第34話/埋葬
「なあ」
鹿目が俺に声を掛ける。
俺は振り向いて、彼女の瞳を見た。
綺麗な金色と銀色のオッドアイだ。
「そこに居る、豹原」
言われて、俺は振り向く。
顔面が崩壊して、絶命している豹原が其処に居た。
「私は無理だから……代わりに、埋めてやってくれないか?」
そう言われて、俺は立ち上がる。
正直、俺を殴って来た輩なんて埋葬する気にはなれなかった。
「……いいよ」
それでも、俺は承諾した。
おかしな話ではあるが、人を殺しておいて、俺は、人としての道を踏み外さぬ様に、埋葬しようと思ったのだ。
あのまま放置をしていれば、それは倫理的におかしい事だから。
倫理なき獣、と言うのだろうか。
それだけは、絶対になりたくないと思ったから。
だから、豹原を埋葬してやった。
多少の疲れが残った状態で一息つく。
すると、鬼童のおっさんが戻って来た。
そして、薪と……な、なんだ……?
「なんすかコレ……」
薪と共に用意された血の塊を見て俺は困惑を込めた言葉しか出てこない。
ぴくぴくと動くそれは、よく見れば赤黒い肉だった。
先程、森のどこかで仕留めたのだろうか色合いからして腐っている。
「この近くにゃ術象しか居ねぇからよぉ。ホレ、多くの術象の中でも、こりゃまた上等な肉だぜ」
刃物を取り出して手頃な大きさに切り分けていく。
俺は、薪をテントの様に組み合わせて、メタルマッチで焚火をする作業に取り掛かる。
「……蝙蝠蜥蜴の肉ですか?」
顔を蒼褪める聖浄さんがそう言った。
コウモリトカゲ……ゲテモノとゲテモノを組み合わせた様な生物の名前だなぁ。
「いいや違うな、こりゃ大蛇鼠の肉だ」
おろちねずみ……なんで爬虫類と齧歯類を混ぜた様な名前なんだ。
特徴が鼠と蛇に似ているから?……どっちにしても食べたく無いな……。
「こいつの肝が美味ェんだよ。おい兄ちゃん、こっち来てみろ、美味しいモン食わせてやる」
「え、あッ!?俺!?」
血を浴びた鬼童のおっさんが満面の笑みを浮かべて、モザイクが掛かりそうなゲテモノの部位をこちらに向ける。
「え、あ、あの、せ、聖浄さんっ!!」
「少しお腹が痛いので休んでます、話し掛けないで下さい」
あ、せ、聖浄さんっ!?
見捨てられたんだけど。
「おら、おじさんが食わせてやるよ、んあ~ん」
「え、あ、あむっ…ぐ、むえぇ……」
く、口の中で謎の粘り気がある……。
舌先がピリピリとして、味覚が吹き飛びそうだ……。
飲み込もうとしたら、喉奥で肝が震え出した。
ひぇぇ………まだ生きてるぅ……。
「ん、ぐ……」
「どうだ美味ェだろ。どれ、この大蛇鼠の尻尾にゃ免疫力を高める効果があんだ。聖浄ちゃんに切り刻んで食わせてやるよ」
「い、いえ……私は遠慮します……はい」
「遠慮すんなよぉ!ほらぁ!!」
輪切りした尻尾を無理に食わせられる。
「む、う、っん」
くちゃくちゃと、不味そうな表情をして尻尾を食う聖浄さんの姿に、なんだか興奮したが言わないでおいた。
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