そうしてぼくは自らの怠慢のツケを払うことになる

 

「おかえり」


 テレビを見ていた妹が視点も向けずにそう言ってきた。


 おかえりだなんて久々に言われたなと驚きながら「……ただいま」と返事する。その後特に会話が続くこともなく、ぼくは妹が見ているバラエティをぼーっと眺めた。


 ぼくは自分の快楽のために彼女の自殺を止めようとしている。だから、彼女がぼくに対してなにを思おうが関係ない。そのはずだ。

 なのにあの少女が涙を流したとき、ぼくの心がずきりと傷んだ。


 ぼくは空気が読めなくて、人の気持ちを理解する能力が乏しいと自覚している。いや、言い訳だろう。人のことを理解する必要なんてないと決めつけていた。わかろうとする努力をしてこなかった。だからずっとわからないままなで、空気を読もうとしないから、その能力も育たなかった。その怠惰のツケが、今になって回ってきたのだ。


 今日あの少女を泣かせてしまったように、妹のことも、ぼくは気づかぬうちにどれだけ傷つけてきたのだろうか。


 ぼくには今日、なぜ妹が久しぶりにおかえりと言ってくれたのかもわかない。だからぼくは妹に嫌われているのかもしれない。


 そんなぼくは、また今日のようにあの少女を傷つけるのだろう。そう思うと、次彼女に会うのがすこし怖くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る