第42話 突撃っ!

 テストの答案が返され、受け取った大曽根さんがその場で跳び跳ねた。


「うわっ! やった! これで全教科赤点免れたし!」


 はしゃぐ大曽根さんにクラスのみんなが笑う。


「おいおい大曽根。志望校に受かったようにはしゃぐな」


 先生は呆れながらも嬉しそうに笑っていた。

 花菜さんは笑いながら僕の顔を見る。

 僕も笑顔で花菜さんの視線に応えていた。


『さすが蒼馬さんですね』

『いや、これは完全に大曽根さんが頑張っただけでしょ』


 視線だけで言葉が通じる気がした。

 と、そのとき大曽根さんが僕の席に駆け寄ってくる。


「蒼馬、マジでありがとう!」

「大曽根さんが頑張った結果だよ。僕はそんなに大したことを教えてないから」

「謙遜しちゃって! そーいうとこもいいよねー、蒼馬って!」


 大曽根さんは笑顔で僕にむぎゅーっと抱き付いてくる。


「わわっ!? ちょっと、大曽根さん」

「照れるなって!」


 夏用の制服の生地は薄く、大曽根さんの身体の柔らかさがダイレクトに伝わってきてしまう。


「なにニヤニヤしてるんですか。気味が悪いです。嫌なら振り払ってください」


 少し険しい顔で花菜さんは指摘してくる。

 先ほどまでの柔和な表情は霧散し、詰めたく厳しい眼差しだ。

 え、これって……


「ほら、離れて、大曽根さん」

「仕方ないなー」


 大曽根さんはニヤニヤしながら僕と花菜さんを交互に見る。

 花菜さんはその視線に気付いてない振りをしてそっぽを向いていた。



 授業のあと、大曽根さんが僕のもとへとやって来る。

 次の授業は移動なのでみんな慌ただしく教室をあとにしていった。


「さっきの花菜、見た? あれは絶対嫉妬してたよ」

「そうかな? 単に僕を注意していただけじゃない?」


 ドキドキしながらそう返す。

 でも僕も感じていた。

 あのときの花菜さんは確かに嫉妬していた。


「私の抱きつく作戦が大成功だったね」

「やめてよ、そんな作戦」

「もえコクっちゃうしかないんじゃない?」

「そんな簡単に……」

「だってあの態度を見ればそれしかないじゃん」


 なにを戸惑うことがあるの?

 大曽根さんはそんな顔で僕を見る。


「百歩譲ってあのとき嫉妬していたとしても、それは一緒に暮らしてる仲のいい友だちが他の子と仲良くしてるのを嫉妬するレベルかもしれないよ」

「えー、なに? なんか長ったらしくてよく分かんない。とにかく蒼馬が度胸のない言い訳をしてるのだけは伝わった」


 確かに大曽根さんの指摘通りな気がして反論が出来ない。


「告白してその後気まずくなるのが怖いんだよ。一緒に暮らしてるんだよ?」

「ビビリだな。大丈夫だって。むしろ花菜だって言われるの待ってると思うよ」

「花菜さんが!? まさか」


 緊張で心臓がバクバクする。


「ねぇ、遅刻するよ!」


 急にドアからニュッと愛瑠が現れる。

 時計を見ると授業開始寸前だった。


「やばっ!」

「急ごう!」


 慌てて廊下を駆ける。

 相当慌てているのか、愛瑠の表情はやけに焦っていた。




 放課後、愛瑠がまっすぐ僕の席にやって来る。


「ねえ、一緒に帰ろ」

「何だよ、急に。いつも一緒に帰ってるだろ」

「いいから、早く!」

「わっ、おい、手を引っ張るな」


 このところ花菜さんや大曽根さんを含めた四人で帰ることも多かった。

 振り返ると花菜さんがやや曇った表情で僕たちを見ていた。


 強引に帰ろうと言ってきた割りに、愛瑠はほとんどなにも喋らずに足早に歩いていく。

 なんかちょっと気まずい空気だ。


「そういえばテスト終わったら四人でカラオケ行こうって誘ったらしいな。愛瑠が誘うなんて珍しい」

「ん」

「なんか怒ってる?」

「怒ってなんかないし。ボクってそんなに不機嫌そうに見えるの?」

「そんなことないけど」

「どうせ蒼馬も面倒くさい奴って思ってるんでしょ!」

「どうしたんだよ、急に」

「知らないっ! 蒼馬のフラグへし折りギャルゲー主人公!」


 訳が分からないことを吐き捨てて愛瑠が走り出す。


「おいっ!」

「ついて来ないで! 一人にして!」


 そう言われて放っておけるわけない。

 慌てて追いかけるがなかなか距離が縮まらない。

 引きこもり風に見える愛瑠だが、元々は水泳をしていたスポーツ少女だ。

 僕とは体力が違う。

 愛瑠は駅を通りすぎ、裏路地を抜け、ひっそりとした神社の境内で立ち止まった。


 ようやく追い付いた僕は情けないくらい息を切らしていた。


「ごめん。なんか気に障ることをしたなら謝る。なにがあったのかだけでも教えて」

「本当に分からないの?」


 愛瑠は呆れた顔で笑いながら近付いてくる。


「教えて欲しい?」

「うん。頼む」

「仕方ないなぁ」


 愛瑠は僕の肩に手を置き、そして──


「ッッッ!?」


 チュッと唇にキスをしてきた。

 唇はすぐに離れたが、僕の頭はしばらくフリーズしたままだった。


「な、なななにをっ……!?」

「好きだよ、蒼馬……ボクと付き合って欲しいの」


 愛瑠は顔を真っ赤にし、潤んだ目でジィーッと見詰めて来た。

 今まで僕に見せたことのない女の子の顔をしている。

 心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど暴走していた。




 ────────────────────




 まさかの突撃したのは愛瑠でした!

 予想外に急加速をする物語!

 さぁどうする蒼馬!


 愛瑠ファンも花菜さんファンも緊迫の展開で次回に続く!




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