卑怯な黒魔術師ウォーロックだとしてパーティーを追放されたけど、ユニークスキルの範囲魔法でソロ余裕でした。今更戻ってこいと言われても、もう遅い

滝川 海老郎

1.パーティー追放

 俺は黒魔術師ウォーロックだ。

 剣のような体を動かすのは、どちらかといえば苦手だった。

 だから進んでこの道を選んだわけだが、この世界でウォーロックは、安全な後方から単体魔法で攻撃するだけの、卑怯者という烙印を押され、蔑まされていた。

 黒い服に黒いローブを着込んで、怪しい杖やアクセサリーを装備する姿も、どちらかといえば、気味の悪い格好に見える。

 分かっている人からすれば、とんだ風評被害、勘違いの類だが、一般人の目は厳しかった。


 12歳の頃、それを承知の上で俺をパーティーに加入させ、ダメージディーラーに任命したのは、他ならぬリーダーのドルボのやつだった。


 それから4年余り経過。

 俺たちはAランクパーティーにまで上り詰めた。

 ギルド依頼のクエストで農村に行った帰りに寄った町だった。

 少し高級な宿屋に泊まろうとしたところ、主人に文句を言われたのだ。


「わりいな。卑怯者のウォーロック御一行様を宿に泊めるわけには、いかん。出ていってくれ」


 俺のクラスを言い当てた主人の目は鋭い。

 この片田舎ではAランクだなんて知らないのだろう。

 Aランクと知っている都会の高級宿では俺たちを贔屓ひいきしてくれているのに対して、扱いが正反対だった。


 そしてリーダーは擁護してくれるどころか、こう言い放った。


「もういい。いちいち足を引っ張る。ルーク、お前はクビだ。パーティーから追放だ。さっさとどっかへいっちまえ。宿屋の主人、これでいいだろ?」

「ぐぅ」


 俺は何も言えない。ぐうの音も出ないとは言うが、ぐうの音しか出なかった。

 それに続く言葉を俺は知らない。

 話せないわけではないが、話すのは苦手だ。

 誤解なく正確に、相手に自分の意見を理解してもらうのは難しいのだ。俺はそれをよく理解しているから、こういう時には、何も言えなくなる。


「ほら、どこへでも行け」


 宿屋から放り出され、俺はひとりで立ち去る。

 今は16歳の身になった。

 ドルボとは固定パーティーを組む前からの5年の付き合いになる。それを宿屋の主人のたった一言で、すべての信頼関係が無に帰った。


 俺はもっと治安の悪そうな裏路地へ向かい、訳アリでも適当に泊めてくれそうな安宿に入る。


「すまん。男一人、今晩泊めてくれ。先払いでいい」

「あいよ」


 愛想の悪い受付のおっさんに銀貨を握らせると、鍵をもらう。


 昔はドルボとよくこういう宿にお世話になっていた。

 それはもちろんウォーロックだったからもあるし、金がないという意味でもある。


 パーティーの共有財産のほとんどはドルボが管理保有しているので、俺は少ない個人資産しか持ち歩いていなかった。

 もちろん冒険者ギルドに行けば、雀の涙のような貯金はあるが、白い目で見られるのは必至だ。


 本来はパーティーの資産の四分の一は俺が貰えるはずなのだが、そんなことも関係なく、一方的に追放されたのだ。


 俺はどちらかといえば感情に乏しい。

 いつも第三者的視点で、自分を俯瞰ふかんしている。


 こういう時、本来なら怒るのが筋なのだろうとは、理解しているが、そんな感情は欠片も涌かない。

 諦めているともいえるし、達観しているともいえるだろう。


 幸いなことに、先に夕食は酒場で食べていた。

 宿では寝るだけだ。


 やるせない気持ちも皆無ではないが、懐かしい安宿の埃っぽい空気に包まれて、俺は眠った。




 翌朝、さっそく活動開始だ。

 ドルボたちと出くわすと微妙な気分になるので、朝早く起きたのがよかった。


 天候は晴れ。

 俺の新たな旅立ちを歓迎しているかのような、すがすがしい天気だった。


「ソロか。久しぶりだな……」


 まともなソロは12歳以来だ。

 リーダーの剣士ドルボ、ドルボの彼女ヒーラーのリーリア、リーリアの妹でシーフのソシリア。

 俺たち4人は仲のよいバランスの取れたパーティーだった。

 ただし妹のソシリアは姉同様ドルボのほうに好意を寄せていて、俺はお邪魔虫扱いされていた。


 元から他人に愛されるような柄ではないのは、承知している。


 今ごろ3人でにゃんにゃんしているかと思うと、変な笑いが出てしまいそうだ。


「くくくっ」


 思わず口に出すと、通りがかりの子供が変な人を見る目で、俺を避けていく。

 いつもの事とはいえ、黒魔術師スタイルは見た目が悪い。


 適当に露店で朝食を済ませて、ひとりで町を出る。


 向かう先は近くの遺跡『パルーデル廃墓地』というフィールドだった。

 ここではアンデッド系のゴーストがうじゃうじゃ出る。


 普段は何もないように見えて、ぽつぽつゴーストが平和に歩いているだけに見える。

 しかしひとたび敵対的行為をすると、見えていなかったゴーストが大量に湧いて出て、襲い掛かってくるのだ。

 冒険者ギルド認定難易度ランクB+だったと思う。


「さあ、幽霊たち踊ろうか。その姿を見せたまえ」


 俺は黒い禍々しい杖を掲げて、目の前のゴーストに向ける。


「イノセント・ファイア」


 無垢な純真の炎は、黒魔術師が使う癖に、聖属性がある。

 ゴーストは炎に包まれて炎上し、燃え尽きて、後には一粒のドロップアイテムだけが残った。


 ゴーストの欠片かけら


 そう呼ばれている。冒険者ギルドで高値で売れる。

 さっと急いで拾う。

 しかしこれを手にすることは、半ばパーティーであれば全滅を覚悟する程度の、戦闘になることを意味している。


 周りにゴーストが、次々と湧いてくる。

 その数、最低でも12体だろうか。


「イノセント・エリア・ファイア」


 俺は固有魔法「エリア」シリーズを発動させると、俺を中心に周り全方向が炎に包まれた。

 囲んでいたゴーストは、次々と炎上していく。


 ぼと、ぼと、ぼと。


 地面にはゴーストの欠片が次々と落ちていく。

 そして、またそれをきっかけに、ゴーストが湧く。


「イノセント・エリア・ファイア」


 俺は感情もなにもなく、ただ作業のように魔法を唱える。

 パーティーであれば自分中心の範囲魔法などは撃つことができない。

 しかしソロでは、一切の遠慮なしに、魔法が撃ち放題となるのだ。


 俺固有のエリア魔法は、ソロで使うことに最適化されていて、鍛錬を積み重ねた現在の戦闘力は、一線を超えている。

 12歳当時は、まだ魔法の威力も全体的に乏しく、範囲魔法もほとんど使い物にならなかったが、今は違う。


 何回も何回も涌いてきたゴーストも、さすがに全滅したようで、ついに出てこなくなった。

 足元には大量のゴーストの欠片が落ちているので、それをすべて拾って歩いた。


 普通の皮袋一杯になった。

 それを魔法袋に入れる。


 この魔法袋は俺の元パーティーメンバーは全員装備している。

 容量は荷馬車一台分ぐらいだが、ないよりはずっと快適なので、そういう装備の分配には感謝しておいてやろう。

 そこそこのお値段がする。冒険者は自己への投資は必須だ。


 その足でそそくさと次の町へと向かう。

 元の町ではまだドルボたちが活動しているかもしれない。

 ドルボ達が向かう王都とは逆方向へと進んだ。


 一人で歩くとドルボたちより倍は速い。

 前来た時よりも、あっという間に、クエステン町に到着してしまった。

 国内で上から数えて8番目ぐらいに大きい町だろう。


 冒険者ギルドに行く。


 自分で受付嬢に話しかけるのは避けたいが、かといって誰かを掴まえるには誰かに話しかける必要がある。


 ギルド前の露店を見つつ様子を見る。


 するとギルドからちょっと離れた売れてなさそうな露店が妙に気になった。

 店主はエルフの金髪の女性、美少女と言っていいだろう。

 しかし服がボロい。茶色いシャレッけのないクソ安いミニワンピースだ。

 そのくせ売っているのは、黒魔術で使う呪具の一種、黒水晶のアクセサリーだった。


「お客さん、ねえ、お客さん」

「ん?」


 俺の事らしい。確かに俺は黒魔術師だから、この手のものに詳しい。

 付近の人物で俺以外に客だろう人物は見えない。


「黒水晶ですよ? どうですか」

「間に合ってる。あ、ん?」


 しかし俺は目を見張る。

 くそボロい格好に似合わない、かなりの高水準の黒水晶なのだ。

 なのに値段がバカみたいに安い。


 いや、店主はバカだろう。どう見ても専門店なら倍以上の値段はする。


「お嬢さん、バカだろう」

「ひゃい?」


 エルフの美少女は、びっくりしたのだろう目を丸くする。


「これ、安すぎる。どう考えても安い。おかしい」

「え、そ、そうなんですか? はうぅ、すみません、よく分からなくて」


 顔を赤くして、目を泳がすその表情は、どこか愛らしい。

 正直俺はびっくりした。俺はそれをかわいいと思ってしまったのだ。

 第三者的視点を忘れていた。


「たとえ安すぎても、お客さんがよろこんでくれれば、私もうれしいから、別にいいんです……」


 そう言って、微笑む美少女。


 俺は、ひと目でこの少女を気に入った。

 見た目も、性格も――。


 いい子なのだろう。近年めったに見ない、その邪気のない笑顔はとても眩しく見える。


「ああ、お嬢さん、名前は?」

「えっ、その、ラティア、です」

「ラティア嬢、いいか? これを持って冒険者ギルドへ行って換金してきてほしい」

「はい? なんで私が……ってこれ、ゴーストの欠片、こんなにたくさん」

「そうだ。俺が倒してきた。細かいことは聞くな、お使いクエストだ。成功したら一割やろう」

「いちわり、えっそんなにたくさん、いただけません」

「いや、いいんだ」


 俺はゴーストの欠片の袋を持ち上げ、ラティア嬢に押し付ける。

 そのまま押し切り、彼女はなんとか受け取って、ふらふらギルドの中に入っていく。


 もし万が一、このまま金貨またはゴーストの欠片を持ち逃げされたら、それまでだが、俺の見る目がなかったことを恨むだけだ。

 俺は少し少女に正直さを試すようなことをさせて、罪悪感を感じている。


 十数分後、任務を無事完遂したのか、満面の笑みでギルドから出てきてスキップして俺に抱き着いてくる。


「ちょっ」

「はいはい、おつかいクエストできました~」

「抱き着くな、いい匂いがする!」

「いい匂いならいいじゃないですか」

「よくない、離れろ」


 彼女がやっと離れると、袋に入っている金貨の山を見せてくれる。

 そして俺が適当に数えて、一割を彼女に渡す。


「えっ、ええっ、本当にこれを私に? 頭、大丈夫ですか?」

「失礼な。約束しただろ。忘れたのか?」

「約束……確かにしましたけど、でも、あんなの。でもでも、ありがとうございます~」

「おい」

「すごく、うれしいです」


 エルフなのに尻尾をぶんぶん振る犬獣人かと思った。

 こんなところも、かわいく思う。

 俺もどうかしている。


 彼女曰く、これがラティアの俺との運命的な出逢いだった、らしい。



□◇□◇□─────

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