フラグは全部ぶち壊す!

黒木 海利

第一章

第1話 転生


 最悪だ、俺は鏡に映る自分の顔を見て絶望していた。


 自分の顔を見ているだけで吐き気が込み上げてくるようだ。


 こんなに気分が落ち込み、マイナスへと急転直下することなんて人生で経験したことなどない。


 何故俺がこんなことになってしまったのか、それは数分前に遡る。








 一人暮らしのアパート、301号室が俺が暮らしている部屋だ。休日ということもあり、俺は夜通しゲームをしていた。


「いやー、やっぱり【ブレイブファンタジー】は面白いなー」


 ブレイブファンタジーそれは王道の魔法と剣のバトル&恋愛ゲームだ。


 物語の主人公【ブレッド】が王国騎士になるために、王立学園へと入学するところからゲームが始まる。


 そして学園生活はもちろん平穏とは行かない。ブレッドの前に現れる悪の組織や魔獣との戦闘、そんな中で生まれるヒロイン達との恋模様。


 様々な展開、ルートが存在するこのゲームに俺はドハマリしていた。


「バトルのとこも面白いけど、やっぱりヒロインが可愛いんだよなー」


 このゲームの魅力の一つがヒロインが可愛い所だろう。そして俺の好きなヒロインが貴族令嬢である【アリステア】だ。


 アリステアは高位貴族出身であり、トゲトゲした性格をしている。


 初めは平民出身であるブレッドのことを気にも止めていなかったが、共に困難を乗り越えていく中で、ブレッドの思いや信念、努力を目にしたことにより絆が生まれ恋に落ちるのだ。


 そしてデレる時のアリステアが普段とのギャップがありとても可愛いのだ。


「よし、アリステアのルートでの攻略が終わったから一旦ここで終わるか」


 そう言って俺は椅子の背もたれに寄りかかり、伸びをする。ずっと座りっぱなしだったため体がカチコチだ。


「ずっとゲームやってたから晩飯食べてなかったな、なんか食べよ」


俺は椅子から立ち上がり台所へと向かう。そして棚の中をあさりインスタント麺を見つけた。


「これでいいか」


鍋に水を入れ火をかける。お湯が湧くまで少し時間がかかる。その時間を待ってる間は暇なので椅子に座っていよう。


「ふわぁー、何か眠くなってきたな、お湯が湧くまでちょっとだけ寝ようかな?」


 机の上に腕をクロスさせ枕とし、そこへ顔を埋める。そうするとすぐに眠気がやってきて瞼が重くなっていく。


(起きたらご飯食べてまたゲーム再開だ。次はどのルートやろうかな)


 そう思いながら俺は眠りに落ちた。






 暖かな陽の光を感じ、瞼を開ける。窓から光が差し込み顔を照らしていた。


「うっ、眩しいな」


 目を瞬かせ体にかかっていた掛け布団をどかして体を起こし、伸びをひとつする。


「え?」


 その時俺は気付いた。


(俺は確か机の上で寝ていたはず、いつの間にベッドに来たんだ?)


 慌てて俺は辺りを見渡した。そこには見覚えのない家具や置物、そして部屋の中だった。


「まさか!」


 この時俺の頭の中にビビビット電気が走った。


「これはもしや異世界転生か!」


 そう、ラノベやネット小説でよく読んでいた異世界転生。そんな状況に俺はあっているのだ。


「もしかしてこの世界はブレイブファンタジーの世界だったりして!」


 そう、俺は寝る前までブレイブファンタジーをプレイしていたのだ。もし俺が転生していたならばブレイブファンタジーの世界に転生していると考えるのが自然だ。なぜなら似たような展開の小説を読んだことがあるからだ。


 さらに主人公であるブレッドに転生できたならば人生の成功が約束されたも同然である。


 そう思った俺は、すぐさまベットから飛び降り鏡を探す。幸いそれはすぐに見つかった。クローゼットの隣に立て掛けてある姿見へと自分の姿を写す。


「なん、だと」


 俺は息を飲んだ。自分の姿に見覚えがたったからだ。その姿はブレイブファンタジーの主人公ブレッドではなかった。


 十歳位の身長に、艶のある黒髪で幼さがあるものの整った顔立ちをしている。しかし、十歳の子供には似合わない鋭い目付きが特徴的だ。眉間に皺を寄せて睨みつけたならば、同年代の子供は皆泣き出すのではないかと思うほど怖い目付きをしている。その人物の名は、


「この顔は【クロロ・ルシウス】か?」


 クロロ・ルーゼニクスその人物はブレイブファンタジーに登場する悪役キャラだ。


【悪逆非道】の二つ名を持ち、略奪、虐殺、放火をやらかしたとんでもない人物だ。


 彼は何度も主人公ブレッドやその仲間のパーティの前に現れ敵対するのだ。


 ルートによってはブレッド以外の仲間やヒロイン達を皆殺しにすることもゲームではあった。


 しかしクロロを待つ運命は全て破滅へと繋がっている。主人公パーティに討伐され殺される。悪の組織に利用され殺される。復讐に燃える人達から殺されるなど、どのルートを辿っても結局は死ぬのだ。


 そんな悪役に俺は転生をしてしまったらしい。


「最悪だ」


 俺の転生人生はお先真っ暗であった。






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