悟さんが迎えに来たの。
般若は出禁で怒って、迎えになんか行くかと言ったそう。
「綾ちゃん 大丈夫だった?怖かったでしょ」
この時、私には悟さんの優しい顔より般若が来てくれなかった悲しみの方が大きかったのかもしれない。
裸足の私を見た悟さんは、私をおんぶしてマンションまで歩いた。
「軽いね 何処まででも歩けそう」
「ありがとう 悟さん」
私は、この時悟さんの背中で泣いたの。きっと彼は知らない。
それ以来私は、店を出るときジーンズにパーカー、スニーカーに着替えるようにした。
私が結局スナックを辞めることになった頃
最終日は沢山のお客さんが来てくれた。けれど下心で来るお客さんも多く、私は閉店後店から出るにも、最後にアフターしようと待ち構える客に出待ちされる状態。
ママに非常階段から裏に出るよう言われ、黒塗りの長い螺旋階段を降りる。
最後の階で、悟さんがいた。控えめな数本の赤いバラの花束を持って。
「おつかれさま」
その日は雨がしとしと降っていて、悟さんの黒い大きな傘に入れてもらい歩いた。
私はずっと悟さんの横顔を少し下から見ていた。賑やかなはずの夜の街が静かに見えた。
普通はこれ、恋に落ちてもおかしくないのにね。私は悟さんを般若の友達っていう以上に見ないようにしてたみたい。もし、般若の友達じゃなかったらきっと.....。
その夜私はスナックで使ってた携帯の電源を落とし、後日解約した。徹底して夜の世界は引退。まぁ今はバーだから復活でしょうか.....。
その後は、般若と悟さんと3人で会うと、般若はやたらとラブラブアピールをした。私の手を握り、肩を抱き、しょっちゅう頭や額にキスをして。いつもそんな私達の前で悟さんは優しい顔してた。
その後しばらくして、あの花壇チュー事件があったのですけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます