鈴の音が鳴る前に

さらぎれい

第1話 始まり

さあ、今日から高校生活スタートだ。といっても、何か大きく変わるなんて事もないだろう。いや、一つあるかも知れない。

「おい、零斗。なに立ち止まってんだよ。早くクラス、みに行こうぜ。

同じクラスだったらいいな」

引道韻夢ひのみちいんむ、昔の仲間がまた同じ学校になったんだ。

「おう。そうだな」

「お前、絶対思ってないだろ」

「そんな事は……って言いたいんだが、せっかく新しい学校生活が始まるなら、新しい奴らと関わってみたいとは思う」

「そっ、そうか」

何やら韻夢が悲しそうにしていた。このしけた空気は好きではない。だから

「はやく自分のクラスが何組か知りたい。急いで行こうぜ」

と声をかけた

「確か、あっちだった筈だ」

「そうか」

「ついてこいよ。零斗」

走るつもりはなかったのだが韻夢が走って行くので、仕方なく俺もクラスの展示場所まで走って行った。

「俺のクラスは………」

自分の名前がどこかを探していると韻夢が

「おっ、お前は1組か。俺は……ないよ、俺の名前、一組にないよ。」

「そうか、お前は違うクラスか。じゃあ、俺は自分のクラス行くからあとでな♂」

「ちょっ、待ってくださいよぉ」

韻夢が何か言っていたが無視して自分のクラスに向かった。

「さっきの態度はないんじゃないの?零斗」

「お前にそんな事、言われる覚えはねぇぞ、鈴佳」

コイツは橘鈴佳たちばなすずか、韻夢と同じく同じ小学校にいた女子だ。

「へぇ~。意外~。ちゃんと私の事、覚えててくれてたんだ。」

「まだまだ、記憶保持が困難になるほど老けてねぇからよ」

「じゃあ、ささねちゃん。赤木あかきささねは覚えてる?」

「ささね?おっ、おう。勿論だ。6年の時、一緒なクラスだった。アイツだろ?」

「ぶっぶー。ざんね~ん。そんな人はいませんでしたー。やっぱり、覚えてないじゃん。それでも私の事、覚えててくれたんだ。なんで?」

笑顔で鈴佳が聞いてきた。

「たまたまだよ。覚えてた数人のうちの1人がお前だっただけだ。」

・・・・・

「たまたまか~。そうだよね。まあそれでもいいや。覚えててくれてありがと。

零斗、1組になったんでしょ。私も1組になったんだよ。一緒に行こうよ」

「別にいいぞ。このまま直行するつもりだったから」

「てっきり、断るのかと思った」

「さっきからお前はなんで俺へのイメージがそんなに低いんだよ」

「だって、零斗ってそんな感じの人間だったじゃん」

「まあ、否定はしないっていうか出来ないか」

「それはいいから行こうよ。どんな人たちがいるのかな。楽しみだね」

「そうだな」

鈴佳の高校生活に対する色々な思いの語りを聴きながら1組まで歩いて行った。

しかし

「なんだか、緊張するね」

ドアの前で立ち止り鈴佳はそう言った。

「そうか?別に俺は何とも思わないし先に入らせてもらうぞ」

「待ってよー」

ガラガラガラ。


しーん。


何人かは席について居たがみんな緊張しているのか黙り込んでいる。

「あっ、あそこに座席表がある。」

鈴佳はそう言って黒板に貼ってある座席表をみにいった。それをみて、俺も同じように座席をみにいった。

「私の席はここか~。零斗は……」

「こ↑こ↓だ」

既に来ている男子たちの視線が俺に集まる。あっ、察し。

「そのイントネーション、何?変なのー

えっと、零斗の席は私の横の列かぁ。私が1番後ろで零斗が真ん中かぁ。結構、遠いね」

「そうだよ」

「じゃ、バイバイ」

そう言って鈴佳は自分の席に向かった。

「俺の席はあそこか」


「如月くんで良いのかな?」

「そうだが、お前は………」

「私の名前は越崎由香えつざきゆか

「俺は零斗、如月零斗きさらぎれいとだ」

「うん。知ってる」

「どうしてだよ」

「前の座席表見たから」

「そうか」

「さっそくだけど、如月くんのことインラギくんって呼んでもいい?」

「別に呼ばれ方なんてなんでも良いけどどうしてインラギなんだ」

「それはねぇ。淫夢中のインと如月のラギを併せてインラギどう?」

「(ああ~やっぱりバレちまったか)

やっぱり、それは勘弁してくれ。流石に淫キャとして3年間過ごしたくない」

「そうなんだ。ざんね~ん。

じゃあ、なんて呼べばいい?」

「零斗で頼む」

「如月くんじゃダメなの?」

「零斗の方がかっこいいだろ」

「はははははは

なにそれ~(涙 どれだけ自分大好きなの?

