愛し方を教えてくれ
エル
君はお人形様
第1話 一緒に住む?!
今年から高校一年生になり一人暮らしを始めた
一人暮らしを始めてはや一週間。特に問題もなく学校生活が送れている優斗には目の前の少女、いや美少女が何故自分の住宅の前に立っているのかが理解不能だった。
しかも同じ高校の制服を着ているのに優斗は彼女に見覚えがない。こんな美少女なら誰でも記憶の片隅には残るはずだ。銀髪だと尚更。
遠くから観察しても動く素振りは全く無く、扉の前で人を待っているのかのように佇んでいる。
学校の疲れもあるためそろそろ部屋に入りたい優斗は、彼女と接触を試みる。
「そこ俺の部屋なんだが」
「……………」
名も知らない美少女は優斗が話しかけても、その美しい瞳しか動かさず答えを返さなかった。
「無視…か」
「…………」
アジア系の容姿をしていても必ずしも日本語が喋れる訳がないと思った優斗は、世界で一番使われてる言語、英語に切り替えた。
「Hey you. Do you understand what I'm saying?」
英語を使われたことに驚いたのか、初めて優斗と目線を合わせた彼女はまたもや答えを返さず、胸ポケットに入っていた写真を取り出し優斗と見比べ始めた。
その目に感情は見えないが、彼女みたいな美少女にまじまじと見られたら思春期の男子はだれだってドキドキするだろう。
優斗も例外ではなく、自分の体感温度が上がっていくのを感じていた。
「………これを」
始めて喋った彼女の鈴の鳴ったような声に一瞬あっけにとられたが、すぐに手に持っている封筒に目が移った。ハートのマークが付いているわけでもなく、郵便ポストに入れそうな普通の封筒を手渡された。
「て言うか普通に日本語喋れるじゃん…」
「…………」
日本語が分からないと思い込み、英語を使ってコミュニケーションを取ろうとしたことが、若干恥ずかしくなった優斗は彼女の視線から逃げるように手紙を読み始めた。
『拝啓愛しの息子へ、
やっほー!!一人暮らしを満喫しているかなー?優ちゃんなら問題ないと思うけど一応気を付けてねー。帰りたいと思ったらいつでも帰ってもいいのよー』
どうやらこの手紙は優斗の母が書いたらしく、相変わらず年齢を感じさせない陽気な少女のような書き方だ。凄く軽くだが、一人暮らしの事を心配してくれるらしい。
さりげなく家に帰らせようとするが遠慮させてもらおう。
『いきなり自分の部屋の前に銀髪の美少女がいて驚いたでしょ?でしょ!』
自分の母親ながら手紙でもこのウザさを発揮できるところに呆れるしかないが、もう慣れたので優斗も無視して続きを読むことにした。
『実は仕事上彼女を引き受けることになったんだけど……大人が苦手と言うか、怖いと言うか…私たちと一緒にいるとプラスよりマイナス面が多いから、優ちゃんに預かってて欲しいの』
「………は?」
手紙に書いてある内容が余りにも衝撃的な内容で思わず声が出てしまったようだ。優斗は目を閉じて一度深呼吸する。今読んでいる文章が自分が生み出した幻だと思って、再度目を開けると――――全く同じ内容。
(どうして俺なんかを?)
せめてもう少し情報が欲しいため、最後まで読んでみる。
『今優ちゃんは「どうして俺なんかを?」と疑問に思っているでしょう』
優斗が考えていることをドンピシャで当てられて若干引いたが母親補正と思って無理やり納得した。
『でもね私たちが心の底から信じれるのは貴方しかいないのよ。だから彼女に人間としての生き方を教えて欲しいの。今まで得られなかった経験を同い年の優ちゃんなら素直に聞いてくれると思うから』
文面はここで終わっていた。
こんなヘビー級な依頼を一般高校生に押し付けられた優斗は無意識に天を仰いでしまった。
一人暮らしを始めて一週間、優斗の平穏な日常は今ここで崩壊した。
(なんて爆弾を渡してきたんだあのバカ親たちは!)
憂さ晴らしに頭の中で親の事を罵り、もう一度さっきからずっと黙っている美少女の方を見る。
人間離れしている雪のような白い肌、綺麗に整えられている銀髪のロングヘアーは夕日によって彩られていてとても綺麗だ。
だが体型は異様に細く、男の優斗でも分かるぐらい不健康そうな体だ。
彼女の瞳は真っすぐ見ているようで、何も見ていないようにも思える。その碧眼は生気を失った人の目で、覇気を感じさせない。
優斗が手紙を読んでいても、お人形のように微動だにしない。彼女の作り物のような美貌と、その佇まいはマネキンと言われても納得する程だ。
手紙をもう一度見ると、一番下に矢印が描いてあった。
(?なんだろう、表で用件は全部書いてあったはずだが…まだ何かあるのか?)
『追伸:彼女の苗字は
グシャリ!!
持っていた手紙を優斗は手の中で強く握った。この手紙の内容は爆弾でも、どうやら核兵器に匹敵するほどの爆弾だったらしい。
親の身勝手な行動にイライラするものの、目の前の少女を見るとその苛立ちも一瞬で消えた。
親の事は次に連絡する時まで置いておいて、まずは如月への対応だ。
「……とりあえず中入る?」
「…………」
またもや無言の返しに優斗はどうすればいいのか困惑するのであった。
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