第3話 [弁当を忘れた猫女王様]

 その後、猫宮さんは本調子を取り戻し、いつも通りに授業を受けていた。

 休み時間にバカップル二人を慰めたりして大変だったが、四時間目が終わって弁当の時間になった。


 バカップルは外でイチャコラしながら食べさせ合いをしているらしいので一緒に食べたくない。

 いつもだったら親友と一緒に食べているのだが、今日は部活の集まりがあるらしく、そっちで食べると聞いた。

 なので俺は教室の隅でぼっち飯を堪能することにした。


(この孤独感……久しぶりだな)


 別にぼっちということは嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。

 何事にも縛られずに自分中心で行動ができるからだ。判断は己がする。自分だけの世界。

 つまりだ、“ぼっち”を言い換えれば“天上天下唯我独尊”だ。かっこよくないか?


 まあそんなことは置いておいて、俺はバックから弁当箱を取り出し、早速食べようとしたのだが、隣から「ぐー」という音が聞こえてきた。


「……っ」

「え?」


 猫宮さんはフードを被っており、さらにそれを摘んで深く顔を隠していた。

 だが再び「ぐー」という腹の虫の鳴き声が猫宮さんから聞こえてきた。


「ね、猫宮さん昼ごはんは?」

「…………弁当忘れた」

「よかったら俺の食べる?」

「……それは悪いし……」


 猫宮さんは周りをチラチラとみて周囲を窺っていた。


「バレたらまずい……」

「大丈夫、俺の弁当美味しいから」

「上手くない」

「だから美味しいって」

「いや、違……。もういいや」


 「はぁぁ……」という深いため息をついていた。

 ちょっとおふざけが過ぎたみたいだ。


「弁当箱ごと猫宮さんに渡せば問題ないよ。『猫宮さんの弁当箱変わったんだ〜』ぐらいにしか思われないって」

「それだと空音くんの弁当が……」

「もう一つあるから大丈夫」


 俺はバックからもう一つ弁当箱を取り出して猫宮さんに見せつけた。


「な、なんで二つ持ってるの?」

「たまに俺の親友に弁当を作ってあげてるんだけど、今日は用事があって一緒に食べれないんだ。それで一つ弁当を余分に持ってきちゃったんだ」


 はぇーっと納得したような顔をすると、次は疑問を顔に浮かべた。そして最後に驚きの顔に変わった。


「自分で弁当作ってるの!?」

「し、しぃーっ! バレちゃうよ!」

「あっ……ご、ごめん……」


 猫宮さんが大声を出して驚いていたが、クラスメイトたちは盛り上がっているようで誰もこちらを向いていなかった。


「母さんは仕事で場所を転々としてて家に帰ってこないんだ。実質一人暮らしなんだよ」

「そうなんだ……」

「はい、じゃあこれやるよ」

「でも……。やっぱり悪いし……」


 むぅ……。頑固だな、猫宮さん。

 こうなったらめちゃくちゃ美味しそうに食べてやる……!


「アーア、じゃあ俺だけで食べるかァー」


 俺は弁当の蓋を開け、早速食べ始めることにした。


「今日のメインはなんといってもこの生姜焼き。俺特製のタレをたぁっぷりかけてるんだよなー。んぁ〜うんめぇ〜〜!」


 俺は生姜焼きを口に放り込み、咀嚼しながら猫宮さんをチラッとみた。

 猫宮さんは瞳孔を開き、よだれを口から垂らしながら俺の生姜焼きを見つめていた。

 さらに、猫宮さんのお腹が鳴る音が大きなっていた。


 普段とのギャップがものすごいな……。


「ほら、猫宮さんの舌に合うかはわからないけど自分では美味しいと思ってるから。食べてくれ」


 俺は弁当箱を猫宮さんの机にポンと置いた。


「あ、ありがとう……」


 俺の弁当箱を受け取り、やっと食べてくれるらしい。

 フードを被るのをやめ、弁当の蓋を開けて早速食べ始めた。


「んっ!? 何これすごい美味しい!!」

「ね、猫宮さん!」

「——はっ……」


 流石に声が大き過ぎたらしく、チラホラとこちらを見てくる人がいた。


「今の猫女王様?」

「え、まじ?」

「いや、ちげぇだろ」

「あんなリアクションするわけねぇよ」

「それもそっか〜」

「んでさっきの話だけどさ——」


 どうやらバレていないようだ。

 あの猫女王様がこんなにも大きなリアクションをするわけがないということで再びクラスメイトたちは弁当を食べ始めた。


「猫宮さん、静かに、ね?」

「うん……」


 薔薇色に染まった頰でガツガツと俺の弁当を食べ始めた。


「でも美味しいって言ってくれて嬉しかった。ありがとう」

「……こっちこそ……」


 微笑みながら猫宮さんにそう言い、俺も弁当を食べ始めた。





「ご馳走さま、ありがとう!」

「お粗末様でした」


 猫宮さんは満足した顔で俺に弁当箱を渡してきた。


「もうそろそろ外で食べてる人たちが帰ってくると思うから、被ったほうがいいんじゃないのか?」

「……はっ! そうだね!」


 どうやら無意識のうち猫が被れていなかったらしい。

 猫宮さんは先ほどまでコロコロと表情を変えていたが、すっと無表情になり、いつもの猫女王様になった。


「さて、俺も授業の用意するか」


 五時間目は数学だ。

 正直あの先生の授業は眠すぎるから寝ないようにしないとなぁ……。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


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