まあいいやよろしく零斗くん」

「くんもやめてくれ。」

「なんで?」

「くん付けってなんか下に見られてる気がするから」

「えっめんどくさ」

おいおいそんなガチで引かなくてもいいだろ


カラカラカラ


「全員、揃ってますね」

どうやら、越埼と話している間に他の奴らも来ていたようだ。

「私が担任の小木哲也助こぎてつやすけです」



「それだけですか」

誰かがそう言った。

「それ以外の事は皆さん興味ないですよね。20分後に入学式が始まるのでそれまでにトイレ等は済ませて5分前には廊下に整列して下さい」


わさわさざわざわガヤガヤ


先生がそういうと一気に教室が賑わい始めた。どうやら他の奴らもさっきの俺と同じように周りと話したんだろう。

「トイレでも行くか」

そう1人言を言って教室から出ようとすると

ばん。結構強めに背中を叩かれた。

「れいとー」

「いてーな。どうしたんだよ鈴佳」

「ちょっと零斗に聞きたいことがあって」

「なんだ?」

「いや、横の女の子と楽しそうに話してたからどんな関係なのか気になって」

「関係って……

アイツとは今日、会ったばかりだから知り合いになったぐらいのもんじゃねぇの?知らんけど」

「えっ、仲良さげにしてたから中学の時の何かかと思ったけど会ったばかりの子なんだ」

「仲良さげに見えたのはアイツのコミュ力が原因だろ。今度、話してみろよ。お前と合いそうだったぞ」

「そっか。今度、っていうか今から話してくるよ。じゃあ、バイバイ」

「おう」

こういうところが似てるんだよなあ。


さっ、鈴佳もいなくなったしトイレ行くかってか漏れる。ヤバイ、ヤバイ。

「ふぅー」

危なかったぁ。入学式から漏らしたりしたら、3年間おらしくんとかおさないくんとか言われちまうじゃねぇか。ってか、俺、変なあだ名付けられそうになりかけすぎだろ。あっ勝手に変な心配してるだけか。まあ、そんなどうでもいい事を考えていると

「あっ、お前は。韻夢の人!」

「やめてくれよ。俺は淫夢中かもしれないけど韻夢そのものではねぇよ」

変なやつに絡まれた。

「お前、もしかして、俺のことを変なやつと思わなかったか」

「さては、お前、読心術極めてるな」

「そういうお前は韻夢極めてただろ」

「そうだよ(便乗)」

しまったあーー。つい条件反射が

「やっぱ、お前、韻夢そのものだろ」

「そもそも韻夢そのものってなんだよ」

「いや、お前が言い始めたんだろ」

「そうだったけか」

はっはははは。

思わず2人で顔を見合わせて笑ってしまった。

「いいねぇ、お前、名前は?」

「如月 零斗 1ー1だ」

「俺は子月こつき 海彦うみひこ同じく1ー1だ」

「海彦か、まあよろしくな」

「零斗仲良くいこうぜ」

「いや、そういうのいいから」

「なんだよ。釣れないな~」

「そろそろ、時間だぞ」


「皆さん、早く並んで下さい。あっ別に順番とかは良いですよ。名前呼ぶとかそんなのはないので適当に並んで下さい」

「おっ、ラッキー」

「やるじゃん哲也助」

「やりますねぇ」

盛り上がってんな。てか、最後の誰だよ。あっ、俺だったわ。コイツ、淫夢大好きすぎだろ

「悪い、零斗。俺、彼女いるからソイツの横行くわ」

「おっ、おう」

コイツ、彼女持ちかよ。腹立つな。まあ、羨ましいとは思わんけど。

「じゃあ、私と行こうよ。零斗」

「何故に?」

「嫌?」

「そうじゃねぇけど、俺じゃなくていいだろ。友達と行け、友達と」

「いない(ぼそ)」

「なんでだよ。越崎とは仲良くなれなかったのか?」

「うん(涙」

「まあ、分かったよ。一緒に行くか。

あと、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。優しいね零斗は」

「そんなんじゃねぇよ」

おかしい、コイツの性格的に友達なんかすぐできる筈なのに。直接、越崎に聞いてみるか。何か、あるのかもしれない。

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