カエル
翔
カエル
周りは人っ子一人も見当たらない森の中にある池のど真ん中の葉っぱの上に俺はいた。
「ゲコッ」
池を覗き込むと薄緑のカエルの姿が浮かんできたのだ。
何故こんな姿になってしまったのだろうかカエルだぞカエル、両生類のカエルだぞ
慌てふためきながらもこの状況を打破出来るように一生懸命考える。
…駄目だ何も思い出せない。
このまま何もせずにのんびりと過ごすのも嫌だったので、葉っぱの上から離れて手がかりを探すことにした。
カエルになってから初めて泳ぐのだが苦ではなかった、寧ろ泳ぐ行為自体が好きだったのかカエルの姿でも楽に泳げた。
「あー凄くきもちいい」
スイスイと平泳ぎを駆使して池の周りを散策する。何もない大きな池に一人ポツンと取り残された俺は一体どこに行けばいいのだろうか。
ある程度泳ぎ切った後、次第に大きな影が見えた。
近づくとそれは大きい太ったカエルだった。
色は茶色で、目がとても大きい。
俺以外にもカエルがいるとは思いもよらなかった。
「ゲコッ…おめぇ見ない顔だなぁ」
デブカエルはニヤリとした笑みを浮かべながら俺に声をかけてきた。
「はっ、はい俺は信じて貰えないかもしれないんですが元々は人間だったんだが、目が覚めた瞬間に身体が何故かカエルになっていたんだ。」
つい馬鹿正直になって今までの経緯を言ってしまった。
絶対信じて貰えないだろうと思い込んでいたのだが、デブカエルは豪快に笑いながら
「ゲーッココッコォ!なんとお前さんワシの仲間かぁ!これは愉快愉快!」
顔がとてつもなく気持ち悪いがどうやら信じて貰えたみたいだ、だけど仲間…仲間とはどういう事なのだろうか。
「おーっ、信じてくれんとは…そりゃあそうじゃのうワシもつい最近目覚めたらここにいてのう、一人寂しく餌を取りながらカエル生活を満喫していたのじゃよ」
「いやいや信じますよ、えっとアンタはカエルになる前は何をしていたのか覚えているのか?」
「んお、覚えておるよ?以前はワシは大工をやっておった」
デブカエルの話はとても興味深かった。
先ずデブカエルの名は
しかし大掛かりな作業をする時に台から足を滑らせてしまい、気づいたらカエルの姿で今に至るとの事だった。
「それってアンタもう死んでるって事じゃないか?」
「おう!そういう事になるのう」
という事は俺はもう死んでいるという事なのか?
でも何で俺は何も覚えてないんだろう、デブカエル…源夢は最初からあったのだろうか。
「源夢は最初から記憶はあったのか?」
「おう!最初は何も思い出せなかったよ!」
即答だった。
ならこの思い出せない記憶も時間が経てば思い出せるようになるのだろうか。
「なぁお主、せっかくの縁なのだからワシと一緒に行動を共にしないか?
行動を共にすればワシみたいに急に思い出すかも知れんし、なによりもこうしてワシらがカエルになって出会ったのも何かしらの運命ではないかと感じるのよ」
「運命って…アンタ乙女かよ」
げんなりとした顔で言いながらも、何故かとても心地よかった。
それから源夢と共に行動する事になったのだが、それでも俺の記憶は一向に戻る気配がなく、延々と頭上を横切る虫を取ったり、泳いだりする事の繰り返しだった。
時々源夢が住んでいた街の話になったりして俺は笑いながら思い出話を聞く、だけど源夢本人の横顔がたまに切なく感じる時があった。
「時々、戻りたいと思う時があるんじゃよ」
彼の悲壮感漂わせる一言に何故か胸が締め付けられる、この生活に慣れてしまった為に忘れていた元に戻りたいという思いがまた出て来てしまった。
そして俺はまだ記憶が戻って来ていない、人間だった時はどんな人だったんだろうか知りたくてうずうずしていた。
何も変わらない毎日は前振りもなく突然終わりを迎える事になる。
いつもより雨の量が多い日、いつも通りに俺達は1日を過ごそうとしていた。
しかしいつも隣にいる源夢の姿が、どこにも見当たらなかった。
「源夢ーッ!」
大声で叫んだが、叫び声がこだまされただけで何も応答はなかった。
声が枯れるまで何度も叫んだが、一向に姿が現れる事もなく俺は源夢を探しに池に飛び込んだ。
池の周りを泳いでも相変わらず影が一つもなかった。
そもそもこの池には本当に源夢と俺しかいなかったんだろうか?
もしかしたらここは俺の妄想の世界で、源夢というカエルは本当は存在しなくて偽物だったのではないか。
途方に暮れて元の場所に戻ろうとした時、俺の真下から「気配」が襲い掛かろうとして来た。
咄嗟にその判断がついた事で難を逃れたが「気配」は休まずに俺を追いかけてくる。
必死になって逃げ回るが「気配」が追いかけてくるスピードはだんだん早くなってきてあっという間に追いつき俺の身体を包み込んでしまった。
例えるならそこは長い長いトンネルだった。
誰もいなく、心細い。
俺はどうなったんだろう。
源夢は一体どこにいったんだろう。
目の前に光が現れ、俺の身体を包み込む。
光は次第に消えていき周りがだんだん見えてきた。
上は白い天井、周りには人間が沢山だ。
俺の隣にいる男性は涙を流し何かを訴えている。
隣にいる看護婦も同じく涙を流して何かを訴えてる。
しかしこれは何とかわかる。
俺は元の場所に「帰る」事が出来たのだ。
カエル 翔 @shimurashouta
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