エンディング(1)

「ちぇっくちぇっくわんつー。まいくちぇっくわんつーわんつーすりー。あーあー聞こえますか。聞こえますか」


 『オアシス』を後にした僕らは、レコニング号をひたすら走らせていた。

 今までならば、数日走らせていれば神さまが急に現れて啓示を知らせてきたりしていたのだけれども、そんなこともなかった。

 アリスはあれからずっと黙ったままで、ぼうっと外を眺めるか、眠っているかのどちらかだ。

 彼女は『オアシス』で死ぬはずだった。

 世界の欠陥を修復するために――欠陥である彼女自身が、死ぬはずだった。

 神さまの意志の元。ゾンビ映画の世界がずっと続くために。

 悲劇バットエンドで終わるはずだった。

 しかし彼女は生きている。

 僕が助けたから。

 ――神さまは、お前を助けてなんかくれない。

 神さまを信望して、ここまで旅を続けてきた結末としては、そりゃああんまりだろう。

 物語は悲劇バットエンドで終わらなかった。

 車の窓から外を覗けば、まだゾンビがそこらをうろうろしている。

 アリスを殺すという神さまの願いは叶わなかったが、同時に、世界を救うというアリスの願いも叶っていない。

 世界に終わりはない。

 映画みたいに、一時間半で終わったりしない。

 それでも人には終わりがあって、なにかを始めたのなら、いつか終わる。

 だから、僕はずっと、この旅の終わりを探していた。

 神さまの言いなりの旅の終わりを。

 悲劇的バッドエンドではなく、喜劇的ハッピーエンドな、未来を感じるエンディング。

 長い山道を、レコニング号を走らせる。

 山道を登り切る。山のてっぺんには、ひとつの建物があった。

 小さな建物。屋根の上にはソーラーパネルが設置されていて、横には発電機がいくつか。

 なにより目についたのは、アンテナだ。まっすぐ縦に伸びている、大きなアンテナ。


「ラジオ局だ」


 思わず呟く。

 レコニング号を脇に止めて、外に出る。

 アリスも遅れて外に出る。吹く風にウィンプルが飛ばないように、頭をおさえている。

 僕は振り返る。


「なあ、アリス。DJをやってみないか?」


 首を傾げながら、アリスはオーイエチェケラ。みたいなポージングを決める。

 しゃべらない割には、ボケに抜け目がない。

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