誰もが特別ではなくなったこの世界で

第1話

　インターネットの発達した現代では、もはや、誰もが発信者

　誰もが自分の小説を書いて投稿でき、

　誰もがイラストを描いて投稿できる

　漫画も、動画も、アニメだって、努力次第で投稿できてしまう

　そんな、誰でも情報を発信できる環境では

　投稿者は、特別な存在ではなくなった

　だから、誰も、みんなにとっての特別には、なれなくなってきた

　かつて、作品をどこかに投稿して発表できる人々は、限られていた

　きちんと作品を完成させて、発表できれば、それなりに評価が返ってきた

　でも、今の時代はそうじゃない

　どれほど作品を作っても、完成させても、投稿できたとしても

　それが、「普通」になっただけ

　普通であるために、見向きもされず、評価もされず、埋もれて、忘れられてゆく

　それが、当たり前になった

　どれほど努力を重ねても、「普通」になることができるだけで終わる

　コンテンツ産業の世界は、すでにそうなってしまった

　普通から脱しようともがき、あがき、沼の底に沈んでゆく

　そして、うまく這い上がれた一握りの人だけが、評価を下されてゆく

　この状況を変えるのは、もはや不可能だ

　人々は、多様なコンテンツに溢れた、幸福な世界を望んでいる

　そんな世界の奥底で、今日もまた、一人の投稿者が生まれた

　それが、私だ

　私は、異常者だ

　異常であるために、「普通」にはなれなかった

　でも、この世界では、違う

　誰もが「普通」になれる

　特別で、特殊で、異常な存在ではなく

　あくまでも、見向きもされず、評価もされず、埋もれて、忘れられてゆく

　そんな「普通」の存在になることができる

　ああ、どれほどの祝福だろう！

　ようやく私は、「普通」を手に入れたのだ！

　さあ、歌おう！

　この、ありふれた「普通」の沼の奥底で！

　人々の幸福の行進に、踏みにじられながら！