借金も返せたし、冒険者にでもなりますか!

来佳

第1話

僕は、なんとなく高そうな扉の前で少し緊張していた。何度か会っている男爵様だし、優しい人だということも知っているのに、なんとなく悪いことをする前のような気持ちになってしまっている。

 実際悪いことをしてるかもしれない。僕が悪いとは言えない事故だったとはいえ、5年もの間意識を失っていた僕の面倒を見てくれていた男爵様の仕事場から、治療費を返したからと言って、逃げ出して、自由になろうとしているのだから。

 大きく息を吸い、ドアをノックする。そして失礼しますと声をかけて中に入った。

 中には、いつもの仕事机に座っている男爵様とソファーには、今日のために呼ばれたであろう神官様がいた。


 「おお、待っていたよ。かけたまえ」

 

 言われた通りにソファーに座ると、正面に男爵様も座った。


 「こちらが、今日契約してくださる神官様だ」

 「何から何までありがとうございます。神官様も今日はよろしくお願いします」

 

 僕が頭を下げながら言うと、そうかしこまらなくてもいいよ、と優しく男爵様は言ってくださり、神官様にも仕事があるからと、そのまま契約について再度確認をし始めた。

 一つ目は、研究内容を口外しないこと。

 二つ目は、研究所の場所を誰にも話さないことだった。

 内容が男爵様と始めに話したものとなにも変わっていなかったので、僕はすぐさま了承して契約を始めることに同意した。



 契約を始めるという意思を示すと、神官様はどこからか、少し大きめの何らかの紋章が描かれた紙を取り出し、紋章を下にして、机の上に置いた。そして、僕と男爵様にその紙の上に左手をおくように指示した。

 僕と男爵様が手を置くと、神官様は小声で言葉を紡ぎ始めた。すると、少しずつ紙が冷たくなっていき、少しの痛みと共に紙がほのかに発光した。


 「これで終わりだよ。また困ったことでもあれば、戻ってきたまえよ。私がいつでも力になろう」

 

 「ありがとうございます。もしなにかあれば頼らせていただきます」


 「うむ、やるべきことはこれでおしまいだ。今月の給料は計算して、所長にすでに渡してあるから寮に戻ったら言いなさい。今までありがとう。からだに気を付けるんだよ」


 「はい!ありがとうございます。それでは失礼します。今までありがとうございました」


 僕は小さくお辞儀をして、席をたち、扉の前でまたお辞儀をしてゆっくりと部屋をあとにした。

 部屋を出ると、僕はつい大きな息をはいてしまった。聞こえないように願いつつも、空いた肺に満足感が戻ってくるのを感じ、少し笑ってしまった。

 最初にあった罪悪感は少しなくなって、いまはなくなった分の喜びと自由が僕の周りを回っている。

 お疲れ様、僕。

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