ドリームドリーム!

J

第1話

「げ。先輩から呼び出しだ…」


「またあの人か?」


「あんたも大変ねー」


 オレの名前は 夢野 純一郎。

何処にでも居そうな大学生。

成績は中の中。容姿は贔屓目に見ても中の上か。


「また何かの実験に付き合えって話なんだろ?生きて帰って来いよ?」


 この物騒な事を言うのはオレの悪友、大野 大輔。

名前はデカそうだし見た目も横にデカいが小心者。

パソコン関係に強く、ドルオタ。何処かのアニメのスーパーハッカーを彷彿させる。


「帰って来てくれないと困るぅ。あたしの御飯が無くなっちゃう」


 人を食糧庫かなんかだと思ってそうな発言をしてるのは同じく悪友の、美神 可憐。

名前からして美人なこいつは見た目だけはパーフェクト美少女。


 だが重度のアニオタでコスプレイヤー。

バイトで稼いだお金の殆どはアニメグッズとコスプレ衣装製作代に消えるという筋金入り。


 その為によく、うちに飯をたかりに来る。

うちの親も追い返せばいいのに、美人だからと来るたびに食わせるもんだから味を占めやがった。

いつか食費を請求してやろう。


「兎に角、行って来る…」


「そんなにイヤなら断ればいいのに」


「あの容姿で涙目になられて断れると思うか?」


 オレは早々に諦めた。アレは無理だ。


「あんたも大概お人好しよね。御蔭であたしも助かってるんだけど」


「お前には何度も来るなって言ってるけどな。じゃ、またな」


 さてと、先輩は…ラボだな。

一ヵ月前から何か怪しげなマシンを作ってたけど、アレが完成したのかな。

そしてオレに実験に付き合えって話なのかな…イヤだなぁ、帰りたいなぁ。


「よく来た!我が同士よ!」


「こんちわっス、マッド先輩。帰っていいですか?」


「ハハハ!相変わらず貴様は面白いな!まだ何も始めてないだろう!」


 この、やや尊大な物言いの少女は、松戸 夢路。通称マッド先輩(オレだけそう呼んでる)。

見た目、白衣を着た中学生くらいの少女にしか見えないが、これでもオレより二つ年上の先輩だ。


 数々の論文を学会に発表し、世界的に有名な科学誌にもその論文が掲載されるような天才で大学で一番の有名人だ。


 そんな有名人と一般人のオレがどうやって親しくなったかと言うと、以前、偶々マッド先輩専用ラボの近くを通った時に何かが倒れる音がして他にも色々と崩れる大きな音がした。

何事かとラボに入ったオレは倒れてるマッド先輩を救出。

それ以来、何度か会話する内に懐かれてしまった。


 因みに倒れた原因は三日間飲まず食わずでいただけだった、


「で?今日は何の用ですか?察するに、この怪しげなマシンに関わる事なんでしょうけど」


「うむ!流石察しが良いな同士よ!」


「はぁ…これの起動実験に付き合えってわけですね。で、何なんですか、これ」


 何て言うか…でっかい機械仕掛けの箱の前にコードで繋がった椅子とVRゲームに使うような…バイザー?とメットがある。


 何かSF映画に出て来そうな物に見えるな。


「フッフッフッ…よくぞ聞いてくれた!これはな!全人類の夢!人類を新たなステージへと押し上げる夢のマシーンだ!」


「はぁ。夢のマシーン…」


「名付けて『夢野くん』だ!」


「人の名前を勝手に使わないでください」


「くん、が漢字では無く平仮名なのがポイントだな!」


「すっげーどうでもいいっス。相変わらず人の話聞かないっスね」


「うん?『純一郎くん』の方が良かったか?まぁそんな事よりもだ」


「すげえやこの人。頭叩いていいっスか?」


 オレの文句を無視して、マッド先輩は夢のマシーンとやらをガチャガチャ弄ってる。

少しして何やら駆動音が聞こえて来る。


「さ、此処に座りたまえ。実験開始だ」


「いやいやいや。その前にこれが何か説明してくださいってば」


「む?まだだったか?」


「夢のマシーンくらいしか情報がありません」


「それで十分じゃないか?」


「不十分極まりないです」


「しかし、これ以上説明しても君の頭で理解出来るかどうか…」


「はったおすぞこの野郎」


 人を急に呼び出して実験に付き合わせておきながらこの態度。

そろそろお仕置きが必要だろうか?


「こ、こら!文句を言いながらスカートに手を伸ばすな!」


「おっと、つい」


「全く、君は…私じゃなかったらとっくに警察沙汰だぞ?」


「無認可の人体実験をする先輩に言われたくないです」


 今までも酷い目にあって来たんだ。

少しくらいイタズラしても許されるだろ?


 いや、誓って未発達のマッド先輩の身体には興味ないんだ。

ただちょっとスッキリするだけで。


「だ、だが…君が望むなら…ゴニョゴニョ」


「何です?」


「な、何でもない!そ、それでこれはだな…簡単に言えば超リアルな夢を見るマシーンだ」


「はぁ。…え?それで夢のマシーン?」


 夢ってそっちか!でも、それが何故、人類を新たなステージに上げるマシーンになる?


「勿論、ただリアルな夢を見るだけのマシーンじゃない。純一郎、君も夢は見な事あるな?」


「そりゃありますけど」


「今までリアルな夢を見て、どっちが夢でどっちが現実か悩んだ事は?」


「…寝起き直後とかでなら」


「ならば夢の中で怪我をして、起きたら実際に怪我をしていた、とかはどうだ?」


「それは…無いっスね。高い所から落ちる夢を見て、浮遊感みたいなのを感じた、ならありますけど」


「そうか。このマシーンはな、その夢で得た感覚、経験を増幅。現実に持ち込めるようにするマシーンなのだ」


「…つまり、夢で怪我したら実際に怪我するし、夢で病気になれば現実でも病気になると?」


「逆に夢で怪我が治れば現実でも治ってるし、夢で病気が治れば現実でも治る、という事だ」


 …え?普通に凄くない?不治の病すら治るの?

若返る夢とか見れば、若返るって事だろうか?


「TV番組とかで催眠術の実験とか見た事ないかい?実際にはただの木の棒を当てられただけなのに、催眠状態にある人にそれを火の点いたマッチだと誤認させると、本当に火傷になるとか」


「ああ、なんか心理学の講義で聞いた事があるような…」


「人間の脳とは実に不思議でな。完全にそうだと思い込ませる事が出来れば、そうなるという事だ」


「つまり…これは催眠術にかけるマシーンだと?」


「違うよ。似てはいるがね。これは夢で起きた事を現実だと認識させるマシーンだ」


「どう違うんです?」


「先程の催眠術だと、催眠を掛けられた人が経験した事しか認識させられない。例えば、これはキャビアですと言ってイクラを食べさせても、キャビアを食べた事が無い人にはキャビアだと誤認させる事は出来てもキャビアの味は感じないという事さ」


「なるほど。このマシーンならその点をクリア出来ると?」


「うむ!思ってたより賢いじゃないか!」


「今度はパンツ下げますよ」


 ナチュラルに人をバカにして。

ほんとに下げてやろうか、そのクマさんパンツ。


「や、やめんか!自然にスカートの中に手を入れるな!」


「おっと、つい」


「つい、でやるなバカ者め…と、兎に角だ。これがあれば体験した事がない、未知の事も実体験できるというわけだ。何せ夢だからな。何でもアリだ!」


「ああ…夢なら確かに何でもアリか。怪我が治るのも病気が治るのも。空を飛ぶのも」


「そう!それだ!」


「え?どれです?」


「このマシーンを使って、夢の中で空を飛ぶ能力を得たとしよう!すると現実でも空を飛ぶ能力を使えるようになるのだ!」


「な!ほんとですか!」


「本当だとも!夢ならなんでもアリだからな!夢の中なら秘孔を突いて人を爆死させたり、かめ〇波を撃ったり、ス〇ンド能力を身に付けたり、裏世界のNo.1スイーパーにだってなれる!」


「マッド先輩って意外と少年マンガ好きですよね」


「フッフッフッ…学校一のラッキースケベ男にだってなれるぞ?」


 しかも割と古いのが好きですよね。

うちの親父と話が合いそう。


 しかし、そうか。

夢の中で超能力をゲットすれば現実世界でも使えるようになる、と。

それが本当なら確かにそれは人類を新たなステージに導いてくれそうだ。


「だが、流石に夢の中で手に入れた物は現実世界には持ち帰れない。夢の世界で金持ちになっても現実では変わってないという事だ」


 それは…そうだろうな。

地球破壊爆弾とか持ち帰れたとしても困るし。


「さぁ、もう説明はいいだろう?実験といこうじゃないか」


「わかりました。…あ、見る夢の内容は選べるんですか?」


「いや。見る夢の内容は君次第だ。このマシーンはあくまで夢の内容を限りなく現実に近づける物だ。夢の内容までは左右出来ない」


「なるほど」


「では、そこに座って、そのメットをかぶって、少し待ちたまえ」


 言われた通りに、マシーンに座ってメットを被る。

メットは結構重いな。これ着けて寝たら首を痛めそうで怖いな。


「よし、起動するぞ!」


「…あ。てか、オレ、今眠くないんですけど」


「問題無い。催眠誘導装置も組み込んでいるからな」


「至れり尽くせりですね。でも贅沢を言えばメットの重さもどうにかして欲しかったです」


「要改善点として記憶しておこう。ああ、そうだ言い忘れていたが」


「何です?」


 あ、催眠誘導装置が起動してる…すげぇな、これ。

あっという間に眠れそう…


「さっき夢の中で怪我をしたらって話をしたな?このマシーンを使ってる間は本当にそうなる筈だ。つまり、夢で怪我をしたら怪我をするし、夢で死んだら、本当に死ぬぞ。注意したまえ」


「………は!?」


 こんな直前に言う事か!?

注意しろって…何をどう注意すりゃいいんだ!?


「ま、夢の内容は見れないが君の脳波や身体状況なんかは常にモニタリングしてる。危険な兆候を見て取れたらマシーンを止めて起こしてやるから、心配するな。じゃ、おやすみ。いい夢を」


 そんな不鮮明な情報頼りで安心できるか!

しかも見張ってるのがマッド先輩とか!何一つ安心出来ん!


 あ、ダメだ…もう、ね、る………







「…此処は…何処だ?」


 夢の中なのか?

確かにすげーリアル…殆ど現実と変わらないな。


 で、此処は…どっかの学校?

いや、オレが通ってた高校の教室か。

時間は…教室の時計によると朝七時半。


 オレ、こんな早い時間に教室に居た事なんかねぇよ。

取り合えず命の危険は無さそうだけど…ん?


「あ、お、おはよう…夢野君。来てくれたんだ」


「マッド先輩?」


 セーラー服を着たマッド先輩が教室に入って来た。

うん、そういうのはよく似合うよね、マッド先輩は。


 てか、オレも学ランじゃん。


「でも、なんでマッド先輩が?先輩もマシーン使ったんスか?」


「マシーン?何の事?」


 …ああ、そうか。

この先輩はオレの夢の中の先輩か。

つまり、この先輩に何をしてもリアルの先輩には何も影響は無い、と。


「という事は…何してもいいのか?」


「え?えっと…夢野君は何かしたい事があるの?」


「あ、ああいや…こっちの話。それで、何か用っスか?」


「えっと…て、手紙、読んでくれたんだよね…」


 手紙?何の事…あれ?さっきまで何も無かったのにポケットに何か入っとる。


「あ、手紙」


「そ、そう、それ…私が出したの…」


 何か、この先輩、現実の先輩と違ってオドオドして弱気な感じがして調子狂うな。

ええと、何々…明日、朝七時半に教室に来てください、ね。

なるほど。だからオレはこんな時間に教室に居た、と。


 しかし、この状況…どっかで見た事あるような?


「そ、それでね、夢野君…わた、私と…」


 こ、これはまさか!告白か!告白なのか!?


「ちょおっと待ったコール!」


「は!?」


「み、美神さん?」


 今度は可憐がセーラー服でやって来た!

こいつも元が良いから似合うな。

でも、微妙に改造してるのか?マッド先輩のセーラー服と微妙に違う。

ここら辺は夢だからこその整合性の無さで片付けて良いんだろうか?


「純一郎と付き合うのはあたし!純一郎もそのつもりだから、今、此処に居るんでしょ!?」


「へ?」


「ラブレター!読んでくれたんでしょ!?」


 ラブレター?そんなもん…あ、また何も無かったはずのポケットに何か入っとる。


「これ?」


「そう!それ!」


 ええと…好きです。付き合ってください、もしOKなら明日の朝七時半に教室に来てください」


「ラブレターだな」


「そう!こ、この時間に此処に居るって事はOKなんだよね…」


 なんかモジモジして照れる可憐も新しいな。

現実じゃ見れない顔だ。だってあいつ、レイヤーでかなりアホっぽい姿にもなってるし。

変に度胸もあるし。


「ま、待って…わ、私だって…」


「ダメ!純一郎はあたしと付き合うの!…ん?誰か来た?」


「今度は誰だ?」


「純一郎!来てくれたんだっ…ぶへあ!」


「お前だけは許さん!」


 よりにもよって今度は大輔かよ…いや、大輔が出て来るのはいいよ、この際。

だけど…


「な、何するの純一郎!」


「うるせぇ!何でお前までセーラー服着てるんだよ大輔!」


「当たり前でしょ!ウチは女だもの!あと、ちゃんと大輔子って呼んで!」


「ふっざけんな!何が大輔子だ!緩い設定で登場しやがって!脱げ!脱いでセーラー服に土下座しろ!」


「いやー!ここじゃいやー!」


「女口調やめろ!」


 何なんだ一体…こんな夢見るなんて、オレの深層心理には深い闇でもあるのだろうか。

…しかし、この状況…どっかで…


「ゆ、夢野君は私と…」


「純一郎はあたしのよ!」


「ウチのだもん!」


 いつの間にか女二人とバカ一人とで修羅場が始まっとる。

…修羅場?ああ!そうか!


「これ、しゅラバーの世界か!」


「「「しゅラバー?」」」


 つい最近、大輔に御薦めされてやってみたギャルゲー。

『修羅場から始まる恋愛戦争ラバーズウォー 高校編』通称しゅラバーのオープニングにそっくりだ、これ。

メインヒロイン三人が主人公に告白しようとするシーンから始まって…修羅場に発展。

主人公に誰を選ぶのか迫るものの、誰も選べない主人公に怒ったヒロイン達は怒ってしまう。

結局、その日は喧嘩別れしたって状況からどのヒロインを攻略していくのかってゲームだ。


 オレ、ギャルゲーとか基本やらないから勧められたからやっては見たけど、途中で止めたんだよな。


 しかし、このままだと修羅場になるのは確実そうだ。


「ゆ、夢野君!」


「純一郎!」


「誰を選ぶ、ぶほ!」


「取り合えず、お前は帰れ」


 大輔は当然脱落として。

これで問題は二択だ。


「ううむ…」


「ゆ、夢野君?」


「どっちを選ぶの?」


 どうする…身体は子供、でも天才なマッドサイエンティストな先輩か。

見た目はパーフェクト美少女。でも中身は重度のアニオタでレイヤーの可憐か。


 どっちを選ぶか………いや、これ夢なんだし、両方と付き合うって選択もアリなんじゃね?


「よし!二人共付き合おう!」


「「バカー!」」


 あれ?ダメか。

夢なんだから、そんな現実的な展開にならなくても…ん?


「なぁ、なんか外の様子がおかしいぞ?」


「え?」


「ほんとだ…なんかあちこちで煙が上ってる」


 誰か校門に来たけど…なんか様子がおかしいな。

…ケガしてる?いや、アレは…


「ね、ねぇ!あの人!首が折れて腕が千切れてるよ!」


「あ、足も折れてるのに、歩いてる…あんな状態で生きてるなんておかしいよ…」


 ほ、他にも集まって来たけど…もしかして、あれ全部…


「あれ、ゾンビか!?」


「ゾ、ゾンビ!?」


「う、うそ…何で…」


『うふふふふ…純一郎が悪いんだよ…ウチを捨てるから…』


「こ、この声は!」


「大輔子さん?」


 いつの間にか姿を消した大輔が校内放送してる。

何をするつもりだ?


『純一郎と付き合えない世界なんて滅んじゃえばいいんだ…このZウィルスで!』


「Zウィルス?」


『zombie virus!ウチが作ったこのウィルスで世界を滅ぼしてやるー!』


「急展開にも程があるだろ!」


 つ、つまり外からゾンビが向かって来るのは大輔の仕業か。

これって、もしかしなくてもマズい展開じゃないか?

ここでゾンビになったら…現実のオレもゾンビになるんだよな?


『ゾンビになりたくなければ屋上まで来てウチに愛を囁いて!そしたらワクチンをあげる!でもそこの泥棒猫は死んじゃえ!』


「誰が泥棒猫よ、この豚饅頭!」


『誰が豚饅頭よ!この万年金欠で人にたかるばかりの寄生虫女!』


 …恐らくは放送室に居る筈の大輔と何故会話出来るんだ?

いや、夢の世界でそんな理屈求めても無駄か。


 それよりも、今はこの状況をどう脱するか、だ。


「だ、大丈夫…私が夢野君を護るから」


「護るったって…マッド先輩にゾンビをどうにか出来るとは…」


「大丈夫…こ、こんな事もあろうかと、準備は万端。はい、これ」


「これは?…掃除機?」


「これを背負って…ソンビにノズルを向けてスイッチを押せばいいだけ」


「先輩?」


「そしたらギューってそこに吸い込まれるから。あ、持ち運びしやすいように背負って使えるよ」


「せんぱーい!?」


 ゴース〇バスターズ!?

ギャルゲーものからゾンビものに代わって次はゴースト!?

てかゾンビとゴーストって別物じゃない!?


「それなら私だって用意してるよ!」


「可憐?それは?」


「このカメラで撮影された幽霊はダメージを受けるの!何故か!」


 お前もか!

今度はホラーゲーム物か!


「あ、タイプライターもあるよ?」


「だから何だ…と、兎に角、移動しよう。ここは危ないから」


 流石にこの教室でゾンビの大軍に襲われたら一溜りも無い。


「校内には…まだ、ゾンビはいないようだな」


「そだね。でも注意していこう」


「う、うん…突然、窓ガラスを破って犬のゾンビが襲って来るかも…」


「フラグ建てるのやめてくれませんか」


 この校舎の構造がオレが通ってた高校に準拠してるとして…此処は一階だ。

なら、屋上へ続く階段があるのは…こっちだ。


「まだ早い時間だから学校に来てる人が少ないのが幸いしたね」


「そうだな…でも何人かは登校してるだろうし、先生だって何人か…」


 校舎内にどれだけのゾンビが居るのかわからないのは不安だな。

それと、武器だ。何か武器が欲しい。

こんな、使う相手を間違ってる武器じゃなく。


「あ、ねぇねぇ、武器庫で何か持って行こうよ」


「武器庫!?何で高校の校舎に武器庫が!?」


「な、何言ってるの、夢野君…高校に武器庫があるのは当たり前だよ…」


「当たり前!?なに、今って戦争でもしてるの!?」


「何言ってんの、純一郎は…兎に角、入るよ」


「鍵も掛かってないのかよ…」


 今度はミリタリー物に推移したんだろうか。

このハチャメチャっぷりは夢っぽいけども。


 いや?もしかしてオレの夢だからか?

あまりにリアルで忘れかけてたけど、これはオレの夢。

今、武器が欲しいと思ったから武器庫が出て来た?

な、なら都合よくゾンビに対して無敵になれるような武器があったりしてもいいんじゃ…


「これなんかどう?弾数無制限のロケットランチャー」


「それだ!」


 これならどんなゾンビも一発だぜ!

いやぁ、某ゲームでも最強武器だったよね、これ!


「こ、これなんかもいいんじゃない?」


「先輩?」


「よ、妖刀鬼斬り。持ち主に人外の力を与えてどんな妖魔も鬼も悪即斬…」


「せんぱーい!?」


 また別の何かが混じって来た!

今度は和風ホラーものか?いや、アクションもの?

どっちにしろ、これ以上チャンポンにしないで!


 …でも、一応持って行こう。


「よし、行こう………可憐?」


「ん?何?」


「どうしたの、それ」


「さっき着替えた。悪霊退治なら、やっぱコレでしょ!」


 …今更だけど、君達どっから出したの?

掃除機やらカメラやら。そして今度は巫女服ですか。


 どうして着替えシーンはカットしたのか小一時間ほど問い詰めたい。


「で…先輩?」


「私と言えばこの姿だろう?夢野君」


「そっスね…」


 マッド先輩もいつの間にか着替えて、現実の先輩と同じ白衣に変わってた。

ついでに口調も現実に準拠してるし。


「で、でたよ!悪霊が!」


「ゴーストが来たぞ!」


「悪霊なのかゴーストなのか、どっちだよ。…あ、同じか」


 しかし、あの悪霊…見覚えが…


『じゅゅゅんんんいいいちろぉぉぉぉ!!!』


「お前かよ!」


 何で大輔が悪霊になってんだよ!

お前、さっきまで放送室に居たんとちゃうんかい!


『あぁぁあいぃぃしてるうぅぅぅ!』


「そうか!だが成仏しろ!」


『あぁぁぁ…』


 取り合えず、例の掃除機で吸い取った。

しかし、大輔が悪霊になってたんならワクチンは一体どうなって…


「あ、また出たよ」


「今度は二体だな」


『『じゅんいちろろろろろろ』』


「何で大輔の悪霊がまた出て来るんだよ!」


 いくら夢だからってそこらへんの整合性はとれてくれよ!

オレって普段、こんな夢見てたっけ!


『『あいしてててて』』


「うるせぇよ!」


『『ぼえええ…』』


 今度は妖刀で斬った。

取り合えず、悪霊系はどうにかなるな。


「今度はゾンビだよ!」


『ニク!クウ!』


「またお前かよ!演技の幅広いな、お前!」


 大輔、兼ね役が多すぎませんかね!


「あたしに任せて、大輔!」


「おお!ロケットランチャーでフッ飛ばして…おい?」


「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!」


『ヒデブゥ!』


「美神神拳奥義!百裂突き!」


「ロケットランチャーの意味ぃ!」


 素手でゾンビを殴るな!

てか巫女服着てるならそれっぽいやり方があんだろ!

舞を踊るとかさぁ!


『ジュンイチロー!クウ!』


「また出たか!」


「ふふん。次は私に任せたまえ」


「はいはい…妖刀でいいですかって、ええ?」


『ホワァァァァ…』


「ふっ、異界送り、完了だ」


「あんた科学の徒だよな!?」


 何だっけ、それ。神楽鈴?

神楽舞とかで巫女が持つ鈴がついたやつ。

あれを取り出したマッド先輩が踊りだしたら直ぐに大輔ゾンビは消えるし。


 何なんだよ、もう…色々チャンポンし過ぎでもう何が混ざってるのかわからん。


「さぁ!屋上はすぐそこだよ!」


「一刻も早く大魔王を倒して世界を救ってしまおうじゃないか」


「屋上に行く設定は残ってるのに大魔王を倒しに行く事になってるんスね」


 で、その大魔王って大輔なんでしょ?

そして、大魔王を倒すというなら、オレらは勇者パーティーか?


「フハハハハハ!よくぞ此処まで辿り着いたな!霊能探偵よ!」


「勇者ちゃうんかい!」


 大魔王が大輔なのは予想通りだけども!

なんだよ霊能探偵って!なんで霊能探偵が大魔王倒しに来てるんだよ!


「もう間もなく世界は異界と繋がる!見よ、あの空を!」


「な、何?空が…不気味な雲に覆われて、紫色に…」


「何か黒い穴みたいなのもあるぞ?」


「あ、あれは次元の穴だ!アレが広がるとこの世界は異界と一つになってしまうぞ!」


「あ、最終的にそういう設定で落ち着くんスね?」


 もう最初のギャルゲー要素は微塵も感じられないな。

ゾンビ物ですらないし。


「世界を救いたければ我を倒すしかないぞ!どうする霊能探偵!」


「そうか」


「ぶべらぁあぁぁあ!」


 大魔王の恰好をしていても所詮は大輔。

妖刀の一撃で簡単に…お?


「そ、そそそそ、そんな攻撃、我には効かぬわ!」


「いや、めっちゃ効いてるやん」


 めっちゃ血ィ出てますやん。

まぁ、大魔王だしそう簡単には死なないのかな。


「次は我の番……ぷぎゃああああ!」


「おー…ロケットランチャーでもダメか」


 想像以上にしぶとい。

さて、次は何にするか。


「そ、そんな攻撃、我には効かんと言ってるだろう!我を倒せる武器はただ一つ!それは真実の愛トゥルー・ラブ


「お前がラブとか言うな。なんか腹立つ」


 しかし、それが大魔王大輔を倒す武器?

真実の愛とか言われてもなぁ。


「夢野君!」


「はい?むぐっ!?」


「う!うぉお!?そ、それこそは真実の愛!?」


 え?これが?

キスだよ?キスで死ぬのお前?


「てか、何をするんですか、マッド先輩」


「し、仕方ないだろう?大魔王を倒すのに必要なのは愛だったのだから」


「でも、まだ生きてますね、大魔王」


「じゃあ純一郎!あたしとも!」


「ま、まて可憐!むぐ!」


「ぐあああああ!」


 可憐とのキスで更に大魔王大輔は弱った。

だけどまだ死なないようだ。


「さぁ!止めだ、霊能探偵夢野君!」


「今こそ必殺の霊銃レイガンよ!」


「あ、霊能探偵ってオレだったんだ?」


 で、霊銃?

