勇気

遠藤良二

第1話

 僕は勇者になりたいと常日ごろから思っている。勇気のある者「勇者」。

勇気があれば、好きな人にも告白できる。実際、僕には好きな子がいる。現在、僕は16歳。その子も16歳。でも、学校が違う。電車の中でよく見かける内に、目と目が合いそれがきっかけで僕は気になるようになった。それから向こうから話し掛けてくれた。それ以来、僕は彼女の虜になった。


 誰か僕に勇気をわけてくれないかな。僕はきっと不甲斐ない男だろう。好きな子に告白すらできないのだから。


 でも、よくよく考えてみたら不甲斐ないのは僕ばかりじゃないのではないか。友人の聡(さとし)も好きな女子がいるけれど、告白できずにいるという話をしていたのを思い出した。そうだよな、そんなにひとって強くないよ。


 僕が好きな子はポニーテールがよく似合う子で、清潔感もあり好印象だ。見た目もかわいいが、性格はあまりよくわからないけれど、明るい。だから、もし付き合えたら大切にしたいと思う。その子の名前は、大矢理沙(おおやりさ)という。彼女は僕のことをどう思っているのかな。好意的なら嬉しいけれど。


 名前を知ることができた理由は、理沙ちゃんから話しかけられた時、教えてくれた。もちろん、僕の名前も教えた。彼女とLINEを交換したい。でも、断られるのが怖くて言い出せずにいる。これもまた、情けない話かもしれない。


 ダメ元で訊いてみようかな? でも、本当にだめだったらショックだ。もう、2度と訊けない。うーん、やっぱり訊くのをやめよう。恐ろしい。まあ、焦ることもないのかも。でも、他の誰かと付き合ったりするかもしれない。そうなったら一巻の終わりだ。それなら、早めにLINEを交換して仲良くならなくては! 僕は不意に焦燥感に襲われた。


 ひとりの女子を手中にいれるのはそんなに難しいことなのか。いや、難しいだろう。僕が理沙ちゃんを好きでいて、理沙ちゃんも僕のことを好きでいてくれる。それを続けること。難しそうだ。

 僕は好きでい続けるのは自信がある。でも、理沙ちゃんはどうだろう? そもそも、彼女の僕に対する気持ちを訊いていないし。だから、今のところ続ける、続けないという問題ではない。まずは、相思相愛にならなくては。僕の気持ちには火がついている。あとは相手の気持ち次第。


 翌日の朝。僕はいつもの時間に学校に行くために電車に乗った。理沙ちゃんも乗っていたが、満員電車だ。

 僕は見てしまった。理沙ちゃんが痴漢にあっている現場を。彼女の顔を見ると苦痛で顏が歪んでいる。これは許せない! 僕は人込みの中を無理矢理入って行き、痴漢をしている男の腕を掴んで、「この人、痴漢です!」と大きな声で叫ぶように言った。

