憎悪、そして……

遠藤良二

第1話

 あたしは彼を憎んでいる。もともと女好きな彼は、あたしという彼女がいながら浮気をした。彼は二十一歳で年下のあたしの後輩に手を出した。後輩に話を訊いたところ、

「好きな物買ってあげるから、俺と付き合わない?」

 と、言われたそう。彼女にはあたしと付き合っていたことを隠していたらしい。彼女が、元カレに、

「彼女いないんですか?」

 訊いたところ、

「いないよ」

 と嘘をついたらしい。

 それなら、ということで付き合ったよう。でも、あたしからのLINEが結構きていたので問い詰めたところ、あたしと付き合っていることがバレた。後輩はあたしに、

「先輩の彼氏なのに、付き合うとかすみません……」

 謝ってきた。元カレをぶっ殺したい! あたしは彼のことだけを見ていた。それなのに……。元カレとは一度別れている。でも、未練があって、少なくともあたしの側は。そして、再び付き合った。


 友人には、新しい恋を見付けて元カレを見返してやんなよ、と言ってくれた。でも、あたしが住んでいるのは田舎でなかなか出逢いがない。元カレはたまたま学生時代にバスケ部で知り合って再会して盛り上がり交際に至った。でも、その彼とは別れた。二度目はこっちから振ってやった。ざまあみろって感じ。


 出逢いはネットでも探せる。出会い系サイトや、マッチングアプリなどがある。ネットは友人が言うには怖いイメージがあると言う。でも、あたしは気にしていない。と、いうか怖いと思ったことがない。でも、出会い系サイトは怖いという評判を聞いたことがあるのでは、マッチングアプリに登録してみた。記入はいろいろとある。プロフィールや相手に望む年収、自分の年収など、まだまだたくさんある。あたしは、ちゃんとした彼氏が欲しい。浮気をしないことが大前提で、あたしが働かなくても大丈夫なくらい経済力のある男性を希望。すぐに結婚はしなくてもいい。だって、あたしはまだ20歳だから。30歳くらいまでの男性が許容範囲かな。友人からは、

「30歳なんておっさんじゃん!」

 言われるけれど、あたしは気にしていない。大人の男という感じがしてあたしはいいと思う。なので、男性の希望年齢には30歳までと入力した。後はサイトの方から通知があるまで待つ。


 あたしのスマホがピンポーンと鳴った。LINEがきた。誰だろうと思い開いてみると、後輩の心こころから。内容は、

希美のぞみ先輩! 私、彼氏が出来ました。紹介したいんですけど、いつならいいですか?>

 あたしは、何だのろけ話聞かされるのかよ、と思ったが、かわいい後輩の彼氏だ。一度くらいは見ておこう。それで損することはないはずだから。

<明日の夜は? 七時くらいに>

 少ししてからLINEはきた。

<わかりました。彼氏にも訊いてみます。私は大丈夫です>

 それから一時間くらい経過したかな、心からLINEがきた。早速、開いた。

<お待たせしました。さっきのことですが、彼氏は明日夜勤らしくて……>

<それなら仕方ないね。また今度にしよう>

<すみません、私のことなのに>


 それで彼女とのLINEはとりあえず終わった。あたしは思った。心の彼氏の男友達紹介してもらえないかな? と。そのためにはまず、心の彼氏と変な意味じゃなく、仲良くならないと。そう思い、再度、心にLINEを送った。

<彼氏はいつなら都合がいいの?>

 しばらく時間が経過してからLINEはきた。

<今、彼氏に訊いてみたら三日後なら大丈夫だと言っていました>

<それでもいいよ>

<わかりました。夜七時でいいですか?>

<いいよ>

<では、彼にLINEしておきますね>


 まずは、心の彼氏に会ってみてどういう人か判断して、なおかついい人なら友達を紹介してもらおうかな。それは、とりあえず言わずに秘めておこう。


 それから三日後。あたしは仕事を終え、帰宅したのが午後六時頃。まずは、シャワーを浴びメイクをし直した。服装は、今は夏なので薄手のものにした。水色のTシャツと、ダメージジーンズを身にまとった。


