第十四話 作戦会議
仮眠から覚めたリオ達はギルドの前で冒険者や衛兵を相手に状況を説明することになった。
先にイオナから話を聞いたホーンドラファミリアからの連絡もあったらしい。リオ達の話は裏取りのようだ。
イオナの話と齟齬があるはずもなく、邪神カジハ襲来はもはや避けられない事態としてその場の人間も飲み込むしかなかった。
「住人の避難は着実に進んでいる。抗争の影響ですんなり話を聞いてくれるから、予想より早いくらいだ」
衛兵隊長が町の状況を説明してくれる。
ホーンドラファミリアと白面の抗争を嫌ってすでに町を出ていた住人も多数おり、住人が町を脱出しきるのは明日の午後だと予想されている。
「問題は戦力だな」
衛兵隊長が苦々しい顔で言って、ギルド前の人々を見回す。
衛兵隊の人間は半数近くが住人の避難誘導と道中の護衛を担い、町を離れている。残っているのは独身者や年かさの者たちばかりだ。
対して、冒険者はほとんどが残っている。身軽な彼らはすぐにでも逃げられるものの、この危険な町を拠点としているだけあって肝が据わっているらしい。
ただ冒険者を統率できる肩書の人間がいないのは問題だった。各自の判断で撤退の判断をするしかない。
まとまった人数での作戦行動がとれるとすれば、ホーンドラファミリアだけだ。
そのホーンドラファミリアを代表してこの場にいる邪人コンラッツが口を開く。
「我々ホーンドラファミリアは殿軍を務めよう」
「いいんですか?」
意外そうに衛兵隊長がコンラッツに問いかける。
コンラッツは腕を組んで鼻を鳴らす。
「他に務められる組織がない。神器や邪器がなければ邪神カジハには無力だ。冒険者でも持っている者がほとんどいない。足手まといにしかならん」
武器を視界に収めた瞬間に固有魔法で無力化されてしまうため、通常の武器が役に立たない。
コンラッツがリオを見る。
「だが、小僧は別だ。切り札になりうる」
「魔法斬りですか」
衛兵隊長が顔をしかめる。
リオはサンアンクマユの人間ではない。年齢もギルドでは最年少で、剣術の才能もない。命がけの戦場に送り出すのは気が咎めるのだろう。
だが、良心に背を向けても魔法斬りは邪神カジハに対する切り札になりうる。
逡巡する衛兵隊長を無視して、リオはコンラッツに向き直る。
「作戦がある。ただ、その作戦が本当に有効か、一点だけ確認させてほしい」
「意思を問う前に腹は括っていたか。何でも聞け。一蓮托生だ」
にやりと笑ったコンラッツに、居合わせたホーンドラファミリアの面々が少しざわついた。
イオナがちらりとチュラスに目を向ける。作戦を察したらしい。
周囲の反応に構わず、リオは切り出した。
「コンラッツの邪人としての衝動を知りたい」
「邪霊、邪獣に対する殺戮衝動だ」
隠すこともなくあっさりと答えて、コンラッツは剣呑な光を宿した目でチュラスを睨む。
「そこの妙な気配の猫が関係してるのか?」
「神器エレッテリがある」
コンラッツの質問には答えず、リオは早々に核心を話す。
コンラッツの表情が変わった。考え込むように顎を撫でると、喉の奥を鳴らすように笑う。
「面白いことを考えるな。この面子と神器や邪器なら奇襲も容易い」
チュラスの作戦を正確に理解した様子のコンラッツがイオナ、シラハと視線を巡らせる。
神器エレッテリ、神弓ニーベユ、神剣オボフス、邪剣ナイトストーカー。夜間に奇襲をかけるのには打ってつけの装備品たちだ。
コンラッツが背後の配下たちを振り返る。
「命を捨てる覚悟はあるな? お前らは囮だ。覚悟がないなら今すぐ抜けろ」
「囮ではありますが、カジハと刺し違えたら墓にはきちんと刻んでくださいよ」
「おう、その意気だ」
コンラッツがリオを見る。
「話を詰める前に、奴の衝動についての話だ」
コンラッツが試すような目でリオを見る。コンラッツの懸念はリオも抱いていた。
「住民を逃がすことを目標にしていると悟られれば、その目標を崩しに来る。つまり、避難民を追いかけ虐殺しようとするって話だよね」
邪神カジハの衝動は人の心を折ること、挫折を経験させることだ。
交渉を持ち掛けても自分の弱点を晒す結果にしかならず、敵対以外の対応が取れない。
「邪神カジハがサンアンクマユを目指すのは白面、リィニン・ディアの思惑を潰すため。まぁ、肝心のリィニン・ディアがミュゼ共々消えてるけど」
「矛先を逸らせるのならそれが一番だが、無理だろうな」
コンラッツは言って、衛兵隊長を見る。
「そういうわけだ。死ぬ気のない奴はカジハが来る前に逃げろ。矛先が移れば、他の町まで被害が拡大する。国ごと潰されるわけにもいかんだろ」
虫でも払うように手をひらひらと動かした後、コンラッツはリオに視線を戻す。
「仕留めそこなった時に小僧たちを逃がす算段も考えておかんとな」
「仕留めそこなったら死んでる気もするけど、逃げるとすれば再戦を誓うとか?」
素直に再戦を受け入れるかは分からないが、努力したうえで挑みかかって敗北を喫するというのはカジハ好みの展開だと思える。
ぼそりと、隣でシラハが呟く。
「村でユードに聞けばわかるかも」
シラハの中で嫌な奴の代名詞的存在になっているらしいいじめっ子のユードを思い出し、リオは何とも言えない顔をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます