第43話/到着

『惑いの森』を抜けて『蛍の道』へと歩く。

此処は灰が周囲に覆われた視界不良の迷宮で、蛍の様な仄かな光が浮かんでいる。

そこを抜ければ、ついに黄泉島へと到達する。

そんな時、俺はふと気になった事を彼女に聞く。


「聖浄さん」


「はい、どうされましたか?」


「いえ、その、黄泉島の噂ってなんですか?」


聖浄さんが黄泉島が実在すると知ったのは俺の『廻廊記紙』を見てからだ。

それよりも前には、黄泉島と言う存在は噂程度にしか聞いてないらしい。

その噂を一体どこで知ったのか俺は知りたかった。


「黄泉島の噂、ですか?」


「はい」


「そうですね……これは本当に噂程度、それよりも眉唾らしい話で、実在すると判明するまで、まさに夢物語だと思っていました」


そう前提を加えて。


「ある術師が、夢で見たと言うのです」


夢?

聞いて、確かに、噂よりも眉唾らしい話だ。


「予知夢と言う代物で、その迷宮は死者と対面出来る場所であるらしく。その黄泉島の最奥には、生者の病を治す薬、死者を蘇らせる灰、生死を操る杖、この三つが登場すると聞きます」


霊薬以外にも、そんな術具が存在するのか……。


「へえ……でも、地図には」


「はい、霊薬しかありませんでした。残る二つは『匣』に入れられて判別不明なのか、もしくはそもそも登場しないのか、それとも……」


第三の選択肢を口にしようとする聖浄さん。

それを遮る猫耳メイドの声があった。


「既に、回収されているか、だろう?」


俺は振り向いた。

鹿目メルルが俺の方を見ていた。


「なんだよ、聞いてたのか?」


「聞こえる位置に居たからな」


不遜とした態度で喋る。

聖浄さんは目を光らせて彼女の顔を睨んだ。


「鹿目」


「……にゃん」


意地でもにゃんと語尾を付け足したいらしい。


「執拗だなぁ……」


聞こえない程度にそう呟いた。


「黄泉島なら知ってるにゃん」


「何故知ってるのですか?」


「門叶派で、其処に行った奴が居るからにゃ」


これは驚きだった。

聖浄さんも、目を丸くしている。


「お前らに情報が流されない様に、秘匿して進んだにゃ。その男は、三度黄泉島に行っている」


「三度も?」


彼女は頷いた。

三度も、その黄泉島に向かうなんて。

俺と同じ様に、周囲を探索出来る地図でも持っていたのだろうか。


「そう。一度目は生死を操る杖『輪廻の枝』を入手し、二度目は死者を蘇らせる灰『不死鳥の羽根』を入手したにゃ」


入手した術具の名前を口にする鹿目。

三度向かったと言う事は、もしや霊薬も入手したのだろうか。


「そして三度目…奴はまだ黄泉島に居るにゃ」


そう言われて、俺は前を向いた。

景色が唐突に、赤色に変わったからだ。

目の前には、血の色をした海が広がっていて、そこにポツンと、島が浮かんでいた。

此処が『黄泉島』だった。



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