許嫁としてやってきた美少女転校生は明らかに政略結婚なので、結婚しないで済むように助けてあげたい
鹿ノ倉いるか
第1話 許嫁と結婚しないラブコメディ
「転校生を紹介します」
担任の松田先生の紹介で女の子が教室に入った瞬間、どよめきが起こった。
それもそのはずだ。
その転校生は次元が違うほど美少女だった。
「
窓から入ってきた風で転校生、梅月さんの黒髪ロングがふわりと揺れた。
黒目がちの大きな目とくるんとカールした長いまつげ。
華やかな顔立ちだけれど柔らかな笑みを浮かべているので、近寄りがたさは感じない。
顔だけでなくスタイルも非の打ち所がない。
スカートから伸びるすらりと長い脚とアンバランスなほど胸は大きい。
まさに欠点がないほど完璧な美少女だった。
「席はどこにするかな」
「先生、私はあそこがいいです」
「
「えっ……」
転校生が自ら選んで僕の隣に!?
「おーい、九条。机運ぶの手伝ってくれ」
「あ、はい」
クラス男子全員から痛い視線を受けながら机を運ぶ。
席の準備が出来ると梅月さんは頭や身体をほとんど上下させない滑るような足取りでやって来た。
「よろしくね」
挨拶をすると梅月さんは先程までの微笑みを消し、心が読めない静かな目で僕を見た。
なんだか僕を値踏みするような目つきだった。
「……よろしくお願い致します」
僕の隣を選んだが、当然ながら僕には関心はないようだ。
恐らく一番後ろの席がよかっただけなのだろう。
休み時間になると男女たくさんのクラスメイトが梅月さんを囲む。
僕への無表情が嘘のように、梅月さんはみんなと笑顔で接していた。
まぁそもそも僕とは住む世界が違う人だ。
別に寂しくも感じなかった。
放課後は久々に実家に帰った。
実家では僕の十七歳の誕生日を祝う大袈裟な準備が進んでいた。
自分でいうのもなんだが、僕の実家である九条家はこの辺りでは少し有名な資産家だ。
明治の頃からはじめたという貿易の仕事は大成功し、今ではかなりの財を成しているらしい。
正直興味もないので総資産がいくらとか、会社の規模とかは知らない。
両親やおじいちゃんおばあちゃんが揃った夕食のあと、僕は応接間へと呼び出された。
部屋に入ると両親や親戚一同もおり、正座をして僕を待っていた。
よく見ると見たことがない人も何人か見受けられる。
(なんか嫌な予感……)
みんなの視線に気後れしながらおじいちゃんの前に正座する。
「
「えっ……」
「少々時代錯誤だということは承知している。ただまあ、しきたりはしきたりだ。わしの代で潰えさせるわけにもいかないからな」
先進的な考えのおじいちゃんでもそういう伝統は気にするというのも意外だったが、今はそれどころではない。
「ま、待ってよ。許嫁って、その……結婚相手ってこと!?」
「蒼馬。おじいさまにそんな言葉遣いするな」
父さんがぴしゃりと叱る。おじいちゃんに比べると固い性格だ。
おじいちゃんがパンパンっと手を叩くと襖が開き、一人の女性が入ってきた。
「えっ!?」
なんとそこに現れたのは転校生の美少女、梅月花菜さんだった。
驚きのあまり言葉を失う。
彼女は『なにも言わないで』という目で僕を見る。
睨んではいないけど、かなりの目力でビクッとした。
「蒼馬はもう学校で会ってるかもしれないな」
「う、うん、まぁ……うちのクラスの転校生だから」
「花菜さんはお前と婚約するためにこちらへ引っ越してくれたんだ」
「えっ!? そうなの!?」
「改めまして、梅月花菜です。これからよろしくお願い致します」
みんなに見せた爽やかな顔とも、俺に向けた無表情とも違う、慎ましい姿で頭を下げる。
「花菜さんには今夜から蒼馬のマンションで住んでもらう」
「は!? え、嘘でしょ!?」
「蒼馬。言葉遣いに気を付けなさい」
「蒼馬さん、よろしくお願い致します」
梅月さんは当然既に聞かされていたのだろう。
落ち着いた様子で深々と頭を下げていた。
