第18話 突然の来訪者
ある日の放課後。
少し早く家に帰ってくると、まだ梅月さんは帰宅前だった。
今日は帰りに参考書を買いに行くと言っていたから少し遅くなるだろう。
(いつも料理を作らせてばかりだと悪いよな)
それが自分の役割だと言い張る梅月さんだけど、僕はそういう考えはあまり好きじゃない。
嫌な顔をされるかも知らないが今日は僕が作っておこう。
冷蔵庫の中の食材を見てなにを作るか検討する。
牛肉に玉ねぎ、糸こんにゃくにじゃがいも……
肉じゃがだな。
食材を切っているとピンポーンとインターフォンが鳴った。
「ん? 宅急便かな?」
モニターを見ると梅月さんが映っていた。
「どうしたの?」
「……開けて」
「それはいいけど」
鍵をなくしてしまったのだろうか?
どことなく表情も暗い。
ロックを解除すると梅月さんはエントランスへと入っていった。
「あれ?」
いま私服を着ていたような気がする。
学校帰りにどこかで着替えたのだろうか?
ほどなく部屋のインターフォンが鳴ったのでドアを開ける。
「おかえりー……えっ!?」
梅月さんが幼くなっている!?
まさかタイムスリップして過去からやって来たのだろうか?
戸惑う僕を幼くなった梅月さんがジトーッと睨んでくる。
「あの……梅月さん」
「お姉ちゃんを返してください」
「はい?」
「そうか。妹さんだったのか! あまりにも似てるんでビックリしたよ!」
笑いながらアイスティーを出したが妹さんは品定めする目でジィーッとこちらを見ている。
険しい目付きからして紅茶がアッサムなのか、ダージリンなのかを確認している訳ではなさそうだ。
「一人で来たの?」
「あなたには関係のないことです」
「家は結構遠いでしょ? よく来られたね」
「バカにしないでください。中学三年にもなればそれくらい簡単です」
「へぇ。中三か。お姉ちゃんの二つ年下なんだね」
妹さんは『しまった』という顔で唇を噛む。
個人情報を漏らしたことを後悔しているのか、それとも僕と会話をしてしまったことに後悔をしているのか?
いずれにせよ友好的な態度ではないことは間違いないだろう。
「お姉ちゃんはもうすぐ帰ってくるからね」
妹さんは返事をせず、面倒臭そうに視線を窓の外へと向けた。
「お名前は?」
「あなたに教える名前なんてないわ。どうせもう二度と会うこともないんですから」
「あ、それって『魔法少女うずら』の台詞だよね。観てるんだ」
「ち、違うし! 私のオリジナルだから!」
「うずら、いいよね。従来の魔法少女ものと違うダークな展開が最高だよ」
妹さんはチラチラと横目で僕を観てくる。
「う、うずら観てるの? 男子なのに? キモ。あんなの女子でも中二までが見るものだよ」
「名作に男子も女子も、それに年齢も関係ないよ。ちなみに僕は先輩魔法少女の『ももね』が好きだな」
「私も!」
笑顔で答えたあと、さっと真顔に戻り視線をまた窓の外に戻した。
気まずい空気が流れ出したそのとき、ドアが開く音が聞こえた。
「ただいま。遅くなってしまい、すいません。すぐに夕飯のしたくを──」
リビングに入ってきた梅月さんは妹さんを見て固まる。
「
「お姉ちゃんを助けに来たの」
「私を? なにバカなこと言ってるのよ! そもそもお父さんとお母さんにはここに来ること言ってきたの?」
梅月さんがキツく問い質すと妹、柚芽さんはゆるゆると首を横に振る。
「ダメじゃない! 心配するでしょ!」
「だって」
「まあまあ、梅月さん。せっかく心配して来てくれたんだから怒らないで」
「でも──」
きゅるるる……
お腹の鳴る音が梅月さんの反論を遮った。
「柚芽ちゃん、お腹が空いてるんだね。ミニクロワッサン食べる? 今日買ってきたんだ」
「……今のは私です」
梅月さんは恥ずかしそうに目を伏せる。
「あ、そうなんだ。ごめん」
「いえ……ミニクロワッサンは頂きます」
梅月さんの腹の虫のおかげで空気は少しやわらいだ。
「おいひー! なにこれ!?」
機嫌が悪かった柚芽ちゃんもクロワッサンを食べ始めると笑顔になる。
美味しいものに弱いのはお姉ちゃん譲りなのだろう。
「これを食べたら帰るのよ」
「えー? いまから帰ったら夜中だよ」
「自業自得でしょ」
「夜遅いと危ないし、今日は泊まっていったら?」
「そういうわけにはいきません。柚芽にも学校あるんだし。というか今日学校はどうしたの?」
「早退した」
「呆れた! 柚芽は受験生なのよ。もっとしっかり──」
「ほら、梅月さん、チョコが入ってるやつもあるよ」
叱りつける口にチョコクロワッサンを入れる。
「んああっ! これも美味しいです! ご飯前だからこんなに食べちゃダメなのに」
ひとまず美味しいもので静かにさせ、なんとか明日帰る方向で実家に電話をしてもらうこととした。
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というわけで妹ちゃん襲来です!
見た目はお姉ちゃんに似てても中身は猪突猛進で熱い女の子です。
頑なな態度の妹ちゃんを蒼馬がどう懐柔するのでしょう?
お楽しみに!
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