「純一君……。助けてくれてありがとう」

「いや、何もさ。痴漢は許せないから」

 そのあとに続く言葉が、理沙ちゃんだから特にね、と思ったが言えなかった。周りのお客さんが、車掌を呼んでくれて犯人を確保してもらった。

「勇気あるのね、純一君。カッコよかったよ」

「ありがとう! 勇気ある、なんて初めて言われた。嬉しい!」

「そうなの? 私は勇気あると思うよ。だって、捕まえてもしかしたら暴力振るわれるかもしれないじゃん?」

 確かに言われてみればそうだ。

「でも、そんなこと思い付かなかったよ。頭にきてたから」

「へー! 凄い!」

 僕はたくさん褒められたから照れてしまった。理沙ちゃんは笑いながら、

「純一君、顔真っ赤」

 と、言った。

「あんまり褒められないから恥ずかしくて」

「ははは! 純一君、かわいい!」

 え!? かわいい? 僕はそう言われて、穴があったら入りたい気分になった。顔から火が出そうなくらいだ。

「純一君! 助けてもらったお礼をさせてよ」

「あ、うん」

「ハンバーガーおごるよ」

「え、ほんと? ありがとう!」

「私の住んでる町でもいい?」

「うん、いいよ」

 凄く嬉しい! 理沙ちゃんと遊べるなんて。

「次の駅で降りるから」

「わかった」


 駅までは鈍行列車なので、20分くらいかかった。

 駅に着いて理沙ちゃんの方から、

「LINEやってる?」

 と、質問されたので、

「してるよ」

 答えると、

「交換しよ?」

「うん、いいよ」

 僕は制服のポケットからスマホを取り、LINEのQRコードを表示した。理沙ちゃんはそれを読み取り、LINEを交換できた。彼女はいろいろと積極的だなと思った。それを伝えると、

「そう? 普通だけど」

「僕にはそう感じるよ」

「ありがとう」

 この町には初めて来た。なので、

「店まで着いて行っていい? 初めて来たから」

「うん、任せて」


 それから15分くらい歩いてファーストフード店に着いた。理沙ちゃんは、

「奥いこ」

 僕は、「うん」と返事をし彼女に着いて行った。

「何食べる? 注文してくるよ」

「そうだな、ハンバーガーとコーラがいい」

「わかった、ちょっと待っててね、行ってくる」

「ありがとう」


 それからというものの、僕は理沙ちゃんとLINEで会話するようになった。



 いろいろお互いのことを知って、僕は決意した。告白しよう。この高鳴る胸の鼓動を止めることができない。理沙ちゃんの予定をLINEで訊いた。

<今度、いつ会えるかな? 話したいことがあるんだよね>

 30分くらいで返信がきた。

<話したいこと? 明日で良ければ明日、私の町で会えるよ>

 今は、夜9時過ぎ。

<学校が終わったら理沙ちゃんの町に行くよ>

<わかったー>

 これで、LINEのやり取りは終わった。


 翌日ーー。

 僕は、学校を終えて16:05の電車に乗った。緊張が高まる。フラれたらどうしよう。毎日しているLINEもしなくなるのかな? それは寂しい。


 電車に揺られて約30分が経過した。電車の中は、まあまあ混んでいた。駅に着いて、LINEを送った。

<着いたよ>

 すぐに返信があり、

<今、迎えにいくから>

 僕は胸躍らせた。


 15分後くらいに理沙ちゃんは自転車でやって来た。彼女は満面の笑みで来てくれた。

「こんにちは!」

 と、言いながら僕の前で自転車を止めた。赤い自転車だ。初めて見た。理沙ちゃんは赤い半そでのTシャツに花柄のロングスカートを履いている。麦わら帽子も被っている。ちなみに僕の服装は黒い半そでのTシャツにクリーム色のハーフパンツだ。彼女は上品な服装だと思った。

 天気も晴れで、強い日差しだ。

「今日も暑いね」

 今は7月中旬で真夏。

「そうだね」

 理沙ちゃんは自転車から降り、自転車をスタンドで立てた。

「んで、話って?」

「うん、あのね」

 緊張し過ぎて言葉が出ない。

「あの……僕、君のことが……理沙ちゃんのことが好きだ! だから付き合って欲しい!」

 最後は一気に言った。

 彼女は真顔になり、僕を見つめている。驚いているようにも見える。

「ほ、ほんと?」

 僕は頷いた。目を合わせられない。会話が途切れて、沈黙が訪れた。まずい、何か喋らないと。それよりも先に、

「ありがとう、嬉しい。私はね、純一君に痴漢から守ってくれたころから気になってたよ。今、何してるかな、とか考えるようになった」

「そうなんだ、じゃあ……?」

 今度は理沙ちゃんが頷いた。

「マジで!? やったー! うれしい! ありがとう!」

「こちらこそ! よろしくね」

「うん! よろしく」


 こうして僕達の交際は始まった。長く続くといいけれど。空は雲ひとつなく、快晴だ。まるで、僕達の交際を祝ってくれているかのようだ。


                               (終)

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勇気 遠藤良二 @endoryoji

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