第40話/別視点・軌条
迷宮の魔力に目を奪われず、あくまでも自らの隠れ蓑として迷宮を利用する者である。
彼は正確には十三家ではなく、政府からの直接的な命令を受けての迷宮活動者ではない。
術師として移動能力を宿す彼は、迷宮と現実を行き来する事が出来る為に、その迷宮を利用しているのだ。
彼は別の顔を持つ。少年少女を拉致して玩具として裏世界に流す奴隷商人だ。
殯贄の誘引術理は特定の人間を別の地点に移動させる事が出来る。
特定の条件下に該当する子供(17歳以下、社会不適合者、他者からの関心が薄い人物)の脳を極限まで薄く引き伸ばした流力で無意識に操らせ、迷宮へと誘う。
広範囲かつ一般人を操作出来る「神隠し」。
目的地を定め、到達するまでの過程を端折り結果に到達させる「紙合わせ」。
一般人に対しては「神隠し」を。自身が外へ出る時と迷宮へ戻る時は「紙合わせ」を使う。
本来は県外に居る子供たちを誘引させるが、外は結界によって県外への移動が出来ない状況となっていた。
その為、彼は納期を間に合わせる為に市内に居る子供を誘引させる事にした。
17歳以下、両親が死亡、精神的に異常がある者。
この三つの条件を以て誘引。迷宮内部へと引き入れる。
そして、殯贄は本日二十四名の子供たちをアトリエに引き込み、玩具としての調教を行っている最中に、事件が発生した。
「――――」
子供の肉体を、頑丈に、殴られても刺されても良い様に、術具で内臓を縮小させ、反抗出来ない様に筋肉の向きを変えている手術をしている時だった。
殯贄は背後から襲って来る少女に、寸での所で気が付き振り向く。
同時に、襲い掛かってくる少女に向けて腕を振り回し、少女はそれに当たって壁に叩き付けられた。
「―――――」
殯贄は首を傾げる。
この空間内には神経麻痺の煙を充満とさせている。
自身は術具による毒耐性を持つが、少女にはそれがない。
なのに動けるのは一体どういう事なのだろうか、と。
「それ、刃物でしょ?丁度良かったわ。それらしい武器、まるでなかったから」
少女は立ち上がり、指を構えた。
微かに、流力の流れが感じて、殯贄は手術台に置いたメスを見る。
そして、手術台に寝かされた改造中の子供が殯贄に飛び掛かった。
「軌条術理『
殯贄に超高速で飛び掛かる子供。
体を打ち付けて地面に転ぶ殯贄。
「流石に、こんな毒まみれの部屋じゃ、刃物を致命傷にあてる様に操作するなんて、難しいもの」
軽く呼吸をしながら、少女は殯贄の方に向かい、メスを掴む。
殯贄の体は、子供が衝突した衝撃によって立ち上がる事が出来ない。
「けど、あんたが寝転んでいるこの状況なら、簡単に当てれるわ」
複数のメスを握り締めて、少女は手を放す。
それと同時に、彼女が空間に描いた軌跡に沿って刃物が動き……殯贄の首に突き刺した。
「一応、感謝はしてるの。迷宮の入り方、分からなかったから」
彼女は首を裂かれて絶命した殯贄に軽く頭を下げると、施設から出る為に歩き出した。
「今度こそ、治してあげる、昼隠居」
そう言って、少女は顔を恍惚としながら言うのだった。
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