殺意のあと
遠藤良二
第1話
※この作品はR-18です。この物語はフィクションです。
俺は人を殺したい。こんなことを思うのは普通はおかしいと思うだろう。でも、本当にそう思っている。いつか、誰かを。愛している女を殺して、死姦(しかん)するのも想像しただけでゾクゾクする。死姦というのは、死体を姦する(性的に犯す)ことを言う。
どうかしてるわ、俺の頭は。でも、これが普通なのだ。気持ち悪がる人もいるだろう。でも、そんなのはお構いなしだ。俺は殺したいのだ。人を。何なら、動物でもいい。動物を大切にする団体に知れたら黙ってないだろうけれど。
ネットで女と知り合いになって、そいつを殺して死姦してみたい。俺は変態だ。でも、そういう人間でそういう性(さが)だ。仕方がない。
この前、金属バットで父親の太腿を殴ってやった。ぼっこり腫れたらしいが、親父のことが俺は嫌いだ。俺は小さい頃、虐待を受けていた。そのお返しだ。いいざまだ。だが、やつは警察に通報した。俺は、「そんなことをしていない」とシラを切った。親父は、「お前だろ! やったのは!」。俺は明後日の方向を向いてとぼけた。親父は、松葉杖をついている。それを蹴飛ばしてやりたい。きっと、転ぶだろう。転んだら笑ってやる。
人は俺を親不孝者と言うけれど、そんなことは知るか! 関係ない! 母には愛想つかされて親父ともうまくいかず離婚した。でも、俺は見たことがある。俺はこんなだし、親父とも夫婦関係が悪くなって陰で泣いているのを。非情な俺は、何泣いてるんだ! と思い、見てみぬふりをした。
俺は、生きている女より死んだ女の体の方が興奮するのはなぜだろう? 反応のない体なのに。
葬儀屋の仕事をしている俺だが、年のいったババアの遺体より、やはり若い女の遺体の方が好きだ。だから、人目を忍んで遺体を触って楽しんでいる。
今は両親と住んでいるから食べさせてもらっているけれど、順番にいけば両親が先に他界する。でも、寿命でいえばどちらが先かはわからない。だから、いずれは独りになる。兄弟もいないし。親父は姉がいたが、去年、ガンで亡くなった。母はひとりっ子だ。だから俺は天涯孤独になる。なんせ、生きている女に興味がないのだから。だから、結婚もできないし、子どもも望めない。
でも、寂しいとは思わない。孤独という人生も気楽でいいかもしれない。死に向かって生きている人生だから、自分の好きなように生き抜いてやる。
俺は死ぬのが怖い。永遠の命が欲しい。でも、そんなことはいくら欲しても手に入らない。バカな俺でもそれくらいのことは知っている。だから、少しでも長く生きたい。
死体はいずれ腐敗する。だから、生きている人間のように何十年も共に過ごせない。残念ながら。でも、この方法はどうだろう? 冷凍保存。これなら冷凍焼けはするかもしれないが、だいぶもつだろう。
さあ、いったい誰を殺そうか。こういうことを考えるのも楽しい。ひとつ、問題なのは警察に容疑をかけられないこと。これが、難しいと思う。なんとかして、警察の目をすり抜けないと。もし、捕まったら俺の自由がなくなる。それは困るし、嫌だ。
若い女を殺す、という行為。よく考えてみたら将来のある人間を俺の欲望を満たすためだけに殺害するのは、どうなのだろう? なんだか、俺はとんでもないことをしようとしている気がしてきた。
でも、俺の欲求は収まらない。ネットで死姦している動画を見付けて、ひとりでなぐさめるか。それなら、罪にはならない。俺は決心した。よし、そうしよう!
それ以来、死姦をするのは好きだけれど、ひとりでなぐさめるようになった。ネットで死姦、と検索してみた。それに関する情報がたくさん出てきた。ムラムラしてきてたまらない! でも、俺は決めたんだ! 殺さない、と。
だが、その決意が揺らぎそうだ。あまりの強い欲求に負けそうだ。我慢、我慢。ひとをあやめるのは、俺にとっても不利な立場になることは承知の上だから。
その日はベッドにもぐり、目をつむり、無理矢理ねた。自身をなぐさめたから、欲求はすこし解消された。だから、寝れたのだと思う。
翌日。俺の仕事は休みだ。シフト制だから、土日は関係ない。ひとが亡くなれば出勤する、という経済的に不安定な職場。でも、俺は辞めない。好きな仕事だから。そのうち正社員になりたいと思っている。その旨はまだ上司には言っていない。以前、上司にアルバイトからパートにならないか? と言われたことがあるが、将来、年金をもらうための支払いが嫌で、アルバイトのままだ。
でも、最近、親に教えられたのは「厚生年金なら払いなさい。国民年金よりもらえる額高いから」と、言われてそれを知らなかったので、高いなら払おうと思い、パートになりたいと思っている。その次のステップアップが正社員。もっと早くに厚生年金の話を聞いていればパートになっていたのに。
親父のことは嫌いだが、金属バットで殴ってひどいめに合わせたというのに俺のことを許しているようだ。心が広い。意外だ。
それ以来、俺は親父のことをそれほど恨まなくなった。でも、死姦に対する興味はとどまることをしらない。むしろ、それは増大している。殺しちゃだめだ! と強く自分に言い聞かせながら生活している。このような感じで俺は生きていく。だが、それを揺るがすできごとが起きた。好きな女が出来たのだ。即座に死姦の2文字が頭の中をよぎった。いかんいかん、それはだめだ! と思った。俺は、その女に近づいた。付き合って欲しいと。すると「OK」をもらえた。それと同時に、死姦への意欲が急激に高まった。自分の気持ちでは止められないほどに。
そして数ヶ月後、俺はとうとうやってしまった。そう、その女を殺してしまい犯した。とうとう俺が今まで我慢してきたことができた。嬉しい! 俺は、翌日もそのまた翌日も死姦した。女の死体が腐敗するまで。
腐った死体はそのまま家に置いてやりたいことをやった俺は警察に自首した。思い残すことは何もない。ただ、企んでいることがある。刑務所から出たら、また死姦してやると。そんなことを思いながら警察の事情聴取をされていた。
(終)
殺意のあと 遠藤良二 @endoryoji
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