第38話/首環
「さて、そろそろ行きますか」
一夜を明かし、俺と聖浄さんは歩き出す。
「良いんですか?鬼童のおっさんは」
このまま、あの人を置いて行っても良いのか聞く。
「大丈夫です。『黄泉島』までの経路は頭の中に入れているでしょう。進む道は違えど、向かう場所は同じです」
流石に、あの脳筋らしい鬼童のおっさんが、地図を少し見ただけで道のりが分かるとは思えなかった。
だって、俺も少し地図を見たくらいじゃあ絶対に迷う自信があるからだ。
「さて、行きましょうか、伏間くん、鹿目さん」
聖浄さんはそう言って後ろを振り向いた。
俺は、彼女がなんだか可哀そうに思えて、若干振り向くのを堪える。
「は……はい、……」
鹿目の恰好は媚びた姿に変わっていた。
まず、パーカーコートはその場で燃やされて、聖浄さんは異空間倉庫から別の服を取り出した。
命令を順守する代わりにその分の性能を上昇させる服型術具だ。
しかし、その服型は何処からどう見てもミニスカメイド服でしかない。
おまけに何の効果も無い猫耳カチューシャが付いていて、それを彼女に着せたらしい。
長い灰と蒼の混じる髪をツインテールにして、華奢な体に似合うメイド服。
更に、聖浄さんは彼女の首元に首輪を取り付けた。
『
その首環を装着して、首環に付属するプレートに名前を記入する事で能力を発揮する。
表面には奴隷となるべき人間の名前を、その裏面には、主人となるべき人間の名前を記入する事で、その人間に対する命令の絶対順守を行わせてしまう代物だ。
非人道的な術具だ。
何よりも驚いたのが聖浄さんがそれを決めて迷う事なく実行した所だ。
まるで遠慮も後悔もなく、さも当たり前の様に名前を書いて首に付ける様はペットに名前を付けるが如く意気揚々とした行動にも見えた。
「少なくとも、これくらいの備えがあれば、共に活動する事を許します」
「あ、ありがとう、ございます……」
屈辱か、彼女は顔を赤らめて涙目になりながら、ミニスカートを手で掴んで引き延ばしている。見るも哀れだがしかし。
「語尾ににゃんと付けなさい、そちらの方が可愛いです」
「わ、わかり、ま、した……にゃん」
なんて非道な……尊厳破壊も良い所だ。
あんな凛々しい表情が似合う鹿目が、今じゃあ牙を抜かれた狼でしかない。
「………」
まあ、やめろとまでは言わないけど。
目の保養と言うべきか、聖浄さんの言う通り、可愛らしくて癒される。
と言うかプレートの名前。
「『めるる』……」
めるる、メルル。
鹿目メルルと言うのが、彼女の本名であるらしい。
……ファンシーな名前だなぁ。
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