水無瀬彼方が死んだ理由を、僕は知らない

今福シノ

+ 1 month

 水無瀬みなせ彼方かなたが死んだ。だけどその理由を知る人は、誰ひとりとしていなかった。

 彼女は学校の屋上から飛び降りた。自殺だったそうだ。


 直後、世間は大騒ぎした。現役の女子高校生が飛び降り自殺。マスコミはまるで新しいおもちゃを得た子供のように彼女の死に群がり、センセーショナルな見出しをつけた。週刊誌、新聞、ワイドショー。彼方のニュースを目にしない日はなかった。

 それでも彼女が死を選んだ理由については、とうとうわからなかった。憶測が飛び交い、専門家が物知り顔で講釈を垂れたものの、全て推測の域を出なかった。


 やがて一ヶ月も経てば、世間には別のおもちゃが与えられた。芸能人の不倫スキャンダルだった。瞬く間に話題は塗り替えられ、どこもかしこもそれ一色へと変貌へんぼうした。世間にとって、彼方の死と芸能人の不倫は大差がなかったのだ。


 だけど、僕の色は変わりはしなかった。染料の染み込んだ生地のように、僕のすべては彼方の死一色に染まったままだった。

 僕にはできなかった。その理由を知らないままでいることなど。彼方の死の理由、いや真相を、僕は知らなければならない。


 それは義務であり、権利であり、使命だった。


 彼女の恋人だった、僕にとっての。

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