 心の彼氏の車で移動するのかな? あたしは、そうLINEを送った。返事はすぐにきた。

<彼が私を迎えに来て、それから希美先輩のアパートに向かいますね>

<わかったー>


 午後七時を回った頃、部屋のチャイムが鳴った。あたしは、スマホとたばこと財布と鍵をバックに入れて、立ち上がった。そして、玄関に向かった。

「はーい!」

 と、返事をした。

「心でーす」

 そう聞こえたのでチェーンロックと鍵を外し、ドアを開けた。

「こんばんはー」

 笑顔で心の顔が見え、その後ろに彼氏と思われる男性が立っていた。

「希美さん、こんばんは! 初めまして」

「あっ! こちらこそ、はじめまして」

 彼氏はなかなかのイケメン。ていうか、あたしのタイプかも。そんなことは心には口が裂けても言えない。もし、そんなことを口にしたら、今まで慕ってくれた心と疎遠になってしまう恐れがある。それは避けたい。


「今回は私の彼氏を紹介するためにきてもらったの。将次まさつぐっていうんです」

「将次さん、よろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「いくつですか?」

「僕は22です」

「あっ! あたしの2個上だ」

「そうなんだね」

 将次さんは急にため口になった。でも、それは年上だからいいけれど。逆にあたしの方が敬語で話さないといけない。敬語は面倒なので訊いてみた。

「将次さんの方が年上だけど、ため口でもいいですか?」

「ああ、いいよ」

 心は不満なのか、あたしを見ている。もしかして、睨んでいるのかな? 馴れ馴れしいかもしれないところを、心は気に食わなくて睨んでいるのかも。


「心、今夜は何をする?」

「あたしが尋ねる」と、

「希美先輩はもう夕ご飯食べたんですか?」

「いや、まだだよ」

「私達もまだなので、ご飯食べに行きませんか? 将次もいい?」

「僕はいいよ」

「そうね、仕事終わってから何も食べてないからお腹空いた。ご飯食べに行こうか」

「私はラーメン食べたいです。将次は?」

 彼は考えている様子。

「そうだな。ラーメンでもいいよ。希美さんは?」

 彼が訊いてくれた。なかなかに優しい。

「あたしは、ピザが食べたいけど、多数決だとラーメンね」

 言いながら、あたしは笑った。

「じゃあ、両方食べますか?」

 心も笑っている。彼氏も。

「そんなに食べられないよ。いいよ、ラーメンで」

「ありがとうございます!」

 将次さんはだまっていた。あたしの言い方が気に食わなかったのか何も言わない。それとも、割と無口な方なのかな。まだ、会ったばかりでよくわからないけれど。


 あたし達は町で評判のいいラーメン屋に向かった。


 十分くらい車を走らせ着いた頃には夜七時三十分を過ぎていた。でも、ラーメン屋は混んでいた。満席のようなので、店員に促され入口付近にある五脚の椅子に座った。

「やっぱ、人気あるね、ここのお店」

 あたしが言うと、

「そうみたいですね、確かに美味しいですからね」

 心が答えた。

 


 三十分くらい待っただろうか。ようやく店員に呼ばれ、四人掛け用の席に座った。あたしは内心こんなに待つなら違うラーメン屋でもいいのではないかと思っていた。でも、それはあたしのわがままかなと思い言わなかった。