応接室にいた見知らぬ人たちは梅月さんのご両親だったようだが、一言二言会話しただけだった。
夜も遅くなってきたのでお抱えの運転手さんに僕の住むマンションまで送ってもらう。
車中、梅月さんはひと言も語らず窓の外を見ていた。
僕の勝手な妄想かもしれないけれど、その姿はどことなく動物園の檻に入れられた鳥のように見えた。
見ず知らずの人のところへ許嫁としていきなり連れてこられたのだから、いろいろと思うところもあるのだろう。
余計な慰めはかえって失礼になる。
僕は黙って視線を逆側の窓の外へと向けた。
「うわ、なにこれ!?」
家のドアを開けて驚いた。
いつの間にか梅月さんの荷物が僕の家に運び込まれていたからだ。
今朝まではなんにもなかったのに、なんという仕事の早さだ。
「ごめんね、梅月さん」
「え?」
「無理やり許嫁にさせられたんだよね? 無理に結婚とかしなくていいからね」
「そ、それは困ります。結婚はしてもらわないと」
安心するのかと思いきや、予想外にも彼女は狼狽えていた。
その表情ははじめて見る素の梅月さんに思えた。
作り物のように完璧だった彼女が、急に高校二年生の同級生の顔に感じられた。
「でもいきなり見ず知らずの、しかもこんな冴えない奴と結婚しろって言われて困ってるんでしょ?」
「冴えない人とか、別にそんなことは思ってませんけど……とにかく私の家族のためにも結婚してもらわないと困るんです」
恐らく複雑な事情があって僕の許嫁になったのだろう。
でもこみ入った事情を聞くのも失礼なので触れないでおく。
「どんな事情があるのかは知らないけど、とにかく僕がなんとかするよ。無理に結婚なんてしないでいいから」
「そんなこと出来るんですか?」
「分からないけど可能な限り頑張るよ。だから梅月さんは心配しなくていいからね」
「簡単に言いますけど、高校生でなんとか出来る金額の話じゃないんです」
梅月さんは少し顔をしかめて笑う。
それはなんだかとても彼女に似合わない表情に思えた。
「このご時世にお金のことで好きでもない人と結婚するなんて異常だよ」
「そうでしょうか? 結婚相手に年収を求めるとか、安定を求めるっていうのは普通だと思います。規模が違うけど、それだってお金目的と言えるんじゃないでしょうか?」
喩えとして極端な気もするが、反論はしなかった。
恐らく梅月さんはそう思うことで自分は特別惨めなものではないと自己暗示をかけていると感じたからだ。
「とにかく一度おじいちゃんと話し合ってみるよ。おじいちゃんなら理解してくれるかもしれない」
「家同士が決めたことです。そんな簡単に覆らないと思います」
「お金は僕が働きだしてからなんとかするって約束する。とにかく好きでもない人と結婚するなんて阻止するから」
梅月さんはポカンとした顔で僕を見る。
「え? どうしたの?」
「なんで今日知り合ったばかりの私にそこまでしてくれるんですか?」
「そりゃ僕のせいでしたくもない結婚させられる人を見過ごせないよ」
「もしかして他に誰か結婚を誓い合った女性が既にいるんでしょうか?」
「そ、そんな人いないよ。ただおかしい風習をやめにしたいだけだよ」
「そうですか……でも無駄だと思います。私とあなたは結婚する。これは決められたことですから」
こうして僕の許嫁と結婚しない物語が幕を開けた。
────────────────────
読んでくださり、ありがとうございます!
新作は許嫁と結婚しないラブコメディです!
お人好しなほどに優しい蒼馬と完璧美少女花菜のもどかしくも可愛らしい恋愛物語となっております。
毎晩19時頃に更新させてもらいます!
『面白い!』『続きが気になる!』と思っていただいたら作品のフォローや☆の評価を頂けるととても励みになります!
今後ともよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます