はねをトバせ!!

アカサ・クジィーラ

時間超過とはじまり

一話 遡る時間

普通な人生、なんの取り柄もない個性、加えて人より少し不運な俺であった。これも全てあの時、俺が全力で青春を成し遂げようとしなかったからだ。30になった俺にとってはもう帰ることのできない過去だ。でも、いつか戻れるとしたら。恋愛すればよかった、全力でいきたかった、夢を成し遂げたかった。しかし、もう戻れない。人生はやり直しできない。不可能だ。『一緒にあの舞台へ行くよ!』かつて俺にそう言いかけてくれた彼女は今どこにいるのだろうな。


東京のはずれにあるちっちゃな小企業の下っ端として未だに働き、家賃2万オンボロアパートで住む。あの時、少しでも選択を変えていたなら、一体どんな暮らしが待ってたのだろうかと思うと、後悔が止まらない。隣から聞こえる変なおばさんの声、屋根からは猫の喧嘩、片方の隣にはおじさんのいびきだけが聞こえる。望みは絶った。誰も助けやしない。両親からは大学進学の時に見放された。望みではなかった大学だったから。もちろん、俺だって行きたかった大学ではなかった。しかし、それでもそこを選ぶしか余地は無かった。仕方ないことだと思いきればいいが、そうにもなれない。


ある時、たまたまテレビを見ていたら、いつの間にかオリンピアの話題になっていた。ギリシャで始まったとされるスポーツの祭典、オリンピア。そこは各アスリートが目指す最高の舞台であった。俺もあの舞台に立ちたかった時もあったが、今はもうない。そんなことを思いながら、ふと懐かしい人物を見る。あの時、俺のタッグを組んでた天堂幸てんどうさちだ。オリンピアに選ばれ、金メダル候補らしい。彼女はあの時から今まで一切ダブルスをしないと決心したのだろうか、ダブルスではないらしい。俺は見て見られず、テレビを消し、このあばらやを出た。俺は周りを見ず、叫びながら、後悔を繰り返した。なぜ、あの時、アイツと一緒にいられなかったのかと...

その時、俺はいつの間にか、大通りに出ていたのだろう。近くの車通り多めの商店街に到着していた。大都市から少し離れていてもオリンピアの影響は出ている。オリンピア限定(勝手)商品が売られていた。商売知恵であろう。でも、そんなことはどうだっていい。俺はひたすら後悔していた。全く巻き戻れないのに...そんな時、商店街の上辺りが騒いだした。悲鳴が鳴り響く。ナイフを両手に、闘牛かのごとく下りてくる。そのまま俺の腹にぶっ刺す。血しぶきをあげ、俺は倒れた。通り魔は、ナイフを捨ててすぐ逃げた。周りは騒然、救急車を呼ぶものやあの通り魔の逃げた先へ追いかけるものなど様々だ。そんなことを平気見れるくらい不思議と冷静で入られた。これなら、よかった...

ありがとう、父さん母さん、そして幸...



目が覚める。そしたら、天国でも地獄でもない。紛れもなく俺の部屋。あのあばら屋ではなく実家の方の部屋であった。両親が助けてくれたのかと思ったが、そうでもない。近くのカレンダーを見ると、俺が確かに死んだ年より14年前であった。そして、窓を覗くと、桜の降る季節。俺は時代を遡ったらしい。

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