ひかりにかえす

夜が明けて

 静かな朝のひかりが、彼の純白の髪に注がれていた。輪郭がひかりに溶けていて、祈りでも捧げているかのように美しい横顔だった。ちいさく名前を呼ぶと、暗がりにいた私を振り返った。「起こしちゃったか」ぺたぺたとはだしが近づく音とともに、ベッドまでやってくる。そして上半身だけ起こしていた私のすぐ隣に膝で立って、私の顔を両手に収める。彼の作った影が、私の顔に落ちる。「どうした?」と問う声はどこまでもやわらかくて、ひかりに背を向けているせいでできた顔の陰が、どうしようもなくかなしかった。「泣くなよ」その声が優しいほど、自分がどれだけ残酷なことをしているかを思い知る。「どこにも行かないから」その言葉に、手離さなければ、という衝動のまま突き放そうとする。けれど、彼はそうなる前に私の身体を抱き寄せる。「どこにも行かないから」繰り返される言葉に、絶望的なほどに安堵した自分がいた。

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