いつか神へと至るため

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プロローグ 戦場の花

 フランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスが提唱したラプラスの悪魔と呼ばれる存在がある。

 この悪魔は、これから起こる全ての事象と、これまでに起こってきた全ての事象を理解している存在だ。

 つまり、を理解している全知の存在である。

 だが、ここで一つの逆説が生まれる。

 未来の予測が可能であるということは、同時に未来の改変も可能になる。ということだ。


・・・・・・・・・・


 自分の周りで人が死んでいく。

 抵抗することも許されず同級生たちが次々と虐殺されていく。

 銃という近代兵器を用いられて。


 悲しみは無かった。

 見てきたからだ。この未来を。


藍綺あいき君。速く!こっち来て。」


 呆然と戦場を眺めていると、手を引かれる感覚で我に返る。

 幼馴染みの桜木桃花さくらぎももかが俺の手首を握り走っていた。

 普段の光沢のある綺麗な長い髪は粉塵や土埃で汚れていて、学園支給の軍服じみた純白の制服は所々焼き切れている。

 整った綺麗な顔は汗と涙やらの液体でぐちゃぐちゃで、僅かな刺激を加えればすぐにでも崩れてしまいそうだ。


 彼女に引かれるがままに銃声から逃れ随分と走った。

 息を切らし、肺を裂かれそうな痛みに襲われても彼女は止まらず、涙を流し涎を垂らしながら無我夢中で走り続けた。

 道中で会話を交わす余裕も彼女にはなく、俺の手首を握る力もだんだん弱まっていく。


「大丈夫………。大丈夫………。大丈夫………。絶対に大丈夫だから。」


 走りながら自己暗示を繰り返す彼女の顔色はとても青ざめていて、そして―――――――――ひどくに見えた。



 

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