第47話/悲嘆

「驚きましたよ、本当に裏切ったかと思いました」


胸を撫で下ろして、聖浄さんが告げる。

俺も、さっきまで鹿目メルルが裏切っていたなんて考えていた。


「前にも言ったが、私はもう、門叶派に戻るつもりはない」


そう断言した。


「さて、……で、こいつ、何者?」


俺は門叶祝にそう聞いた。

地面に倒れているこの男は一体何者なのか。


「こいつは豹原範獅だ。あの豹原の兄だな」


豹原の兄か。

そうか、よく見てみれば、確かにそんな雰囲気と言うか、面影を感じる。


「この人が『黄泉島』に渡る術具を?」


「足に装着しているだろう。豹原の家系が扱う術具は足に装備するタイプだからな」


そう言って俺は豹原範獅のズボンの裾をあげてみた。

銀色の光沢を浴びる術具が確認される。成程、これを使って移動するのか。


「じゃあ早速……」


豹原範獅の術具を回収しようとして。


「……裏切ったか」


そんな声が響いて、俺は豹原範獅の顔を見た。

うつ伏せになって表情は伺えない、が。

確かに、その男は気絶から既に回復している。

徐に体を起こす豹原範獅。

その勢いに俺は転がり、聖浄さんは空間倉庫を開いた。


「裏切ったかッ!鹿目ェ!!」


涙を溢して、そう叫び声が響き出す。


「何故だ。何故なのだッ!悲しいっ、俺は悲しいぞォ!」


「うるさい奴だな、お前は」


鹿目メルルはそう言って耳を塞ぐ。

確かに、その怒声は聞くに堪えない大声だ。


「分かっているのか、お前は、門叶を裏切り、父上も裏切り、何よりも、この俺を裏切った!こんな、こんな悲しい事があるかぁあ!!」


「お前も私を裏切る算段だったろうが」


鹿目メルルは既に、豹原範獅の事などお見通しと言った様子で告げる。


「何を馬鹿なことをッ!」


「大方、伏間を見つけたら聖浄と私を殺し、門叶に報告と共に差し出すつもりだったんだろうが。独占欲の強いお前なら必ずそうする」


「手柄を独り占めして何が悪い!」


うわ、開き直ったよコイツ。

しかも自分の事を棚に上げてやがる。

最悪な奴だな。


「まあ良い……俺は報告させてもらうぞ、伏間が生きている事、そして、お前が裏切ったこともッ!」


けたたましい音が響き出す。

それは、豹原範獅が装着している靴型術具から発生している音だった。

まるで、飛行機が飛ぶ際にエンジンをふかす様に、周囲の人が立てぬ程に風圧が舞い出す。


「俺は楽をして、安全に、褒美を貰う道を選ぶぞォ!」


そして、豹原範獅は空へ飛び立った。

それと共に、聖浄さんが空間倉庫から取り出した術具を豹原範獅に向けて投げる。

それは手錠だった。鎖が長い拘束具で、それが豹原範獅の足首に装着された。


「逃がしません、此処で死んで頂きます」


聖浄さんがそう告げる。

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