第14話/呪詛

「敵?」


彼女は目を細めて此方を睨んでいる。

俺の言葉に反感を覚えたのかと思ったが、違った。

眼鏡を指先であげてこちらへと近づいてくると。


「ちょっと待って下さい、貴方……呪われてますね」


顔を近づけながらそう言った。

彼女は俺の顔を見て、何かを分析する様に、眼鏡の縁に手を添える。


「強力な、神の部類……何をしました?」


そう聞いて来た。

神、神と聞けば……それはもしや、あの夢現の事だろうか?


「なにって……夢現の話か?……ただ、扉を開けたら、そいつと出会っただけ、だけど」


俺はさっきの事を話した。

彼女は頷いて、自らの首元に手を添えると。


「夢現?それが神の名前ですか、では、今後それを呼び出さぬ様、心掛けて下さい。……こちらをどうぞ」


かちっ、と音がして、首に巻かれたネックレスを此方に渡して来た。

それは十字架に蛇が絡み付いた、パーキングエリアとかで買えそうなデザインをしたアクセサリーが付いている。


「……なんすか。これ?」


「魔除けの首輪です。此方から接触を望まぬ限り、相手が此方を通してくる事はありません」


そう言って俺の手にそれを押し付ける。

金属特有の冷たさはなく、彼女の人肌によって温められたソレを、俺は付けるべきかどうか躊躇した。


「………」


「付けないのですか」


俺が付けないその理由。

彼女に面と向かって言う。


「あんたは門叶祝を知っているか?」


「門叶……?あの女性がどうかしましたか?」


どうやら、知っているらしい。

口ぶりからして、親しくはなさそうだが。

しかし、油断は出来ない。

俺はこれまでの事を彼女に話した。


「俺はあの女に拉致されて、迷宮に来た。俺は死んでいる事になっているかも知れないが、もしかしたら追って来ているかも知れない……あんたが門叶の仲間である可能性がある」


俺の言葉を聞いた彼女は、首を縦に振って合点が行った様子で眉を上げた。


「あぁ、それで私の事を敵と称したのですか……それを装着しないのも、敵故に自身に対するデメリットがあると思ってですね?」


「……」


そうだ。

これが催眠とか、付けたら操作される、などと言った効果であれば。

俺はすぐにでも捕まってあの屋敷に戻されてしまう。


「あの人と私が仲間ではないと言えますが、口だけではなんとでも言えます。ですが、その術具はあくまでも魔除け。その証拠に私は先程までそれを装着していました」


そう修道服の彼女はそのアイテムに危険性が無い事を告げる。

そして、それでも用心深いならば、と。彼女は自らの眼鏡を外して渡して来た。


「アイテムの効果が分かる術具です。今、使っているあなたのアイテムを鑑識して、その効果が分かれば必然とその魔除けの術具も本物であると理解して下さるでしょう」


そう言ってくれた。

俺はそれを手に取って、眼鏡を付けない様に覗き込んだ。

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