第24話 諦めと意思の履き違え
昼食を食べたあとは僕の子どもの頃の写真やビデオを花菜さんに見せるという羞恥の刑が執行される。
「これが小学校の入学式」
「わぁ、可愛い。面影がありますね」
「そうかなぁ」
「こっちは転んで泣いてるところ」
「あはは! かわいいー!」
「泣いてるんだから写真撮ってないで慰めてよ」
「あんまり過保護になりすぎないよう、時には突き放すのも大切なの」
なにが楽しいのか、花菜さんは目を爛々とさせながらアルバムを見続けていた。
「ただいま」
父さんが帰ってくると、母さんは急にまた真面目な顔に戻る。
よくそんなすぐに変われるものだと感心してしまう。
「お疲れ様でした、お父様」
「実は今から遠方に行かなくちゃならなくなってしまったんだ。せっかく花菜さんが来てくれたのに申し訳ない」
「そうなんですか。大変ですね。私のことはお気になさらずに」
「まあ将来は蒼馬も私の代わりにこうなるから家でゆっくり出来ない日も多くなる。迷惑かけるね、花菜さん」
「……いえ」
花菜さんではなく僕に言っているのは明らかだったが、聞こえてないかのようにスルーする。
父さんは今でも僕が家を継ぐのが当たり前だという考えを貫いていた。
父さんが出ていって、しばらくしてから僕たちも実家をあとにすることとした。
「またいつでも遊びに来てね」
「そんなに頻繁に来たら花菜さんが疲れるよ」
「蒼馬じゃなくて花菜さんに言ってるの」
「ありがとうございます。またお邪魔させてもらいます」
「頼りない子だけど、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
実家の門を出ると緊張から開放され、「ふぅ」とため息が出た。
自分の実家で疲れるなんて、おかしな話だ。
「ごめんね、花菜さん。キャラの濃い父さんと母さんで」
「全然そんなことないですよ。お二人とも素敵な方です」
「そうかなぁ? 母さんは砕けすぎだし、父さんは固すぎるし。足して二で割ればいいのに」
「そこがいいんじゃないですか。寧ろ補いあって、支え合ってる感じがして」
補い合うという言葉は、以前のおじいちゃんが僕と花菜さんに使った言葉だ。
そういう観点で父さんと母さんも婚約に至ったのだろうか?
「ところで蒼馬さんはお父様たちに研究者になりたいという話はされているんですか?」
「うん。もちろんしてるよ。そして猛反対されている」
「お父様たちのお気持ちも分かりますが、でもせっかく素晴らしい夢なのに頭ごなしに反対されるのはよくないです。お母様は?」
「母さんも反対してるよ。家を継いで欲しいんだって」
「そうですか……」
花菜さんは自分の夢を反対されたような悲しそうな顔をした。
「今回の婚約の話も、父さんたちからしてみたらいいチャンスだと思ってるんだよ」
「私との結婚が、ですか?」
「結婚してしまえば夢なんて追わずに家業を継ぐと思ってるんだよ」
「そんな……」
「工学博士になろうとするなら大学四年終えたあと、だいたい修士過程二年、博士過程三年かかるから」
「なるほど……十八歳で結婚させてしまえば大学四年はいいとしても、その後すぐ働きますもんね」
花菜さんは指を折りながら計算する。
「ちょっと待って。花菜さんは十八歳で結婚するつもり!?」
「はい。そうですけど? 高校在学中に結婚するとなるとちょっとクラスメイトに冷やかされると思いますけど、まあ仕方ありません」
「しかも卒業後じゃなくて十八歳になってすぐなの!?なんでそんな覚悟まで出来てるんだよ!?」
「許嫁ですから」
「この前将来の夢の話したよね? 花菜さんもなんとなく自分の好きなように生きてみよう的な雰囲気出てなかった?」
「そんな雰囲気醸し出してません。ただ蒼馬さんはすごいなと思っただけです」
どうも話が噛み合わない。
「結婚するって重要なことだよ? 男女が出会い、恋をして、お互いを信頼して、愛を育んで、そうしてするものなんだ」
「いつもそういうことを仰られますよね。もしかして蒼馬さんが私のことを愛する可能性はゼロということですか?」
「え? い、いや、そうは言ってないけれど」
「正直に仰ってくださって結構です。私に足りないところがあれば善処しますんで。まあ見た目はどうしようもないですけれど」
花菜さんは少し寂しげに俯いた。
「いや、見た目とかそういう問題では」
「見た目だって大きな要因ですよ。私は蒼馬さんから見て好ましい容姿ですか?」
「そ、そりゃ……花菜さんは一般的に見て美人だと思うし」
「一般的な話ではなくて蒼馬さんの意見を聞いてるんです」
「それは、はい。か、可愛いと思います」
ボソッと伝えると花菜さんははにかみながら僕の顔をチラッと見る。
「じゃあ性格が生意気で可愛くないとか?」
「そんなことないよ。冷たそうに見えるけど意外と優しいところあるし。それに甘え下手だけど甘えたがるところは可愛いし」
「あ、甘えたがってなんていませんっ!」
照れて顔を赤くするところも可愛かった。
「じゃあ私を好きになる可能性あるんですね?」
「そ、それは……もちろん、あると思うけど」
「ならいいじゃないですか。結婚してから育む愛もあると思います。どうせ私たちは結婚する運命なんですから」
「強いていえば花菜さんのそういう諦めを自分の意思と履き違えているところが好きじゃない」
そう伝えると花菜さんは歩を速めた。
「そうですか」
どんな顔をしてそう呟いたのか、後ろ姿では確かめることが出来なかった。
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好きになる可能性があることを自認させられた蒼馬。
一見ドライでツンデレな花菜さんの気持ちを汲むことは出来るのでしょうか?
物語はますます加速して中盤戦です!
これからもよろしくお願いいたします!
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