それってもしかしてアレか?

霊力を指に貯めて放つってアレ?

そんなんオレに出来るわけ…


「あ。出来た」


「それよ!」


「今だ!撃て!」


「ぶわっわあああああああ!」


 何か本当に撃てちゃった。

ま、何でもありの夢の中だしな。

オレが必殺技使えるくらい、当たり前か。


「ふ…我の負けだな…しかし、これで全て終わったわけではないぞ…いずれ第二、第三の大輔が…」


「いや、第二、第三の大輔どころかお前で七番目くらいだからね?」


「さ、最後に…カンちゃんのソロライブ見に行きたかった…」


「そこは本物の大輔っぽいな」


 大魔王になっても所詮は大輔だったか。


「あ、見て。空が…」


「元の青空に戻ったな」


「うむ。これで世界は救われたな…」


 …こっからどうなるんだろう?

もうこれ以上はお腹いっぱいなんですけど。


「さて、夢野君。君はそろそろ元の世界へ帰りたまえ」


「え?」


「君はどこか別の世界から来たのだろう?この世界を救う為に」


「え?そうだったの純一郎!?」


 いや、オレも初耳です。

此処に来て更なる追加設定ですか、マッド先輩。


「あら?何か身体が透けて…」


「時間切れのようだな。ありがとう、夢野君。この世界の人間を代表して礼を言わせてもらうよ」


「じゅ、純一郎…また会えるよね!?」


「そうだな。明日には会えると思うぞ」


 明日も講義だしな。

いや、ひょっとしたら今夜か?

帰ったらこいつ、家に居そうだなぁ…


「最後に夢野君。そっちの世界の私に伝えてくれ。素直になれ、と」


「へ?先輩?」


 そっちの世界ってどういう…






「あれ?」


「おはよう。気分はどうだい?」


 ここは…マッド先輩のラボ?

ああ、そうか、眼が覚めて戻って来たのか。


「気分は…問題ないっスね」


「そうか。身体的にも問題は無さそうだね。どうだった?夢の中は」


「すげーリアルでした。いえ、夢だけあって色々とメチャクチャでしたけど」


「まぁ夢とはそんなものだ。で、何か特殊能力がゲット出来たかい?」


「あ。そう言えばそんな目的でしたね」


 展開が色々と急展開過ぎて忘れてた。

しかし、特に超能力的なモノは………あ。


「お、おお!?何だい、それは!?」


「出来ちゃったよ………あ、消えた」


「夢野君!今のは何だ!説明してくれ!」


「今のは…霊銃です」


「霊銃!?あの霊能探偵が使う必殺技か!」


 あ、やっぱり知ってるんですね。

アレも結構古い漫画っスっけど。


「しかし、直ぐに消えたじゃないか。もう一度やってみてくれ」


「はい………ダメっスね。これが限界みたいです」


「ふむ…夢の中で得た能力を現実では完璧には再現しきれないという事か。まだまだ改良の余地がありそうだな。他には何かないのかい?」


「他には…あ、そう言えば、夢の中にマッド先輩が出て来たんスっけどね。夢の中の先輩に現実の先輩に伝言を頼まれましたよ」


「何?つまり私から私へ?ふむ、実に興味深いね。それで、伝言とは?」


「素直になれ、だそうです。何の事でしょうね……先輩?」


「……ど、どういう事だ…夢の中の私とはすなわち夢野君の意識の産物…つ、つまり彼は無意識下では気が付いていると?いや、本当はとっくに気付いて?いや、しかし…」


「先輩?せーんぱーい?」


 ダメだな、聞いてない。もう帰っていいのかな。


「よ、よし!わからない事はあと回しだ!夢野君!明日もまた協力をお願いするよ!」


「いいですけど…先輩はやらないんスか?先輩も何か欲しい能力があったから作ったんスよね、これ」


「そ、そうなんだが…私が操作する必要があるからな。君じゃこれを扱えないだろう?」


「そっか、そこらへんも今後の課題っスね。因みにどんな能力が欲しいんスか?」


「……………大人の身体」


「………………泣いていいっスか?」


 どうかマッド先輩の夢が叶いますように。






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初めて短編を書いてみました。

よければ御感想をお聞かせください。

好評なら連載版に変更するかもです。

よろしくお願いします。

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