 早速、メニュー表を見てそれぞれ決めた。

 あたしは、味噌ラーメン。心は醤油ラーメン。将次さんは味噌ラーメンを選んだ。

「あっ、希美先輩と将次の好み同じだ―。私も味噌ラーメンにしよー」

 心は嫉妬したのか、あたしは思わず笑ってしまった。

「希美先輩、何で笑うんですか?」

「いや、何でもないよ」

 あたしは将次さんに一瞥をくれた。彼は微笑を浮かべている。もしかして、あたしと同じことを思ったのかな。


 少しして、三つ味噌ラーメンが運ばれて来た。将次さん、心、あたしの順で置かれていった。湯気が立ち昇って熱くて美味しそう。椅子の奥側に座っていた彼はあたしと心に割り箸を取ってくれた。

「ありがとう」

 と、あたしがお礼を言うと、

「将次、優しいでしょ」

 のろけるように、あたしに言った。

「そうね」

 それだけ言ってあたしは、

「いただきまーす」

 食べ始めた。

「あたし達も食べようか」

 と、彼に言ってから二人は食べだした。


 暫くして食べ終わった。時刻は夜八時三十分近く。

「腹ごしらえも終わったし、次どこいこうか」

 あたしが言うと、

「カラオケ―!」

 心は勢いよく言った。

「いいな、行こう」

 割と大人しい将次さんは言った。あたしも、賛同した。


 心の彼氏だから何も言わないけれど、将次さんを足に使っているようで何だか悪い気がしてきた。


 カラオケボックスまで移動して、駐車し車から降りた。ここに来てようやく煙草が吸える。珍しく禁煙のラーメン屋だったし、将次さんの車の中で吸うのは気が引ける。だって、将次さんも心も吸わないから。だから、ずっと我慢していた。


 部屋に入り、あたしは灰皿を目の前に置き、喫煙した。美味しい。ようやく気持ちが落ち着いた。実は煙草が吸いたくてイライラしていた。それを必死に我慢していた。


 あたしは、もうそろそろ話してもいいかなと思ったので、思っていることを喋った。

「将次さん、訊きたいことがあるんだけどいいかな?」

 彼は不思議そうにこちらをみている。心も同様に。

「なに?」

「将次さんの友達で男の人紹介してくれない?」

「え? あっ、いいけど、何で?」

「あたしも彼氏が欲しくて」

 あたしは、照れ笑いした。飢えているみたいだと思ったから。

「そうなんだね。ピックアップしておくよ。連絡は心に言えばいいかな?」

「そうだね、よろしくね」


 あたしは思った。自分は盛りの付いたメス犬のようだと。それを二人に話すと、

「そんなことないですよ!」

 と、心は言ってくれた。続けてあたしは質問した。

「いつ頃になりそう?」

「友達と連絡が取れ次第になるよ」

「わかった、ありがとう」

 将次さんは何か考えているよう。何だろう?

「希美さんは、どんな男が好み?」

 なるほど、タイプを考えていたんだ。

「あたしは、細身の人が好き。顔は特にこだわりはないよ。性格は、優しい人がいいな」

「そうなんだ、わかった」

 彼は、どうやら模索しているよう。慎重に選んでくれているのかな。


「よし、あいつにしよう。蒼甫そうすけさん」

 将次さんがそう言うと、心は、

「蒼甫さんは年が結構離れているけど大丈夫かな?」

 と、言っている。

「希美さんは30歳の男は嫌かな? 年が離れ過ぎ?」

「いや、そんなことないよ。大丈夫」

「よし、じゃあ今からLINE送っとくね」


「今日はそろそろ解散しない?」

 と、心は言いあたしは、

「そうね、蒼甫さんていう人からLINEきた?」

「いや、きてないよ」

 結局、三人でいる間はLINEはこなかった。


 後から聞いた話によると、蒼甫さんは最近、彼女が出来たらしい。だから無理。こればっかりは仕方ない。


 はー、あたしにいつ彼氏ができるんだろう。いずれ出来るであろう将来のあたしの彼氏のために女を磨こう!


 そんなことを想いながら将次さんに家まで送ってもらった。


                               (終)

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憎悪、そして…… 遠藤良二 @endoryoji

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